2014.12.24
FEATURE
科学や産業のイノベーションは国力に直結する。そのため各国は競い合うようにさまざまな研究開発の支援を行っているが、欧州連合(EU)では既に1950年代より欧州原子核研究機構(CERN)に代表されるように、さまざまな多国間の研究開発の支援に着手していた。1985年にはフランスのミッテラン大統領が提唱した欧州先端技術共同体構想「ユーレカ計画」によって、工業に焦点を絞った欧州独自の技術開発が進められた。
1984年には、多年次資金助成プログラムである「研究・技術開発枠組み計画(Framework Programme=FP)」が開始され、2013年まで7次にわたって、国際的な研究開発への助成を行ってきた。EU外にも広く開かれた第7次枠組み計画(FP7)を土台にして、さらに拡大強化した資金助成計画が「ホライズン2020(Horizon 2020)」であり、事実上のFP8であると捉えることもできる。2014年から2020年の7年間を対象とするこの計画は、世界に門戸を開いてきたFP7までの方針を引き継ぎ、強化することで、欧州の競争力を高めるとともに、知識主導型経済を推進することによってさまざまな課題を克服し、欧州に経済成長をもたらし、市民生活を改善することを目指している。
FP開始以前の欧州では、大学や研究所内での研究が中心で、内容や成果が国外で共有されることは少なかった。それがFPの資金助成は、EU加盟国または関連諸国3カ国以上から3つ以上の機関が参加することを義務付けているため、EU内の研究所の多くが今では国外に幅広いネットワークを持つようになっている。このようにEUの研究開発体制を確固たるものとすることに貢献してきたFP。これを引き継ぐホライズン2020は、7年で総額800億ユーロの予算を有する、EUのこれまでの研究・技術開発枠組み計画の中で最大規模を誇る計画となっている。
さかのぼること1年前の2013年12月11日、EUは、ホライズン2020における研究プロジェクトの公募をスタートした。発表の席上で欧州委員会のモイラ・ゲーガン=クイン研究・イノベーション・科学担当委員(当時)は、「ホライズン2020の資金助成は、欧州における研究とイノベーションの未来に不可欠であり、成長、雇用、そして生活の質の向上に貢献する。より多くの参加を募るため、面倒な事務手続きを省いた。研究者、教育機関、大企業、中小企業、その他多くに参加を呼び掛けたい」とホライズン2020にかけるEUの並々ならぬ思いを語った。
さまざまな意味で画期的ともいえるホライズン2020では、優先する分野として「卓越した科学」、「産業リーダーシップ」、「社会的課題」を掲げ、この3つの柱を中心に助成が行われる。
「卓越した科学(Excellent Science)」では、最先端研究と呼ばれる野心的な分野への助成を行う。これはEU域外の研究者たちも注目している分野だ。7年間の総予算は約244億ユーロで、そのうち130億9,500万ユーロが最先端研究のために欧州研究会議(ERC)を通して助成される。ERCは、競争を通じた資金助成によって、科学的な卓越性を基準としたさまざまな分野で欧州最高レベルの研究を支援している。研究者主導であることが大きな特徴で、ノーベル賞クラスの研究活動を多数支援してきたことで知られている。2014年にノーベル経済学賞を受賞したジャン・ティロール氏、ノーベル生理学・医学賞を受賞したマイブリット・モーセル氏とエドバルド・モーセル氏もERC支援で研究を続けてきた。日本では、東北大とフランスのグルノーブル大学を行き来する青木大教授をはじめ、これまでに14人の日本人研究者がERCの助成金制度を利用している。
放射線研究で2度ノーベル賞を受賞しているキュリー夫人の名をとった研究者育成制度マリー・スクウォドフスカ=キュリー・アクションズ(MSCA)を通しても、若手から経験を積んだ研究者まで幅広いステージの研究者向けの支援として7年間で61億6,200万ユーロが助成される。FP7の期間中に、これまでに欧州で活動する44人の日本人研究者が、フェローとして奨学金を受け取ったほか、国際研究スタッフ交換計画によって、日本の49の研究機関が206人の研究者を派遣している。
新進の有望な分野の連携研究を支援する未来および発展期にある技術(FET)プログラムという枠組みで、7年間に26億9,600万ユーロが提供されるのも画期的だ。FETフラッグシッププロジェクトとして採択された脳科学や、二次元物質「グラフェン」の研究などのコアなプロジェクトを支援し、同時にメンバー国同士の提携を進めながら研究努力を後押しする。プロジェクトの目的により、官民協力を通して産業別の資金が調達されることもある。次世代の原料と期待されるグラフェンの研究は、このようなプロジェクトの代表的な例である。
情報通信技術、ナノテクノロジー、高度製造技術、マテリアル、ロボット工学、バイオテクノロジー、宇宙などの産業でイノベーションを高め、競争力を強化し主導的立場を確保するため、7年間で約170億ユーロの予算が組まれている。 産業リーダーシップにおいて大切なのは、有望なテクノロジーに集中的に投資して確実な成果を得ることだ。スマートフォン、高性能バッテリー、軽乗用車、ナノテクノロジーと医学、生命科学、生物学などとを融合させて高度医療を実現するナノメディシン、生体情報の計測などにも用いられる先端繊維のスマートテキスタイルなどもホライズン2020の注目分野である。現在、欧州の製造業は3,100万人を雇用しているが、産業に対し将来的にGDPの3%まで投資を増加することによって370万人の雇用を生み出すことを目指している。
7つの社会的課題(Societal Challenges)に取り組む革新的なプロジェクトを支援。約297億ユーロの助成が行われる。基礎研究、イノベーション、社会科学的な研究までを幅広く網羅し、研究をあくまで課題解決に利用することに主眼を置く。指定された各分野と助成額(7年間の総額)は下記の通り。
保健、人口構造の変化および福祉(74億7,200万ユーロ) |
食糧安全保障、持続可能な農業、水産業及びバイオエコノミー(38億5,100万ユーロ) |
安全かつクリーンで、効率的なエネルギー(59億3,100万ユーロ) |
スマートな輸送、環境に配慮した統合型の輸送の開発(63億3,900万ユーロ) |
気候問題への対処、環境、資源効率および原材料の研究(30億8,100万ユーロ) |
包括的、イノベイティブで、思慮深い社会の構築(13億900万ユーロ) |
欧州と欧州市民の自由と安全を守る研究(16億9,500万ユーロ) |
以上の三本柱に沿った支援対象の指定は2年ごとに行われ、2016年~2017年の詳細は2015年7月に発表される。先進国である日本は、EUの掲げる課題の多くを共有している。どのプロジェクトも日本の研究者に門戸が開かれており、トピックやプロジェクトによっては特に日本からの参加を目標にして呼び掛けているものもある。
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