2017.4.28
FEATURE
3月25日、欧州連合(EU)27カ国の首脳らがローマに集い、EUの将来に関する議論の道標となる「ローマ宣言」を採択。新しい欧州に向けて動き出した。PART 1では、ローマ宣言の紹介とともに、EUの将来像を市民と考えるべく欧州委員会が公表した『欧州の将来に関する白書』から、まず現状と課題を探る。
EUの礎を築いた「ローマ条約」の調印60周年を迎えた3月25日、英国を除く27のEU加盟国の首脳および欧州議会・欧州理事会・欧州委員会の長がローマに集い、この先数年にわたるEUの共同の展望を示した「ローマ宣言」を採択した。
ローマでの首脳会合に先立つ3月1日、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長が、欧州市民や各界の指導者たちが英国離脱後の27カ国から成るEUの将来像を議論するためのたたき台となる『欧州の将来に関する白書』を発表した。この白書は、60年の実績と現状を分析した上で、2025年までにどのようなEUとなっているかについて「5つのシナリオ」――1)これまでどおり進める、2)単一市場のみ進める、3)希望する加盟国はさらに進める、4)領域を絞り効率よく進める、5)さらに多くを共に進める――を提示している。ローマ宣言の採択は、この欧州の将来像を議論するプロセスの第一歩である。
宣言では、「われわれが築き上げてきたのは、共通の諸機関と確固たる価値を有する、世界に二つとない連合であり、平和、自由、民主主義、人権および法の支配を保障する共同体であり、比類のない社会的保護と福祉を備えた大経済圏である」とEUの存在意義をうたい、これまで培ってきた実績を評価している。
また、直面している地域紛争、テロ、移民・難民の急増、保護主義、社会的・経済的不均衡といった諸問題を挙げ、「共に、刻一刻と変わる国際情勢に取り組み、EU市民に安全と新しい機会をもたらす決意である」と表明した上で、「EUはこれまでと同様、同じ方向に進みながら、必要に応じて異なる速度と程度で共に行動する」、「EUは分裂していないし、分かたれることはない」とEU27カ国の結束を強調した、力強く前向きな意思を表す内容となっている。
宣言は激変する時流の中で、市民の利益となるよう、主要な政策領域における共通の行動を強化していくことを宣誓した上で、今後10年のうちにEUが目指すべき4つの目標を「ローマ・アジェンダ(目標)」として掲げた。首脳陣は、「これらの目標を実現するには、欧州が一丸となって主体的に行動するのが最善」との確信に基づいて、EU加盟各国の議会や市民を十分に巻き込み、ローマ・アジェンダを実行に移して欧州の未来を共に作り上げていくことを誓った。
ローマ宣言は、今後の欧州が目指す将来像を限定するものではない。『欧州の将来に関する白書』で始まった議論のプロセスを前に進めるためのものである。ここでは、議論の前提として白書が指し示す、EUの現状と課題に触れておく。
白書はまず、今日の多くの欧州市民がEUに対して「自分とは関係のない遠い存在」「自国の決定権を奪われている」「恩恵は何もない」「期待を裏切られた」などと感じているとの懸念を示しつつも、「自分のために、子どもたちのために、欧州のために、われわれはどのようなEUを作りたいのか」を今こそ主体的に考える時であると強く訴えている。以下、幾つかの項目ごとに、現状分析を紹介する。
【高齢化】
現在のEUの人口は5億人を超える。20世紀初めに、世界総人口の4分の1を占めていた欧州では、高齢化・少子化がいち早く進んでいる。2030年には、世界で最も高齢化の進んだ地域(中央値45歳)となり、2060年までに欧州の人口は世界全体のわずか5%以下になることが予測されている。
【経済】
経済面では、ユーロはドルに次ぐ世界の基軸通貨となったが、相対的重要度の低下は明白になっている。2000年代前半には、世界の国内総生産(GDP)の約26%を占めていた欧州だが、2030年には20%以下に落ち込むとされる。2008年に起き、1930年前後の「世界恐慌」と同レベルの不況と失業をもたらしたリーマン・ショックから、ようやく抜け出しつつあるものの、立ち直りの度合いは地域差が大きい。若年層の失業率が高まり、「世代から世代へより豊かになる」という第二次世界大戦後に欧州が掲げた社会経済モデルは破綻しつつある。
【国際情勢】
国際情勢を見ると、中東やアフリカでの紛争やテロ、各国の軍備増強などにより、国際的な緊張が急速に高まっている。武力ばかりでなく、サイバー攻撃などからも市民社会を守り、安全を保障しなければならない。
【人道援助・研究開発など】
今日、EUは世界最大の開発・人道援助提供者であり、EUの研究とイノベーションに関する7カ年計画である「ホライズン2020」などを通じて最多の多国間研究開発資金を提供している。一人ひとりの可能性を最大化する平等な社会でも世界をリードし、再生エネルギー技術に関連する国際特許の40%を持ち、エラスムス留学制度などで次世代への教育や訓練にも投資を行っている。国連の持続可能な開発目標や気候変動抑制に合意したパリ協定でも、EUは大きな役割を果たしてきた。
【安全保障】
しかし、こういったソフト面での国際貢献だけでは安全保障を確固たるものにできない時代に突入している。第二次世界大戦以降、極めて自由で安定的な平和を実現してきた欧州だが、昨今のテロ多発や膨大な移民・難民の流入によって、市民の安全への懸念が急速に高まっている。EU加盟国間ではいかに結束して市民社会の安全を守り、責任を分担するか、また国境管理や加盟国間の自由な移動はどうあるべきかなどが、あらためて活発に議論されるようになっている。
EU域内外に広がる安全保障への不安は、行政・機関に対する無関心や不信、不服を生み、ポピュリズムや国粋主義の台頭をもたらしている。ユーロバロメーター(欧州委員会が行う世論調査分析)によれば、EUの「安定」を評価する割合は全体の66%を占め、「4つの自由(人、物、サービス、資本の自由な移動)」を評価する割合は全体の81%と高く、さらに共通通貨ユーロはEU市民の70%に支持されている。だが、EUへの支持率は10年前の約50%から約30%に低下している。これは農業政策や交通網整備、教育や訓練などの幅広い領域にわたってEUが深く関与・投資してきたことを正確に伝える努力が十分に行われてこなかったことによる部分が大きい。一方、失業政策などではEUとしての施策には限界があり、実質的な対策は加盟国の責任であることもさほど理解されていない。
昨今のように情報があふれている時代においては、速やかに信頼を再構築し、帰属意識を培うのは容易なことではなく、欧州もEU加盟国も市民に対して素早く対応しなければならない。課題は山積みだが、欧州は常に難局を乗り越えて前進してきたことを鑑み、これを好機と捉えて前向きに考え、改善しながら前進すべきであると白書は提言している。
PART 2では、『欧州の将来に関する白書』の中核を成す5つのシナリオをより詳しく解説する。
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