2015.11.26
EU-JAPAN
駐日欧州連合(EU)代表部は、10月3日、国立京都国際会館(京都市)で「第6回EU・日本科学政策フォーラム」を開催した。これは、同会場で毎年世界中から科学政策分野の指導層が集まって催される「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)」に合わせて、駐日EU代表部が政策研究大学院大学(GRIPS)と共催で行っているものだ。PART1では、同フォーラムの模様を紹介しながら、科学技術分野における最新の課題や取り組みなどについて報告する。
EUと日本は 2009年に「科学技術協力協定」に調印し、同協定は2011年に発効。これを受けて、科学技術政策に関する情報・意見交換や双方の研究プログラムへの相互参加などを討議する場として、「科学技術協力合同委員会」が同年6月に設置された。同委員会は本年5月に、新たな戦略的パートナーシップに関する共同ビジョンを採択した。このように科学技術分野での日・EU協力強化が進む中で、駐日EU代表部が毎年開催しているのが、「EU・日本科学政策フォーラム」である。
第6回を数える本年のEU・日本科学政策フォーラムのテーマは、「加速的変化の時代における科学技術イノベーション政策のためのフォーサイト(予測)」。今日、科学、技術、イノベーションの統合は、「モノとデジタル技術の一体化」、「自動走行システム」、「新しいエネルギー源」、「新素材」、「革新的な食品生産システム」、「医療ビッグデータ」といったさまざまな変革をもたらしている。しかし、こうした変化があまりにも急激に起こっているため、デジタルシステム同士の過度な結びつき、人間のアイデンティティー、プライバシー、雇用、社会的結束などの面で懸念材料があることも確かだ。
今回の討議の目的は、変化が加速し、デジタル化の統合が進む時代にあって、各国政府、議会、助成機関、研究・学術機関が、科学技術イノベーション政策によって、いかに未来を予測し、先手を打ったやり方で次世代に向けた準備を整えるか、また新時代への適応を始め得るかを考察することであり、それは今後の優先課題と行動指針の設定の参考となった。ともに2020年まで続くEUの研究助成プログラム「ホライズン2020」と、日本がまもなく策定する「第5期科学技術基本計画」の下、双方の政策は未来を見据えている。
フォーラムは昨年同様、昼食セミナーで開会し、EU加盟9カ国と関係国2カ国の代表を含む、政・官・学界の科学技術分野の第一人者44人のほか、ほぼ同数のオブザーバーが出席。ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使は歓迎の辞で、「科学とイノベーションは、EUと日本の関係を強化する上で中心的な役割を果たすものだ」と強調。続いてGRIPSの上山隆大副学長が「研究の重点が、科学からイノベーションへとシフトしているため、関与する者の裾野が広がり、視野も幅広くなっている」と述べた。さらに、STSフォーラムの創設者兼理事長である尾身幸次元科学技術政策担当大臣からは、「科学が人間社会の課題解決のために活用されるためには、より広範な分野から識者が参加することが必要だ」との提言があった。
討議では、最初に欧州議会の科学技術選択評価委員会(STOA)委員長であるポール・ルビック氏、日本の総合科学技術・イノベーション会議の原山優子議員、欧州委員会共同研究センター(JRC)のハビエル・トゥルサード氏の3氏が、科学技術政策立案におけるフォーサイト(予測)の活用とその重要性について語った。
まずルビック氏が、次世代に備えるため、欧州では人口動態の変化、資源保全、情報コミュニケーション技術(ICT)の潜在的能力、健康的な生活スタイル、などに関する調査が近年多数実施されていることに言及。この中で、社会を「全体」であると同時に「一人ひとりの市民」として捉えることが重要視されているとし、フォーサイトの役割はそのための選択肢を提供することであり、また実際にそのプロセスを支援する、と述べた。
原山議員は、日本の政策立案者たちも、戦略とシステム全体を見渡す視点をますます重視しつつある、と述べた。日本政府の第5期科学技術基本計画(2016年~2020年)は、次世代の産業や社会に備え、社会・経済的でグローバルな課題に応えるものになる、と説明。同議員はまた、未来に向けた政策立案の責務は、適切なデータ、ツール、方法を選択し、各分野の専門家に参加を呼びかけることであるとし、予測研究と新たな研究尺度(メトリクス)が必要である、と提言した。
続いてトゥルサード氏は、欧州委員会はフォーサイトで長年の経験があるが、その中で学際的な交流と多様な人材参加の必要性を感じている、と発言。また、フォーサイトは単に未来志向の道具ではなく、アイデア拡散とマインドセット転換のツールである、と述べた。さらに、フォーサイト展開の上で、学習と実験、市民側からの実験への参加、 一つの課題に対して複数のシナリオを準備し、それぞれに対して成果を予測するアプローチが重要である、とした。
プログラム後半では、フォーサイトを「提供する側」と「活用する側」の両サイドを代表して、日欧の7人の専門家が実践例を紹介。その後、さまざまなテーマで広範なディスカッションが展開された。
中心となったのは、「新しい発見を前もって予測することはできないが、若い世代のスキルと能力を期待する方向で育て、新発見の可能性を高めることができる」という見解だった。次世代のスキル養成には、若手研究者対象の研究プロジェクトの新設、研究に関わるプロジェクトマネジャーの育成、また、その他の職階においてもスキル開発を導入することが有効になる、との意見が出された。
また、支援を受けた研究プロジェクトへの理解を深めるため、通常はプロジェクトに付随して発生するクラスタリングとインタラクションなどのデータ分析手法が採用されているが、それでも予想外の現象はどこにでも発生する、との発言があった。その例として、グーグルが小規模ソフトウェアとして始まったにもかかわらず、現在では万人が利用する汎用ツールにまで成長したことなどが挙げられた。
さらに、一般市民の参加が重要であり、科学を社会にもっと活用していく努力が必要である、とのコメントがあった。フォーサイトにおいて社会学と人文科学が重要な役割を果たせること、また人文社会学の研究が内省的なものではなく、より問題解決型になるべきではないか、との指摘が出された。
以上、フォーラムの全プログラムにわたり、フォーサイトが未来に向けての選択肢を提供できる、また関与する者の考え方に影響を与えることができる、という見解が強く打ち出された。このほか、フォーサイトは若い世代のスキルセットや教育を考える際に有効なツールとなること、新技術と分析論によって新たな学習の機会が生まれ、広範にわたる学際的な関与が一層求められている、との意見が主流だった。さらに、予想外の現象にオープンであるべきである、フォーサイトの結果に対する市民の関与が重要である、政府の規制と科学技術の革新がどのように相互関連しているかについても理解を深める必要がある、といった意見も多数の参加者に共有された。
昨年のテーマは「オープンサイエンス」
昨年10月に開催された「第5回EU・日本科学政策フォーラム」では、「サイエンス2.0:変革する科学」をテーマに討議が行われた。サイエンス2.0とは、「オープンサイエンス」、すなわち、めまぐるしいIT技術の進化、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)とビジネス向けSNSならびにビッグデータの台頭、国際化、および情報共有の文化が、科学界にもたらしつつある新しい流れを指す。
フォーラムでの話題は、研究成果の評価や、分野によって異なる研究スタイルやサイエンス2.0の影響、論文やデータへのオープンアクセス、プライバシーと倫理的課題、新しい助成手段、市民参加型の科学、一般社会との関わり方、研究協力のあり方など、科学の未来に関して多岐にわたった。
この討議を受け、フォーラム終了2カ月後の昨年12月には日本側が「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」を総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)内に発足。その報告を基に、「オープンサイエンス推進に関するフォローアップ検討会」を新設した。一方、駐日EU代表部でも、同検討会の第2回会合に出席したレオニダス・カラピペリス科学技術参事官が、EUのオープンサイエンス政策と欧州での実践例などを紹介している。このように日・EUの政策立案者は、さまざまな場を通じ科学技術、イノベーションの発展に向け対話を重ねている。
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