2012.6.12
FEATURE
欧州連合(EU)は、開発援助を重要な外交手段と位置付けている。このことは、欧州委員会委員の担当構成を見てもよくわかる。EUの対外関係は、外務大臣に相当する外務・安全保障担当上級代表を兼任する副委員長のほか、3人の委員が担当しており、そのひとりが開発担当委員だ(このほかには国際協力・人道援助・危機対応担当、拡大・近隣政策担当の委員がいる)。現在、EUの開発政策は、アンドリス・ピエバルグス開発担当委員の下、EuropeAidと呼ばれる欧州援助協力・開発総局において実施されている。
EUの開発政策の目的は、国連がミレニアム開発目標(MDG)に掲げる貧困の削減をはじめ、人々の発展につながる持続可能な成長、そして良きガバナンス(法の支配、民主化、人権擁護)を推進することで安定した国際社会を構築すること。2010年の援助額は合計約538億ユーロで、世界の援助総額の5割以上を占め、世界トップ。これはEU予算から拠出される政府開発援助(ODA)と、加盟国がGDPの規模に応じた額で積み立て、アフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国および加盟国の海外領土向け援助に用いられる欧州開発基金(European Development Fund=EDF)、そして加盟国独自で行う二国間ODAを合計した額だ。欧州委員会は加盟国と援助効果の原則を定め、二者間援助の計画・実施段階において調整を行い、援助が偏らずに、被支援国のニーズや戦略に合った効果が出るよう工夫している。
2010年国別ODA額
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1位
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米国
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301億5,400万ドル
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2位
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英国
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137億6,300万ドル
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3位
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フランス
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129億1,600万ドル
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4位
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ドイツ
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127億2,300万ドル
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5位
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日本
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110億4,500万ドル
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出所: 経済協力開発機構(OECD)
EUの援助は、開発途上国向けだけではない。欧州統合の目的である平和と安定をより確かなものにするため、EUはこれから加盟しようとする国々や、EUの近隣諸国への支援も行っている。
1)潜在的候補国や加盟候補国への支援(Instrument for Pre-accession Assistance=IPA)
政治面、経済面でEUの基準に合わせていくためのインフラや法の整備。2007~2013年の対象国は、アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、アイスランド、コソボ、モンテネグロ、セルビア、トルコ、マケドニア。
2)EU近隣諸国への支援
近隣諸国の安定はEUの安定に不可欠である。政治面、経済面、社会面での改革で制度を整え、平和と安定、経済の繁栄を促進する。この結果、政治的なつながりを強め、EU基準で単一市場にも参入できるようになる。欧州近隣諸国政策(European Neighbourhood Policy=ENP)は、東方と南方地中海地域の合計16カ国が対象国で、この政策の下で行われている支援プログラム(European Neighbourhood and Partnership Instrument=ENPI)には、ロシアも含まれる(地図)。
2010年12月にチュニジアで起こり、南方の近隣諸国に拡大した民主化を求める反政府抗議デモ「アラブの春」に対してEUは迅速に対応し、2011年9月には、これらの国々の体制移行に必要な支援パッケージを発表した。
3)開発途上国への支援
国連のMDGを2015年までに達成し、国際社会に安定をもたらすため、EUは貧困削減を重視した支援を行っている。これには、ACP諸国79カ国を支援する枠組みが含まれる。
日本のODAが途上国の経済活動に対する借款を行うのが主流であるのと対照的に、EUの開発援助の特徴に、国家予算への補助があり、2010年は援助総額の24%(※1)を占めている。これには、途上国の国家開発戦略への一般予算補助と、特定の部門を支援する部門予算補助の2種類がある。一方で、ここ数年で手法について見直し、補助金や借款を織り交ぜた革新的な方法に転換を図っている。
もうひとつ特徴的なのは、経済の停滞と加盟国財政ひっ迫の中、開発援助の1ユーロたりとも無駄に使われることのないよう、援助効果を高めることに注力していることだ。2011年10月発表の欧州委員会の政策文書「変革のための課題(Agenda for Change)」では、持続可能な開発を行うためには、「良きガバナンス」 が不可欠であることが強調されている。
最後に、EUの取り組みの中で主要な5点を紹介しよう。
1)援助を受ける国との貿易が受益国の財政や経済に大きな影響を及ぼすことから、通商政策と開発政策には連関性がなければならない。貿易のための援助(Aid for Trade)は、途上国が世界の貿易システムに入るための環境を整え、貿易を通じて貧困を削減するという考え方だ。このために政策立案、貿易促進、投資の奨励、関連インフラの支援などを通じて貿易を拡大できるよう支援している。
2)環境、エネルギー、気候変動、食糧安全保障、安全な飲料水へのアクセスと管理といった分野のまたがる開発援助はEUの経済成長戦略「欧州2020」をはじめとする他の戦略や政策と一貫性を持たせる。このほか、税制・財務、移住問題や安全保障面での政策も開発政策と密接にかかわってくる。2012年4月には、2030年までにすべての人にエネルギーへのアクセスを行き届かせるよう支援する“Energizing Development”イニシアチブを発表。国際連合の本年の国際年テーマ「すべての人に持続可能なエネルギーを」に合わせ、2年間で5,000万ユーロを新たなEUの技術支援プログラムに割り当てることを提案、さらに途上国の持続可能なエネルギーへの投資支援も検討している。
3) 政治的に不安定な国々(脆弱国)に対する支援では、紛争予防につながるような政策に資金援助を行うことが重要である。また、紛争後の国家支援は特に肝心で、選挙監視は民主化を進めるための支援の一例だ。アフリカでは、アフリカ連合(AU)の平和維持活動に資金を拠出することで、地域の安全保障に協力している。
4)加盟国との調整と同様、EU以外の支援国との協調は援助効果を上げるために大きな意味を持つ。EUは、OECD、国連、G8やG20といった場で、他の支援国や国際機関と援助政策の調整を行っている。例えばアフガニスタンの政情不安はタジキスタンにも広がるなど、国際社会の懸念が続く。2012年7月8日のアフガニスタンに関する東京会合は、主催国日本に加えて、国連、EUが主な調整者となる予定で、日・EU関係においても重要な意味を持つ(Part 2参照)。EUからはピエバルグス開発担当委員が出席、日本側との二者会談も行われる予定だ。
5)欧州委員会は、途上国の世界経済への統合、食糧安全保障、気候変動、移住と安全保障といった主要分野で、他の政策との一貫性についての実績評価を実施し、2014~2020年の援助予算計画案を出している。
2011年にキャサリン・アシュトンEU外務・安全保障担当上級代表率いる対外行動庁が発足し、対外関係に関して新しい体制を備えたEUは、欧州委員会を中心により効果的な開発援助を通しても、地域や世界の安定のために貢献を続けていく。
ピエバルグス委員の来日
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本年、欧州委員会の開発担当委員は二度来日する予定だ。まずは7月にアフガニスタンに関する東京会合に出席、10月には国際通貨基金・世界銀行年次総会(IMF・世銀総会)にクリスタリナ・ゲオルギエヴァ国際協力・人道援助・危機対応担当委員およびオッリ・レーン経済・通貨問題担当委員とともに出席予定。 開発担当委員は、対外関係に影響を及ぼす支援の配分先について政治的な決定を行うことから、その責務は大きい。開発分野での日本とのさらなる協力が生まれていくことが期待される。 |
(※1)^ EU予算とEDFからの約束額の24%で18億ユーロに相当。
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