2015.2.25
FEATURE
2014年11月に誕生したジャン=クロード・ユンカー委員長率いる新欧州委員会は、2019年10月末までの任期中にEUの改革を推進する決意を表明している。ユンカー委員長自身、かつて通貨統合に尽力したことなどから「ミスター・ユーロ」とも呼ばれ、ユーログループ議長(ユーロ圏財務相会合の常任議長)としてリーマン・ショックに端を発した欧州債務危機への対応を主導した。2014年7月に欧州議会に提出した政治指針には、欧州が直面している政治的課題の解決目標が列記されている。中でも特に重要なのが、「雇用」、「経済成長」、「投資」の促進だ。
新体制が始動した直後の2014年11月26日、ユンカー委員長は、その指針に基づきEUの成長と雇用増大を目指す、総額3,150億ユーロ規模(2015年2月のEU公式レートで約42兆305億円)の投資計画を発表した。
この「ユンカー・プラン」とも呼ばれる「欧州投資計画(Investment Plan for Europe)」に提案されている措置をすべて合算すると、今後3年間でEU全体の国民総生産(GDP)を3,300億~4,100億ユーロほど押し上げるとともに、最大で130万人の新規雇用が創出されると欧州委員会は見込んでいる。
世界的な金融危機以来、EUは域内・外からの投資の低迷に苦しんできた。この状況を反転させ、欧州経済を上昇軌道に乗せるには、欧州全体の組織的な協働が必要である。欧州委員会は、近年の投資の弱体化が、EUにおける経済危機からの回復を不安定なものにしており、特にユーロ圏でそれが顕著だと分析している。2014年第2四半期のEUのGDPと個人消費は、2007年当時と同じレベルであった。しかし投資額だけを見ると、ピーク時だった2007年より4,300億ユーロも少ない。特に減少が顕著な加盟国はフランス、英国、ギリシャ、イタリア、スペインで、この5カ国だけでEU加盟国総減少額の75%を占めている。
2013年のEU投資額はGDPの19.3%で、景気変動が激しかった期間を除く平均値よりも2%ポイント低かった。これは現在のEUの投資レベルが、これまでの基準値よりも2,300~3,700億ユーロほど下回っていることを意味する。そもそも投資の不足は、短期的に見れば経済回復の行き詰まりを、また長期的には成長と競争力に打撃を与え、欧州の成長、生産力、雇用水準などの向上に足かせとなる。投資の低下は、2007年~2013年のGDP下落の原因ともなり、米国の投資ペースについていくためには、2012年~2013年に5,400億ユーロの追加投資が必要だったと試算されている。世界の他の主要地域の経済状況と比べても、また過去の不況時(1993年~1997年)と比べても、EUの回復は足踏み状態にあるといえる。
それでは、なぜEUでは投資が伸びないのか。主な理由は、投資家の信頼が低いことにある。経済や政治状況への不信と、EU域内の高い債務額、さらに、それがもたらす信用リスクのせいで、特に長期的な投資を必要とする社会インフラ整備などのプロジェクトや、中規模企業および中小企業まで資金が回らない。こういった疑念が産品やサービスへの需要に対する期待を低く押しとどめ、金融市場が分断されて、投資を触媒するのに必要なリスク負担能力を十分に提供できなくなっているのだ。
EU総予算が比較的少額(EU全体の国民総所得の約1%)なため、リスク負担能力の強化にEUの公的資金を使うには限界がある。EU予算には、その限られた規模の中で、民間投資を呼びこむ触媒になるという役割が期待されるが、これは他の資金源を利用したり、健全な投資環境を作るための規制改革によって補完されなければならない。実際、債務危機真っ只中の2011年に比べ、現在は金融機関や企業には十分な資金の流動性がある。にもかかわらず、問題はこの流動性が生産的に生かされていないところにある。これこそが今般の投資計画によって是正すべき課題であり、解決のためには多面的な行動を同時に起こす必要がある。
EUの政策金融機関であり、欧州戦略投資基金(EFSI、後述)のパートナーである欧州投資銀行(EIB)のヴェルナー・ホイヤー総裁は「欧州には流動性があるが、投資は十分ではない。我々は信用危機に直面しており、魅力的な事業に民間資金を結びつけることが課題となっている。これを達成するには、さらなるリスクをとり、投資を呼びこむように働きかけなければならない」と語る。
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