2015.11.26
EU-JAPAN
2015年11月13日から3日間、日本科学未来館など東京・お台場地域の6会場で開催された科学フォーラム「サイエンスアゴラ」(主催:科学技術振興機構)に、駐日欧州連合(EU)代表部が初めて出展し、科学技術、イノベーション分野における日欧研究協力を紹介する展示や、サイバー社会や公的研究の役割などをテーマとしたセッションなどを行った。2015年5月の日・EU科学技術協力合同委員会で採択された共同ビジョン(PART1参照)において、市民参加の促進と日・EU 協力をさらに可視化するアウトリーチ活動の重要な役割が認識されており、サイエンスアゴラへの参加はまさにそれを受けた活動となる。PART 2では、サイエンスアゴラの出展風景とともに、日欧の専門家の意見交換の模様などを紹介する。
科学技術振興機構(JST)がさまざまな科学コミュニティと連携して主催する「サイエンスアゴラ」は、科学と社会をつなぐあらゆる人に開かれた広場(=アゴラ)のことで、子ども向けの理科実験からトップ科学者との対話や市民参加の科学討論まで、誰もが参加できるイベント満載の日本最大級の科学フォーラム。出展者は企業、大学、研究機関、行政機関など。2006年の初開催以来、10回目を迎える今年の来場・出展者数は9,145人、出展ブース数127(主催者発表)に上った。
10周年記念大会となった今年の「サイエンスアゴラ2015」は、①「ひかり」を通して見る人類の歩みと未来 ~原始から原子まで~、②サイバー社会とは何か?、③2020年の社会をつくる ~第5期科学技術基本計画の目指すもの~――の3つのテーマを設定。これら話題を中心にした講演会や展示、パネルディスカッションなどが行われたほか、13日の開幕セッションでは、2014年ノーベル物理学賞を受賞した天野浩・名古屋大学教授による「青色LED研究に見る日本の大学の社会貢献のためのこれからの方向性」の特別講演もあり、3日間を通じ各会場は多数の来場者で賑わった。
EUにとって日本との協力は戦略的な重要性を持つことから、駐日EU代表部は加盟国や日本のパートナー機関の協力を得て、今回初めてサイエンスアゴラに出展した。EUブースのテーマは「ヨーロッパライトハウス」。国連が定めた「国際光年」(2015年)にふさわしいテーマだ。日本科学未来館に開設したブースでは、欧州における光に関連する最新の研究から、光が持つ可能性とその研究が私たち人類にもたらす効果、そして世界、自然界に対する理解促進や社会への貢献について紹介した(14、15両日)。
科学未来館1階に設置されたEUのブース「ヨーロッパライトハウス」では、欧州にあるシンクロトロン(円形加速器)や自由電子レーザーの施設を取りまとめる「CALIPSOプロジェクト」の模型やパネルのほか、先駆的な欧州の光関連施設や日本のパートナー機関のポスターが展示され、さらに、各機関を代表して英国、イタリア、フランス、ハンガリーおよび日本国内から集結した専門家による説明も受けられるようになっていた。また異なる種類の電球を分光器で見ることで波長の違いを体験したり、シンクロトロンの模型を使って仕組みを理解したりするコーナーもあり、子どもたちにも科学技術を身近に感じてもらえることができた。
ブースの近くのステージ「ヨーロッパライトステージ」では、日欧国際共同研究に関するいくつものトークイベントが行われ、欧州や日本での光に関するさまざまな研究について、国内外の研究者が海外からのライブ映像も交えて発表を行った。
駐日EU代表部は、全体で7つ開かれたアゴラキーノートセッションの一つも担当、14日午後に科学未来館7階のホールで「サイバー社会の未来:欧州・日本の見解」と題したセッションを開催した。フランス国立科学研究センターのフィリップ・コドニェ北アジア(日本・韓国・台湾)地域事務所所長がモデレーターとなり、パネリストには欧州側から欧州委員会通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG CONNECT)のニコル・ドゥワンドル・アドバイザー、フランス国立科学研究センター(CNRS)およびパリ第6大学のラジャ・チャティラ教授が、また日本側からはソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明取締役所長、早稲田大学の橋本周司副総長、名古屋大学情報文化学部の久木田水生准教授らが登壇し、講演や意見交換、聴講者を交えての質疑応答が行われた。
セッションは2部構成となっており、第1部ではサイバー社会の未来をテーマに全般的な講演があった後、オンライン上の自身の人格・存在の進化、ますます近くなるヒトとインターネットのつながりと、そのつながりが人間同士の関係や信頼にもたらす影響やプライバシーなどについて意見交換が行われた。第2部では、主にロボティクス、とりわけヒューマノイド・ロボットを中心に日欧の専門家が研究成果を発表。ロボットが感情を抱いたり、個性を備えたりするかもしれない未来を予想し、「なぜ人に似せてロボットを作るのか?」という根本的な意味合いに加えて、「それは私たちにとってどういう意味があるのか?」などについてディスカッションした。聴衆からも専門的な質問が出るなど活発なやりとりを経て、「私たち人間は変わらないという前提に立っていては今後の発展には限界があり、私たちも、ロボットも変わっていき、その関係性も進化していく視点で未来に向けてよりよい発展を模索していくべき」という意見に、参加者はみな賛意を示していた。
このほか、同じ科学未来館7階ホールで行われたステージセッション「公的研究とその役割―ヨーロッパ・日本の未来社会の形成に向けて」では、OECDグローバルサイエンス議長の永野博教授がモデレーターとなり、内閣府総合科学技術・イノベーション会議の原山優子議員、ユーロサイエンス(科学技術に関する欧州の市民団体)事務局長のピーター・ティンデマンス博士、在日英国大使館のエリザベス・ホグベン科学技術部長、駐日EU代表部のレオニダス・カラピペリス科学技術部部長らのパネリストとともにディスカッションが行われた。
まずは日欧の科学政策についての比較にあたり、原山議員からまもなく策定される日本の第5期科学技術基本計画について、またその関連で、カラペピリス部長からEUの研究・イノベーション枠組み計画「ホライズン2020」についての解説があった。続いて、ホグベン科学技術部長およびティンデマンス博士から、英国および欧州の現在の取り組みについての紹介があった。その後、世界トップクラスの研究に対する支援およびそれが世界の科学の進展にどのように寄与するか、国際化の重要性、熾烈化する科学界における競争と研究費の獲得、そしてそのような環境における若手研究者育成の必要性、オープンサイエンス、責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation = RRI)などについて活発な意見交換が行われた。
なお、15日の閉幕式では、国際共同研究の推進と若手研究者の活用を紹介したEUの「ヨーロッパライトハウス」が、サイエンスアゴラの共催団体の一つ独立行政法人日本学生支援機構より東京国際交流館賞を受賞。サイエンスアゴラ2015は、大盛況のうちに閉幕。来年の開催へと大きな期待をつなぐ形となった。
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