2012.3.30

FEATURE

未来への投資:EUの教育政策

未来への投資:EUの教育政策
PART 2

グローバルな学術交流を提供する「エラスムス・ムンドゥス」プログラム

欧州連合(EU)の教育・学術交流の機会は、日本を含めた世界の教育機関と学生にも開かれている。欧州委員会教育文化総局の「エラスムス・ムンドゥス(Erasmus Mundus)」プログラム担当であり、日本・韓国・東南アジアを所管しているウィリアム・アイチソン担当官にこうした国際教育・学術交流プログラムについて、話を聞いた。

―EUには域内の学生交流プログラム「エラスムス」があり、大きな成功を収めています。さらに範囲を拡大して、EU域外の国々の学生にも開かれた「エラスムス・ムンドゥス」をスタートさせたのはなぜですか?
アイチソン担当官:エラスムス・ムンドゥスを始めた目的は、エラスムスの成功を背景に、国際協力を通して世界各地から有能な学生・研究者を招くことで欧州の高等教育の質を高めることにあります。エラスムス・ムンドゥスは、域外国と欧州諸国との高等教育機関の提携を支援して、お互いの専門性を学び合うことを促進します。

© European Union, 2012

―エラスムス・ムンドゥスとは、具体的にはどのようなプログラムなのでしょうか。
担当官:対象になるのは、学生および教育機関と教職員です。まず、域外の学生はエラスムス・ムンドゥス修士課程または共同博士課程プログラムのどちらか希望する奨学金に応募できます(アクション1)。奨学金の応募は通常、希望するコースが開講する前年の秋に受付開始となり、希望するコースのコーディネーターに直接申し込むことになります。詳細は各コースのウェブサイトに掲載 されています。

また、EU域外の教育機関は、エラスムス・ムンドゥス修士課程または共同博士課程プログラムにパートナー機関として参加できます(アクション2)。つまり、欧州の提携機関と正式に共同でプログラムを設計、提供でき、これらプログラムを通して学生や教職員を相互に受け入れることができるということです。エラスムス・ムンドゥスの提携関係は、長年にわたる学術協力の実績があり、互いの強みを把握している大学間でのコンソーシアムという形で成功しています。

中国・インドに比べ、応募者の少ない日本

―これまでの日本からの参加実績はどうなっていますか。中国やインドなど、ほかのアジア諸国からの応募と比べてどうでしょうか。
担当官:日本からの参加は、アクション2についてはかなりの成功を収めています。今のところ5つのエラスムス・ムンドゥス修士課程プログラムと3つの共同博士課程プログラムに日本の大学が参加しています。また、49人の日本人大学教員がエラスムス・ムンドゥス修士課程コースで教えるための助成金を受給しています。その一方で、アクション1に応募する日本人学生は非常に少ないのが現状です。2004年以降、奨学金受給者は全世界で12,000人以上になりますが、そのうち日本人学生はたったの33人です。

エラスムス・ムンドゥスへの参加がもっとも多いのは中国とインドです。奨学金受給学生数は中国出身では1,160人、インドからは1,400人を超えています。エラスムス・ムンドゥス修士課程で教えるための助成金を受給した大学教員は中国では159人、インドでは129人です。エラスムス・ムンドゥス修士課程・共同博士課程に参加している大学の数は日本とインドでほぼ同数ですが、中国の高等教育機関は54のエラスムス・ムンドゥス修士課程と4つの共同博士課程でパートナー関係を結んでいます。

コースでの使用言語ができれば応募可能

―留学を考えている日本人にとっては語学が高いハードルとなっています。外国語を2つ習得するというEUの言語政策は域外からの留学生にも適用されるのでしょうか。応募者にはどの程度の語学能力が求められますか。
担当官:「母語+2言語」という言語政策はEU加盟国だけに設けられた目標です。従って、EUで学ぼうとする域外の学生には適用されません。エラスムス・ムンドゥスの応募者は、学びたいコースで用いられる言語に堪能であることが求められ、また、少なくとも留学先の国の言語については、学ぶことが奨励されています。

―エラスムス・ムンドゥス以外にも日本から参加できる学術協力プログラムはありますか。
担当官:EUは日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を対象とした、カリキュラム開発と学生・教職員の移動を支援する大学間共同出資プロジェクトを推進しています。日本政府との間には、この制度が発足した2002年以来、6つのプロジェクト(2002年と2003年に各1件、2008年と2009年に各2件)を実施済み、もしくは実施中で、のべ44の高等教育機関、377人の学生と66人の研究者の参加を得ています。本制度の下、今後も日本政府の出資に期待しています。

日本で情報収集できるイベントを5月に開催

―今年5月上旬に日本で初めての欧州留学フェアが東京と神戸で開催されるそうですね。
担当官:欧州留学フェアは欧州と日本の大学が一堂に会し、パートナーシップの可能性を話し合ったり、欧州への留学に関心のある日本の学生にとって、疑問や不安を解消するのにうってつけの機会です。日本も欧州も共に高いレベルの高等教育制度を有していますから、両者の協力拡大と学生・大学関係者の交流増進を図る余地は十分にあります。今回のフェアがうまくいけば、今後年一度のペースで開催していきたいと思っています。

(2012年3月上旬、ウィリアム・アイチソン(William Aitchison)欧州委員会 教育文化総局 生涯学習・高等教育局国際協力プログラム課 エラスムス・ムンドゥス班 日本・韓国・東南アジア担当ポリシーオフィサーにメール取材)

詳細情報
エラスムス・ムンドゥス・プログラム (英語)
2012年公募について
欧州留学フェア

日本人参加者の声

登 久希子さん(写真右端)

「ヨーロッパ」を領域横断的に研究するユーロカルチャーという修士プログラムに在籍していました。これは、ヨーロッパの2つの大学において16カ月間で修士号をとるというもの。私の場合は、ポーランドのヤゲウォ大学とオランダのグローニンゲン大学に在籍しました。インターンシップを含めた刺激的かつ実験的なプログラム、そして充実した奨学金制度のおかげで、関心のある研究テーマを、自由に集中して掘り下げることができました。さらに、現地の学生だけでなく、欧州内外からやってきたクラスメイトとの交流も、研究により多角的な視点をもたらしてくれたと言えるでしょう。国際機関等での仕事を目指すにしても、学術的な職を目指すにしても、このようなプログラムで学んだことはさまざまな場面で活かすことが出来るのではないでしょうか。エラスムス・ムンドゥス・プログラムに参加したことで、学術研究に大きな価値を認め、そこに多大な力を注ぐEUを肌で感じることができました。

登 久希子 (のぼり・くきこ 2008年~2009年に参加)

 

関連情報
ヨーロッパ誌2008年夏号 「エラスムス・ムンドゥス計画――高等教育分野におけるEU域外との交流」
ビデオ 「Erasmus Mundus – the first year」(英語、フランス語)

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