2012.11.14
FEATURE
欧州委員会で経済・通貨問題を担当するオッリ・レーン欧州委員会副委員長が10月に日本で開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会に合わせて来日した。欧州が債務危機を乗り越えるには何が必要なのか? レーン副委員長は、ユーロ参加国の構造改革を訴えた。
―現在の危機を克服するのに欧州連合(EU)が取り組むべき課題は何ですか?
EU加盟国は財政の安定と競争力の強化に向け懸命に努力しています。ですが高い失業率や欧州の多くの国での不況など困難な経済状況は各国の取り組みをさらに難しくしています。
このような状況下では投資家そして消費者の信用の回復が最重要な課題です。信用の欠如が金融市場の不安定な状態を長引かせ、ひいては成長の可能性を損なっています。信用の回復にはEU加盟国はより強力な製品、活発な労働市場の創造に向けた構造改革を推進すると同時に、持続可能な財政の基盤を作るために、健全な財政政策を実行する必要があります。我々は、必要とあれば、市場をすぐにでも安定させるためにユーロ圏諸国が最近創設した恒久的金融安全網「欧州安定メカニズム(ESM)」などの仕組みを効率的かつ柔軟に使い、このプロセスを後押しできます。脆弱な立場にある国を市場の過剰な圧力から守るこういった仕組みは、これらの国の改革の手を緩めるためではなく、改革をやりとげる環境を作るためなのです。
同時に経済通貨同盟(EMU)の再建も続ける必要があります。過去2年間、ユーロ圏における経済ガバナンスの改善に向け、多くがなされてきました。現在は銀行同盟も含めより統合された財政・経済政策を伴う枠組み――「EMU 2.0」と私は呼んでいますが――の創設に向けた話し合いが始まっています。
―ギリシャの債務危機の解決に向けて残る課題は何でしょうか?
ギリシャは2010年の経済調整プログラムの開始以来、一般に考えられている以上に多くを成し遂げてきました。2010年から12年までの財政調整の合計額はギリシャの国内総生産(GDP)の7パーセント以上に達しています。ギリシャ経済を変革し、競争力の強化と雇用の創出に向け広範囲に及ぶ分野――公務員制度、徴税制度、保健医療、製品・サービス市場、雇用制度や年金など――で構造改革が合意されています。改革は実を結びつつあります。ギリシャ企業のコスト競争力は高まり、徴税制度は全面的に近代化され、保健医療分野の支出では過度に高価な薬品から患者の治療改善へと支出が切り替わりつつあります。
ギリシャはいまだに厳しい状況にあります。ギリシャ国民の置かれている困難な状況は十分認識しています。ですが進行中の改革は繁栄や成長、そして雇用創出へと戻る道を開きつつあります。重要なのは現在のギリシャ政権が本年の発足以来見せてきた決意を持ち続けることです。経済調整プログラムを推進させ、合意された政策の実施に伴う課題に取り組み、投資家にギリシャの変革を納得させるという困難な仕事の継続が必要なのです。
―欧州中央銀行(ECB)が担ってきた主な役割は物価の安定でした。ECBが、2013年1月1日導入の提案がなされているユーロ圏を対象した単一銀行監督制度(SSM)で中心的な役割を果たすとすれば、ECBの権限の大幅な拡大となります。この変化に問題はないのでしょうか?
ECBが金融政策の責任を十全に果たすには、一元的な銀行監督の役割が必要であることが最近の情勢により明らかになりました。ECBがEU全体を監督するにふさわしいのにはいくつかの理由があります。第一に、各国の国益に左右されない、欧州全体を考慮した監督制度がECBによって実現できます。ソブリンリスク(国の信用リスク)と銀行を切り離すのにこの点は非常に重要です。第二に、ECBの持つに専門能力により金融の安定に対するリスクが十分考慮されます。第三に、ECBの金融政策と監督の権限の分離が欧州委員会の提案にある監督制度の原則によって保証されています。さらにECBは監督権限に関し欧州議会とEU加盟国の財務担当大臣に対し報告義務を負います。EUの基本条約のひとつである「欧州連合の機能に関する条約」に記されているように、ECBへの監督機能の移譲を可能にする確固とした法的根拠も存在します。
―通貨の切り下げができず、国内経済の調整(内的減価)には何年もかかる状況下で、ユーロ圏の周辺国は中核国に対し再び競争力を得ることができるのでしょうか? 周辺国が賃金を下げ、国内経済の調整を長期間にわたり継続する場合は、この痛みを伴う調整の政治的・社会的コストに対処できるのでしょうか?
賃金は国の競争力に大きな影響を与えるものの、唯一の要因ではありません。EU加盟国は閉鎖的な業界を開放し、労働市場の流動性を高め、ビジネスに関する手続きを簡素化するなど、構造改革の促進により競争力を高められます。狙いを定めた投資も必要です。欧州委員会は、財政再建が必要であっても将来の成長のために重要な分野、例えば教育、研究、IT基盤などへの投資は削減すべきでない、と主張し続けてきました。
ユーロ圏は依然として緩やかな不況にあり、来年も緩やかな回復しか期待できませんが、危機以前の10年間に積み上がったマクロ経済での不均衡が徐々に是正されつつあります。経常収支の赤字を積み上げてきた国がコスト面での競争力を着実に回復しつつあり、その結果、輸出の増加と経常収支の改善が見られます。経常収支で赤字を抱える国だけではなく、製造が消費を上回っている国でも調整が進んでいます。例えばドイツでも最近の労使交渉の合意で平均の賃上げ率が4.8パーセントになる見込みです。
欧州全体がよりさらに迅速な経済調整によって恩恵を受ける立場にあります。とは言っても欧州委員会は多くの人々が困難な状態にあることを十分承知していますし、ユーロ圏そしてEU全体のバランスのとれた経済成長や雇用創出を促進する環境の整備に向けてあらゆる手立てを講じています。
―副委員長は欧州議会の経済金融問題委員会でのスピーチで、さらなる財政統合が必要であり、これは何年もかかって徐々に進むプロセスである、と明言しました。財政統合はどこまで進める必要があり、そして政治的にどこまで進めることが可能でしょう? そして各国の有権者は財政の権限を手放すでしょうか?
近年、EU全体が経済・財政政策面でかつてなく協調すると同時に、ユーロ圏内でも経済的に弱い立場にある国が改革を進める間に市場を安定させる仕組みが作られました。中でも特筆すべきは、ユーロ圏が欧州安定メカニズム(ESM)という強固で恒常的な防護手段を使えるようになったことです。
より野心的な手段も検討されています。欧州レベルでは経済・通貨統合を進める作業が続きます。現在進行中の幅広い議論から生まれるであろう「EMU 2.0」は1999年に始まった制度とはかなり違うものとなるでしょう。これまでの危機を教訓に、欧州はユーロの基盤強化に必要な大胆な作業を進めているのです。
EU各国の首脳・政府は、金融・経済政策のより深い統合を伴う真の経済通貨統合に向けて、期限を定めた工程表を12月に作成すると合意しています。この作業には信用、投資、成長の回復を妨げる要因となっている銀行と国家の間の悪循環を断ち切る銀行同盟の設立も含まれます。これらの改革は広範囲にわたる変化をもたらすと可能性があると同時に、ユーロ圏の意思決定に対する民主的な裏付けを強めるという点でも重要なのです。
(レーン副委員長はEU MAGの質問に10月18日書面で回答を寄せた)
欧州安定メカニズム(ESM)発足(EU MAG 10月号 EU NEWS)
「EMUとは何ですか」(EU MAG 8月号 QUESTION CORNER)
より良い雇用を目指して(EU MAG 8月号 FEATURE)
ユーロの試練は続く(EU MAG 7月号 BEHIND THE NEWS)
「欧州債務危機への対策相次ぐ」(EU MAG 2月号 BEHIND THE NEWS)
2024.12.27
Q & A
2024.12.25
FEATURE
2024.12.24
FEATURE
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.24
FEATURE
2024.12.25
FEATURE