2023.11.23
EU-JAPAN
地球全体で、都市は世界のエネルギーの65%以上を消費し、CO₂排出量の70%以上を占めている。同時に、都市は気候変動問題の一部であるだけでなく、対策の中心でもある。都市は、洪水や干ばつ、猛暑などの気象現象により増え続ける損失や被害の最前線にある一方、市民にとって最も身近な行政レベルであり、何百万もの人々のために排出量を削減し、強靭性を高め、生活の質の向上させるまたとない機会を提供している。こうした背景から、欧州連合(EU)と日本は共に、温室効果ガスの排出をゼロにする「脱炭素社会」を実現するため、より野心的な目標を設定して気候変動対策を推進する地方自治体の取り組みを支援している。
欧州委員会は2019年12月、2050年までに欧州を世界初の気候中立な大陸にすると同時に、現代的で資源効率が高く、競争力のある経済への転換を目指す、極めて野心的なEUの成長戦略「欧州グリーン・ディール」を発表した。それから約4年、EU気候法の制定により、この目標は法的拘束力を持つ公約となった。目標達成に向けたロードマップの一環として、EUは2030年までに1990年比で55%以上排出量を削減することを約束し、また公正で競争力のある形でこれを実現するための法律を既に全面的に承認している。
一方、2021年5月の日・EU定期首脳協議において、日・EUは、今後数十年間にわたり、気候中立で、循環型の、資源効率の高い経済への移行を加速させるための「グリーン・アライアンス」を発表した。当時、この種の協定を締結するのはEUにとって初めてで、「欧州グリーン・ディール」と日本の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の実施において重要な節目となった。
欧州委員会で欧州グリーンディールを担当していたフランス・ティーマーマンス執行副委員長(当時)は、「グリーン・アライアンス」について「今世紀半ばまでに実質排出ゼロを実現するための世界的な連合を作るというわれわれの取り組みにおいて、まさに画期的な出来事だ」と指摘。「日本とEUは、協力関係を強化することで、パリ協定に基づく公約の実現というわれわれの目標に近づくことができ、世界的に盛り上がりつつある実質排出ゼロ実現への気運をさらに高めることができる」と強調した。
近年、欧州では、気候変動対策をめぐる議論を推し進め、より野心的で迅速な気候変動対策の必要性を強く求めてきたのは市民社会、特に若者だ。その結果、世代間の平等や、気候政策の立案と実施における市民の参加と関与の拡大の必要性をめぐって議論が交わされるようになった。EUは、生活様式や生産・消費のパターンの変化に向けて市民に効果的に働きかけると共に、気候変動対策を加速・拡大する上で、地方や地域の行政のリーダーシップの重要性を認識している。欧州市民の70%以上が都市部に居住していることから、特に都市の役割に注目している。
その好例が、欧州委員会が2008年に創設した、環境に配慮した都市生活において先進的な都市を表彰する「欧州グリーン首都賞」だ。この賞の成功を受けて、2015年には人口2万~10万人の小規模な自治体を同様に表彰する「欧州グリーンリーフ賞」が創設された。この賞が贈られるのは、一貫して高い環境基準を達成し、さらなる環境改善と持続可能な発展に向けて継続的かつ野心的な目標に取り組み、他の都市に刺激を与え成功事例を推進するロールモデルとなる都市だ。
欧州委員会のヴィルギニユス・シンケヴィチュウス環境・海洋・漁業担当委員は、「欧州グリーン・ディールにより、われわれは持続可能性への行程表を手に入れた。それは、自然が保護され、資源が効率的に使用される、無害でカーボンニュートラル(排出量実質ゼロ)な世界へわれわれを導く」と説明。「欧州の都市と市民皆が力を合わせて正しい方向に進めば、移行を成功させることができる。欧州グリーン首都賞とグリーンリーフ賞の受賞都市は真のインスピレーションだ。これらの都市は、私たちの生活、仕事、移動のあり方を変えることで、より住みやすく、持続可能で、強靭な都市をつくることができるということを示している」と称えた。
EUの研究開発助成計画「ホライズン・ヨーロッパ」が設定した五つのミッションのうちの一つに「気候変動への適応ミッション」がある。これら五つのミッションでは、研究とイノベーションが、大きな社会課題への具体策を生み出すことに貢献するという新しい役割を担っている。「適応ミッション」は、2030年までに150以上の欧州の地域やコミュニティが気候変動の影響へのレジリエンスを高められるよう支援することを目標とし、EUの地域や都市、地方自治体が気候レジリエンスを構築し、低炭素な未来への移行を進めるに当たり、資金や知識共有基盤の提供によって支援することに重点を置いている。
同ミッションは、次の分野で地方自治体を支援する。
• 現在や将来直面する気候リスクに関する理解の向上
• 気候変動への備えや対応の改善に向けた方策の策定
• 気候変動に対するレジリエンスの構築に必要な革新的な解決策の実証と導入
「ミッション憲章」に署名することで、地域政府や地方自治体は、気候適応目標を達成するために協力し、資源を動員し、活動を展開することを公約する。これまでに署名した308の自治体(2023年10月時点)のうち、25のEU加盟国から291の自治体が参加しているほか、EU域外からも「ホライズン・ヨーロッパ」に準参加しているまたは準参加する可能性のある17の自治体が参加している。「適応ミッション」には2021~2023年の期間に「ホライズン・ヨーロッパ」の資金から3億7,000万ユーロが助成され、異常気象の影響を受けた地域の再建や氾濫原の造成、気候変動に強い農業や試験的な保険手法の検討、洪水や熱波に耐えられる「完全に適応した」都市の設計などに関する理解を促進することを目指す。
同ミッションは、他のEUミッションやプログラムと連携して、共同イニシアチブを立ち上げることも可能で、人的交流や地域・地方自治体間での成功事例の共有、市民参加への支援の機会を提供している。
日本の環境省は2022年4月、政府の「地域脱炭素ロードマップ」に基づき選定する100カ所の「脱炭素先行地域」の第1弾として、26地域を発表した。「脱炭素先行地域」は、政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)」の目標達成に向けた施策を実施し、その経験を他の都市と共有することになっている。
EUは、このような並行した類似の取り組みには可能性があると考えている。日本の100の「脱炭素先導地域」と「ホライズン・ヨーロッパ」の「都市ミッション」に参加する100の「気候中立でスマートな都市」との間で経験を共有するため、EUは日本と協力して、相乗効果と共通目標を追求していく。
このような相乗効果を期待できる場として、気候変動対策でEUが都市に注力していることを示すもう一つの取り組み「世界首長誓約(Global Covenant of Mayors for Climate and Energy)」がある。この自治体のリーダーによる世界的な連帯は、気候変動対策を推進する大きな力となっている。世界各地の都市をつなぐことで、知見の交換、成功事例の共有、気候対策の拡大を可能にしている。2023年10月現在、東京、横浜、京都などの大都市から北海道ニセコ町や長野県小布施町のような小規模な自治体まで、40以上もの日本の自治体が誓約している。
日・EU間においては、2012年に始まった両者の協力関係は以降、対話や関与、連携の強化を通じて深化してきた。2013年には都市政策対話が開始され、日・EU間の持続可能で総合的な都市の取り組みや政策に関して協力を強化することの重要性が改めて示された。
このように成果を上げてきた協力関係を継続・拡大する観点から、日・EUは2021年5月、特に都市・地域政策分野で、共通の経済・社会・環境的課題が国土に与える潜在的な影響について協議する会議を立ち上げた。情報交換や成功事例の共有を行う項目の一つに「環境の持続可能性、災害リスクの軽減および気候変動」が挙げられている。
EUは、私たちの市民がまさに求めているように、全ての人々のために、より環境に優しく、豊かで、強靭な未来を築くために、日本や世界中の都市と緊密に協力する用意がある。
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