2016.11.28
FEATURE
PART 1では、欧州で起きている移民・難民危機の現状を紹介してきた。PART 2では、人権擁護の基本理念の下、移民・難民問題の根本的な解決に向けたEUの取り組みを紹介する。
EUに到達する難民の多くは、飲料水や食料や休める場所など基本的な物を必要としている。EUは2015年と2016年に難民危機に対処するため、EU予算から約100億ユーロを拠出。加えて2016年5月より、ギリシャに滞在している5万人の移民と難民に、最も急を要する人道援助プロジェクトに資金を提供している。
また、EUはトルコ、レバノン、ヨルダン、イラクなど、EU域外の国々に滞在する移民と難民への人道援助も行っている。中でも、トルコは250万のシリア人を含む約300万人の難民を受け入れており、トルコ国内の難民を支援するために、EUとその加盟国は2016年から2018年の間に、専用の基金を通して60億ユーロを投じる。
EUは地中海での人命救助と捜索体制を向上させ、密航あっせん犯罪の壊滅を目指して、資金、スタッフ、設備や装備などを増強してきた。2015年は利用可能な資源をこれまでの3倍に増やし、25万人以上の人命を救助することに貢献した。2016年6月には、EUの対外国境・沿岸警備と管理を強化するために、EU加盟国が新しい欧州国境沿岸警備隊の創設に合意し、10月に欧州国境沿岸警備機関が発足した。
これは欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の権限を強め、名称を変更したもので、独自の人員と装備を備えることで、対外国境での業務を迅速に遂行することが可能となる。現在の人員は400人ほどだが、2020年には約1,000人体制を目指す。2016年の予算は2015年のFRONTEXに充てられていた額の倍の2億3,800万ユーロで、2020年は3億2,200万ユーロを見込むなど力を入れている。欧州国境沿岸警備隊は同機関の下、EUの対外国境の管理および安全強化を図るという重大な役割を担っている。
また欧州警察機関(ユーロポール)は、新たに欧州移住者密航センター(European Migrant Smuggling Centre=EMSC)を開設し、組織的な密航あっせんに関わっている犯罪ネットワークの解体を目指すEU加盟国を支援することにしている。
EUの執行機関である欧州委員会の提案に基づき、EU加盟国は、ギリシャとイタリアにいる庇護希望者16万人を2017年9月までに他のEU加盟国へ移送させることに合意した。11月14日時点でギリシャから5,654人、イタリアから1,570人の合計7,224人がフランス、オランダ、ルーマニアなどの加盟国へ移送されている。各国政府は、同計画の早急なる推進に一層の努力をしなければならない状況となっている。
またEUは庇護を求めたい人々が、密航あっせん業者や人身取引業者に頼り、命懸けの旅をしなくても済むように、安全かつ合法的にEUに入ることのできる道を提供しようとしている。EU加盟国によって合意された自主的再定住計画は、2万2,500人をEU域外から加盟国へ移送させることを想定したものだ。
また、EUでは、有効な旅券や身分証明書を持たずに域内に不法滞在する域外国の人々の送還を円滑に進めるため、2016年10月、EU加盟国共通の「送還のための欧州旅券(European Travel Document for Return)」についての規則を採択した。同規則は特に、旅券の形、偽造防止策、技術的仕様などを共通化し、通過国などの第三国の認証を容易にすると同時に、発給にかかる時間やコストなどの手続き上の問題を解消する。
共通旅券の発給や、航空便の手配などによって、EUは、非正規滞在者に対する基本的人権は守りつつも、今後のさらなる流入を抑制し、移民・難民政策への信頼と妥当性を確かなものとしようと努めている。
PART 1の最後で触れたように、2016年3月、EUとトルコは、後者から非正規に海を越えてギリシャの島々に到達した移民や庇護希望者をトルコに戻すことを可能にする合意をした。非正規に渡ったシリア人1人を送還するたびに、そのような渡航を企てなかったシリア人難民1人をトルコから合法的にEUに迎え入れるというものだ。ギリシャの島々からトルコへの送還開始と同時に、トルコからEU加盟国への航空機での直接移送も始まっている。
トルコは、シリア難民がEUに向かう主要ルートの通り道でもあることから、EUの難民政策において大きな役割を担っている。この合意に先立ち、EUとトルコの間で2015年11月「EU・トルコ共同行動計画 」が採択されており、EU・トルコ間の関係発展と、移民・難民危機の管理への貢献をうたっている。EUはトルコと協力し、トルコ国内に留まっている多くのシリア難民に対し、資金を含む人道援助を提供することを約束した。一方、これらの行動計画や声明の合意に際し、トルコは、トルコ人のEUへの査証(ビザ)なし渡航を求めている。
EUは、ギリシャとイタリアに受け入れセンターを設立し、両国当局が、大量な移民・難民流入に対処できるよう支援している。専門家を派遣し、到着する人々の登録手続きを助け、在留要件に見合わない者を出身国へ送還する調整を行っている。
またEUは、移民や難民の出身国や経由国との連携も模索している。これは、人命を救助し、非正規移民の送還者数を増やし、移民や難民がより自国に近い所に留まることができることを目指している。また、ひいては長期的な視点で、非正規移住の根本的な要因を解決できるよう、これらの国々における開発を支援することにつながる。欧州委員会は、2021年までにこれらの取り組みに80億ユーロを投じることを提案している。
EUは共通庇護政策策定を目指し、1999年に政策づくりに着手したが、そこでのルールは、短期間にこれほど大規模な難民の流入を想定していなかった。そのため、欧州委員会では、現在および将来の状況に対処できる方向に、既存の法律を改正する新しい提案をしたところだ。最初に到達したEU加盟国で庇護申請する(ただし、すでにその国以外の加盟国に家族がすでに定住している場合を除く)――という原則は踏襲しながらも、特定の加盟国に負担が偏る場合は、EU内での連帯と公平な責任分担が求められている。
難民危機の解決への道のりは長い。短期的には、目の前で起こっている大量流入に域外国とも協力しつつ現実的に対処しながら、中・長期的には、国際社会とともに紛争解決や開発支援の努力を続けるほかに道はないだろう。排他的な風潮が強まりつつ今日の国際情勢の中で、人道と人権を重んじるEUの今後の動きに、世界が注目している。
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