2018.12.4
FEATURE
欧州とアジアの両地域が対話し、幅広い分野での協力を目指す相互協議の場、「アジア欧州会合(ASEM)」。2018年10月18日、19日にブリュッセルで開かれた第12回ASEM首脳会合では、参加国・機関の首脳が連結性(コネクティビティ)を強める取り組みを進めていくことに合意した。また今回のASEM開催に連動し、両地域の国々から若者が集まった「ASEFヤングリーダーズサミット」についてもレポートする。
2018年10月18日、19日の2日間にわたって、「グローバルな課題のためのグローバルなパートナー(Global Partners for Global Challenges)」をテーマに、「第12回アジア欧州会合(ASEM)首脳会合」がブリュッセルで開催された。欧州から欧州連合(EU)の加盟28カ国およびノルウェーとスイスの30カ国と、アジアから日本を含む21カ国(両地域で計51カ国)に加えて、EUと東南アジア諸国連合(ASEAN)の2機関が参加した(ASEMの全参加国・機関の一覧は、EU MAG 2016年6月号の政策解説を参照)。
今回のASEM首脳会合はEUが主催し、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長が本会合の議長を務めたほか、ジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長と、フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長の2人が、EUを代表して出席した。
本会合で参加国・機関の首脳が合意した主な内容は、次のとおり。
経済・貿易面では、開かれた世界経済を維持し、世界貿易機関(WTO)を中核としてルールにのっとった貿易を推進する必要性などを強調した。外交・安全保障面では、核不拡散を目指すグローバルな体制を目指して、完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化やイラン核合意(JCPOA)を、引き続きASEM全体として支持することなどを再確認した。また地球規模の問題では、気候変動への取り組みとしてパリ協定を断固として順守することや、非正規移民の原因を根絶するための対策を講じること、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の全面的な履行に向けて尽力することなどが合意された。このほか、欧州とアジアの国と国、人と人、社会と社会を結び付ける「持続可能な連結性(sustainable connectivity)」の強化についても一致を見た(詳細は後述)。
トゥスク議長は、会合後の議長声明の中で、今回のASEM首脳会合で討議された結果について、「われわれはルールに基づく国際秩序を支持することをあらためて確認した。今日の世界の地政学的観点から、最も重要なシグナルを送ることができたと信じている」と締めくくった。
ASEMは、政治や経済、財政、社会、文化、教育などの多岐にわたる分野を含めた欧州とアジア両地域の幅広い対話と協力の多国間枠組みとして、1996年の第1回首脳会合をもって創設された(以降、首脳会合は2年に1回開催)。
欧州とアジアの間には、すでに多くの二国間および多国間の会合や交渉が存在するが、その中でもASEMが他と異なる大きな特徴は、非公式な対話の場であることや、双方の対等な関係性を重んじながら、多分野・多国間にまたがる事柄を討議する場であること、そして首脳・閣僚・高級実務者レベルの会合はもちろん、草の根レベルでの社会連携を強めるさまざまな関連行事が活発に行われること(後述の囲みを参照)などが挙げられる。
ASEMの活動は大きく分けて、その時々の地域情勢や安全保障などを共通の関心事項とする「政治」、貿易や投資を活発化し、多国間主義を促進する「経済と金融」、そして両地域のさまざまなレベルで文化、芸術、教育の人材交流を図る「社会・文化・教育」の3分野を柱としている。第12回ASEM首脳会合では、これらの3本柱において欧州・アジア間のより良いつながりをつくり出し、お互いの国々や人々、社会を近づける「連結性」をさらに強化していくべきだという点で一致を見た。
「連結性」は2014年10月の「第10回ASEM首脳会合」以来、経済的繁栄と持続可能な開発、人、物、投資、エネルギー、情報、知識、アイデアの自由で滞りのない移動、そして制度的なつながりを促進するにあたり、その重要性が強調されている。
2016年にモンゴル・ウランバートルで開かれた「第11回ASEM首脳会合」においては、連結性に関するASEMの活動により焦点を当てるため、「ASEMパスファインダーグループ(ASEM Path Finder Group on Connectivity=APGC)」を2年の期限で立ち上げることとした。 APGCによる「連結性」の定義は、2017年11月にミャンマー・ネピドーで開催された「第13回ASEM外相会合」で採択された。
ASEMの定義では、連結性とは、国と国、人と人、社会と社会の距離を近づけ、経済的かつ人的な絆をより深く発展させていくものである。それは、航空・海運・鉄道・道路といったあらゆる交通手段のほか、制度、インフラ、資金協力、情報技術(IT)、デジタル接続、エネルギー、教育と研究、人材開発、観光、文化交流、関税、貿易、投資の自由化などを網羅するものであると同時に、対等かつ自由で開かれた貿易、市場原理、多面性、包摂性、公平性、情報の開示性、透明性、財政的な妥当性、費用対効果、互恵などの主要な原理を順守するべきものとしている。この定義においては、「持続可能性」が重要な基準の一つで、連結性は国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の達成に寄与しなければならない。
2018年6月のAPGCと高級実務者会合(Senior Officials Meeting=SOM)では、次の5つの焦点領域が「連結性における協力の具体的分野(Tangible Areas of Cooperation in the Field of Connectivity=TACC)」として設定され、今後これらの分野で、ワークショップや学会の開催や事例発表などの企画が奨励されている。
他方、EU理事会は2018年10月15日、第12回ASEM首脳会合を前に、「欧州とアジアをつなぐ-EU戦略の基礎要素(Connecting Europe and Asia – Building Blocks for an EU Strategy)」と題した連結性に関する戦略を採択した。これは、EUが加盟国や他の地域とのつながりを深めてきた経験に基づくもので、「持続可能かつ包括的でルールに基づく連結性」を核とし、今後、この分野でのEUの対外行動を導いていく。新戦略は、EUのグローバル戦略の実施の一環でもある。
EUは、アジアが経済モデルや発展段階の大きく異なる国々によって構成される広い地域であることを十分認識しつつ、連結性を強化するためのアプローチを、以下の3つの点を踏まえて具体的に進めていくとしている。
欧州横断運輸ネットワーク(TEN-T)をアジアにもつなげて、EUのデジタル単一市場をモデルにデジタルサービスでの貿易を促進し、市場先行型のクリーンエネルギー転換に力点を置いた地域ごとの自由なエネルギー市場を形成する。
EUが培ってきた、ルールに基づく公正で透明性のある域内市場の実績を踏まえて、二者間枠組み、ASEANやASEMといった地域間枠組み、またWTOや国連などの機関に代表される多国間枠組みを組み合わせて、パートナーシップを強める。
アジアが必要とする年推定13億ユーロの資金を、国際金融機関、多国間で運営する開発銀行、民間セクターなどからの投融資を組み合わせて捻出する道を探る。
上記のように、欧州とアジアの間でさまざまな分野の連結性が深まれば、回復力のある社会や地域づくりを強め、貿易を活発化し、ルールに基づく国際秩序を促し、より持続可能な低炭素社会の未来をつくることができるとしている。
ASEM首脳会合の開催と連動して、関連イベントも催される。トゥスク議長は、「持続可能でルールに基づく連結性が、共通のテーマとなった。商品や投資、情報、アイデア、人の自由な流れは、グローバル社会の成長に資する。欧州・アジア両地域にとって真の連結性は、教育や交流、共同研究や観光を通じ、より多くの人々が集まることで達成されると信じている」と今回の首脳会合を振り返ったが、これらの目的を実行に移す場でもあるのが、以下のような関連イベントだといえる。
本稿ではこれらのイベントの一例として、「第3回アジア欧州財団(ASEF)* ヤングリーダーズサミット(ASEF Young Leaders Summit=ASEFYLS、アセフ・ワイエルエス)を取り上げ、EUが推進する人的な連結性が実際にどのような形で実を結ぶかを見ていく。
* アジア欧州財団(ASEF)は、1996年3月の第1回「アジア欧州会合」の提言を受け、欧州・アジア間の知的交流・文化交流・人物交流の3分野で交流を拡大することを目的に、1997年に設立された。本部はシンガポール
ASEFYLSは、若きプロフェッショナルや学生が対象の会合で、教育や若年層の雇用などに関連するアイデアや政策を、ASEMに参加する政治的指導者たちに直接提言する機会を与えようというものだ。参加者は、事前にオンラインの準備コースを受講して、ワークショップ、講演、政治的指導者・ビジネスパーソン・学者などを交えた討論などに臨み、意見交換したり政策提言したりする。さらに、この場で得たアイデアや知見を基にプロジェクトを立ち上げ、発展させる可能性も与えられている。
第3回ASEFYLSは、日本の外務省もスポンサーに加わり、「リーダーシップとは」をテーマに2018年10月15日から5日間にわたって、ブリュッセルで開催された。ASEM参加51カ国から、120人の若いプロフェッショナルや学生が参加し、文化、経済と金融、教育、環境、家族、メディア、政治、宗教と精神性、科学と技術、スポーツの10分野で、今の欧州とアジアに求められるリーダーシップのあり方について討議した。
日本からも、4人が代表として今回のASEFYLSに参加した。学生時代に東欧と中央アジアについて学び、今は国際協力機構(JICA)に勤める池田耕一さん、幼少期をネパールとインドで過ごし、今はスポーツサイエンスを専門に活動する成松百子さん、パプアニューギニア人と日本人の両親を持ち大手民間IT企業に勤める大野桂子さん、英国人と日本人の両親を持ち国際機関の職員であるロビン・ルイスさん。みな、国際性豊かな背景と、国際的なキャリアを広げたいという意欲を持ち併せた新世代の若者たちだ。
今回のASEFYLSで、スポーツとリーダーシップについて議論するワークショップで司会者に抜てきされた成松さんは、「将来の夢はスポーツを通じて、障害者を包摂する社会をつくること。ここで出会った人々やアイデア、考え方は、この夢の実現に絶対に役立つはず」と力強く語った。英国とウズベキスタンへの留学経験を持つ池田さんは、「同世代の人たちが、人前で堂々と論理的に自分の考えを述べ、議論や交渉をするスキルを持っていることに圧倒され、強い刺激となった。将来は、コーカサス3カ国などへの開発支援に携わりたい」という。
ルイスさんと大野さんはすでに共同で、今の日本社会を変革するイノベーションを起こしていくためのプラットフォーム「Social Innovation Japan」を設立。仕事の場以外で、起業家、非営利組織、自治体、民間企業、学術関係者らが幅広く協同するためのものだ。「欧州とアジアをつなぐ優秀な若い人材のネットワークを築くために、ASEFYLSは絶好の場を提供してくれた」と、満面の笑顔を見せた。
EUが推進する人的な連結性を実現するために、欧州とアジアの若者が一堂に会して議論し、人脈を育て、未来を構築する場として、今後もASEFYLSへ寄せられる期待は大きい。
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