2015.7.31
FEATURE
「地球に食料を、生命にエネルギーを」をテーマに、5月1日に開幕したミラノ国際博覧会(ミラノ万博には、最初の2カ月で既に600万人が訪れた。前売り入場券は1,650万枚販売されており、会期中に2,000万人の入場者を見込んでいる。Part 2では、夏休みに入り多くの家族連れでにぎわう現地から、欧州連合(EU)や加盟国のパビリオンの様子を中心に報告する。
万博会場は、古代ローマ時代の都市設計に倣い、2本の広い通りが十字の形に交差し、通り沿いにパビリオンが並ぶ、すっきりしたレイアウトで設計されている。高さ37メートルのシンボルタワー「生命の樹」は、会場北端にある池の中心にそびえ立つ。
会場には東・西・南の3つの門がある。南には中央門と野外シアターがあり、そこから北に向かって主催国イタリア館群が並ぶ。西門から入れば、箱舟を思わせる万博テーマ館「パビリオン・ゼロ」(食糧生産の歴史を展示)に、東門から入れば、緑に囲まれた大きな丸太小屋のようなスローフード館(地産地消を奨励する組織による展示)に迎えられる。
塗装を施さない生成りの木材を用いた建物が目につくのは、閉会後にリサイクルやリユースできる建築素材の使用と、省エネに配慮した設計を主催国イタリアが強く要望した結果だ。パビリオンの内外には参加国の料理を提供する屋台やレストランが数多くあり、「世界の味」を試食できるのも楽しい。
EU館の展示テーマは「より良い世界のために、欧州の未来を共に育てよう(Growing Europe’s Future Together for a Better World)」。科学とイノベーションを駆使して、「食糧と栄養の安全保障」という複雑な問題に取り組むEUの姿勢を、誰にもわかりやすい、楽しい展示プログラムを通して解説する。インタラクティブ(双方向対話的)な体験を介して、問題意識を共有してもらうことに主眼が置かれている。
モダンなデザインのEU館は、シンボルタワー「生命の樹」とイタリアのメインパビリオンの前という一等地にある。展示の目玉は、短編アニメーション映画『The Golden Ear(黄金の穂)』だ。主人公は、「黄金の穂」村で農業にいそしむ優しい青年アレックスと、幼い頃から科学に興味を持ち、研究者になった都会っ子シルヴィアの若い二人。不思議な巡り合わせで二人が結ばれていくアニメは、世界中の誰からもわかるように、台詞はなく音楽が場面をつなぎながら展開していく。
自分の畑で育てた、良質な麦と蜂蜜を地元の顧客に届けるアレックスは、栄養価の高い食品を省エネかつ持続可能な方法で生産しようというEU政策に沿った農業を行っている。シルヴィアは、EUの途上国向け食糧・飲料水供給支援プログラムの研究スタッフとして、科学を用いて世の中を良くしたいと夜遅くまで働いている。ほとんど共通点がないように見える二人だが、自分の人生には何かが欠けているという満ち足りない気持ちを抱える点だけは同じだった。
違いを越えて惹かれ合うようになった二人は力を合わせ、村の農業をより良くすることに取り組む。ここには、科学と農業が手を携えることこそが世界の食料問題解決の鍵、というEUからのメッセージが込められている。シルヴィアがパンを焼くシーンでは、焼きたてのパンの香りが画面から漂うなど特殊効果も楽しめる。
アニメ映画を見た後はインタラクティブパネル展示に進み、発展途上国が抱える食料問題やEUが行う支援策と成功例について丁寧な解説で知ることができる。最後に、EU加盟国のさまざまな名物パンのレシピカードやポスターがもらえる。入場者の列ができる廊下には、食の象徴である麦とパンをモチーフにした展示とともに、EU統合の歴史が描かれ、EU自体についても理解を深めてもらおうという工夫が施されている。
アニメ映画の中でシルヴィアが働いている研究所は「ジョイント・リサーチ・センター」とされている。これは、EUの執行機関である欧州委員会の研究機関「共同研究センター(Joint Research Centre=JRC)」という実在の組織で、今回の万博で、特別展示プログラム全体の取りまとめ役を行っている。JRCはEUの政策づくりと実施に必要な、科学的調査と技術面におけるサポートを提供するほか、手法、ツール開発や基準の作成、学術機関や民間企業などとの共同研究を実施している。ブリュッセルに本部を置き、EU域内に7つの研究開発拠点を持つが、その一つが万博会場から約60km離れたイタリア・イスプラにある。イスプラのビジターセンターでは、万博開催中、アニメ映画と連動して科学と食物について学習体験ができる「シルヴィアの研究室」が特設されている。
マルチメディア展示と並行し、JRCは欧州委員会各部局や欧州議会とともにEU館内の会議場で、会期中150もの討論会やイベントを開催する。万博のメインテーマに呼応し、食糧問題をめぐる科学的議論を促そうという取り組みだ。さらに、未来の食糧安全保障に関連する研究とイノベーション分野でのEUの役割は何かというテーマで、オンライン協議が行われている。世界中から募った意見をまとめ、世界食料デー※1前日の10月15日に勧告を発表する予定になっている。
欧州の食文化に共通する最も重要な穀物、「麦」をキーワードとした展示には、訪れる人に共感をもたらし、問題への興味を喚起する。そして会議場からは、斬新な意見やアイデアが日々、発信されている。EUが繰り広げる活動が広く一般に紹介される好機を最大限に活かしたEU館展示は、地球規模の食料問題についての認識を高めるという大役を果たしている。
ミラノ万博 EU-Japan Day 万博の参加各国・地域は会期中の一日を自身のナショナルデーとして割り当てられ、特別な催しを行う。日本のナショナルデー「ジャパン・デー」は7月11日で、EUはそれに合わせて10、11日の両日、ミラノ市内のステッリーネ宮殿会議センターで、食品関連産業等における日本とEUのビジネス交流の促進を目指した「ミラノ万博におけるEU-Japan Day」というイベントを開催した。 日本とEU間のビジネス振興支援機関である日欧産業協力センター(EU-Japan Centre for Industrial Cooperation)と日本貿易振興機構(JETRO、ジェトロ)が欧州委員会と共催した同イベントでは、経産省の石黒憲彦経済産業審議官や、欧州委員会域内市場・産業・起業家・中小企業総局のダニエル・カレハ・クレスポ総局長、駐日EU代表部通商部のティモ・ハマレーン部長らが参加したセミナーや、日欧企業間のネットワーク機会の提供が行われた。 セミナーでは200名以上の参加者に対し、対日投資、日本市場への進出や事業拡大を考える企業への進出サポート内容が説明された。参加者からは、日本での成功事例やノウハウなどの具体的な事例に接し、「日本で事業展開するための実践的知識を得られた」という感想が聞かれた。 |
EU加盟国では、19カ国※2がパビリオン出展。ここでは万博テーマと関連性のより強い一部の加盟国のパビリオンと日本館を紹介する。
木箱を積み上げた建物の中は、EU全28加盟国の旗が飾られたシンプルな内装の展示室になっている。「欧州が一つになって平和を作ること」が、ポーランド人にとっていかに大切かを力強く訴えるアニメーションが好評だ。スピーディに紹介される紀元前から現在までの歴史の中で、繰り返されてきた戦いの数に圧倒される。欧州統合が進むにつれ、安心して住める明るい社会が出現するエンディングは感動的だ。続いてポーランドの名産リンゴの栽培や食品加工にさまざまなテクノロジーが関与していることを紹介。安定土壌の上で、食品が輸出の要となって経済が成長している様子が理解できる。
首都リュブリャナが本年の「欧州グリーン首都賞」(European Green Capital Award)※3を受賞したスロヴェニアは、旧ユーゴスラビア連邦共和国から独立して24年目の若い国だ。
万博への参加は、国の存在とEU加盟国であることを世界にアピールする機会と捉えている。欧州で最も厳しい自然保護規制に守られた山々や森林が自慢だ。地方名物料理の数々やワインも紹介され、地産地消による豊かな食生活を見せてくれる。
来場者とドイツの食糧生産者やシェフを結び、さまざまな立場から提案される食糧問題への解決法を、シミュレーション体験できるプログラム。各自に渡される「シードボード」と呼ばれる段ボール紙を情報エリアの光にかざすと、紙面がスクリーンとなって動画やイラストなどが映し出される。指でそのスクリーンを触ると、興味ある情報をさらに探ることもできる。インタラクティブな工夫をこらした展示を通じて、土、水、気候と生物多様性について学べるようになっている。
バイオ技術を駆使し、土や太陽光に頼らずに栄養価の高い青果物を量産する「野菜工場」や、食料としての昆虫や海藻の養殖などを展示。展示エリアよりも、木のデッキが気持ちよい屋外休憩スペースの方が大きく、ベルギー産ビールや名物のポテトフライを楽しむ人で賑わう。ここでも、伝統の味に使われる食材の持続可能な供給について考えてもらうことを目指している。
上半身が鳥で下半身が自動車というオブジェが飾られたプール。ここで水浴びのできるチェコ館は「人は地球という車の乗客でしかなく、車を運転するのは自然だ」というメッセージを投げかける。「沈黙の実験室」では、顕微鏡を通して、生きた植物の細胞が訪問者の足音に敏感に反応する様子を見せてくれる。「人生の実験室」では、生物化学やナノテクノロジー、加盟国中でも先進的なチェコの水の浄化技術を、環境保全ばかりでなく、人や動物の福祉に活用している様子を紹介する。
石化した森をイメージしたという白い建物の素材は、イタリアで開発された、大気汚染を吸収する光触媒素材コンクリート。4階建てのビルを網のように覆っている。屋根は同じ素材のガラス発電パネルが覆う。一本の木を「命の象徴」として中央にあしらい、その周りでイタリアの名産品から芸術までを「生命にエネルギーを与える要素」としてぎっしりと展示しているのが圧巻だ。
釘を使わない立体木格子という伝統技工で作られた木造のパビリオン。「いただきます、ごちそうさま、もったいない、おすそわけの日本精神が世界を救う」というサブメッセージを掲げ、日本の食文化が食糧問題解決にどう貢献できるかを訴えている。鮮やかなコンピューターグラフィックを用いた四季や和食のプレゼンテーションに加え、衛星を使った農地管理など、バラエティに富んだ展示が訪れる人を唸らせる。
※1 ^ 世界の食料問題を考える日として、1979年、国際連合食糧農業機関(FAO)の第20回総会決議に基づき、1981年から世界共通の日として制定された日で、毎年10月16日。世界の一人ひとりが協力しあい、最も重要な墓本的人権である「すべての人に食料を」を現実のものにし、世界に広がる栄養不良、飢餓、極度の貧困を解決していくことを目的とする。
※2 ^ オーストリア、ベルギー、チェコ、エストニア、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、リトアニア、マルタ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロヴァキア、スロヴェニア、スペイン、英国の19カ国(英語表記アルファベット順)
※3 ^ 欧州グリーン首都賞については、EU MAG 2013年6月号の政策解説をご参照ください。
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