2012.5.10

FEATURE

原子力発電所に対するEUのストレステスト

原子力発電所に対するEUのストレステスト

ストレステスト実施の背景

2011年3月15日、欧州理事会に先立ち、加盟国エネルギー担当大臣会合が開催された。©European Union, 2012

2011年3月25日、欧州理事会(EU首脳会議)は、東日本大震災に伴い福島第一原子力発電所で重大事故(シビアアクシデント)が発生したことを受けて、EU域内のすべての原子力発電所に対するストレステスト(耐性検査)を実施し、包括的かつ透明性の高いリスク評価に基づき安全性を見直すことを表明した。

欧州理事会は、ストレステストとして、加盟国による国別評価と、専門家によるピアレビュー(相互検証)の実施を提唱。また、ストレステストの結果から改善の必要が認められた場合には、原子力関連施設の安全に関する既存の法と規制の枠組みを再検討し、提案を行っていくとした。

加盟国には、ストレステストのへの参加を呼びかけるとともに、必要に応じて、原子力関連施設の安全性に関するEUの指令(Directive)(※1)を確実に実行に移すよう促した(※2)。また、欧州委員会と欧州原子力安全規制機関グループ(ENSERG)に対しては、ストレステストの定義や対象範囲、実施プロセスなど、検査の技術的な実施要項の制定を要請した。

ストレステストの概要

シヴォー原子力発電所(フランス)コントロールパネル ©European Union, 2012

欧州理事会の要請を受けたENSERGは、欧州委員会と共に、想定外の自然現象のために安全確保の機能が損なわれ、深刻な事故を引き起こした福島第一原子力発電所のケースを踏まえながら、ストレステスト実施に向けた技術的作業を進めた。作業結果は、2011年5月31日、「EUストレステスト仕様書」として発表され、翌6月1日からストレステストが開始された。

ストレステストの定義

今回行われているストレステストの目的は、原子力発電所の設計時や建設認可時の想定を上回る極端な状況が発生したことにより、現状の基準を満たしている安全対策の機能が損なわれた場合において、各発電所がどのような対処を取ることができるのか、つまり原子力発電所の安全が確保され得る余裕の度合い(safety margines)をあらためて評価することである。

  • 一連の極端な状況下におかれた場合の原子力発電所の対応
  • 既存の災害発生予防策や被害軽減策の有効性

 

検査の重要項目

シヴォー原子力発電所(フランス)冷却装置 ©European Union, 2012

これまでも、原子力関連施設に関するEUの安全対策は、自然災害や人災によるあらゆる事態を想定して網羅的に行われてきている。他方、今回実施されているストレステストは、想定を上回る極端な状況の発生と、安全対策の機能の喪失が重なった場合を想定し、そのような事態に対する原子力発電所の対処能力を見極めることに重点を置いている。

ENSERGの作成した仕様書においては、検査の重要項目として以下が挙げられている。

起因現象
  • 地震
  • 洪水
安全対策機能
  • 電源喪失(全停電を含む)
  • 冷却機能喪失
  • 電源/冷却機能喪失
対処
  • 炉心冷却機能喪失に対する手段
  • 燃料プール冷却機能喪失に対する手段
  • 格納容器損傷に対する手段

 

検査実施プロセス(実施対象、実施者、結果の公表)

シヴォー原子力発電所(フランス) ©European Union, 2012

ストレステストは、EU域内のすべての原子力発電所(15加盟国(※3)147基)を対象にしている。また、近隣諸国からは、スイスとウクライナが自主的にストレステストに参加している。

検査は、加盟国がそれぞれに行う評価と、多国籍の専門家が相互に評価をしあうピアレビューの2つに分けられる。さらに、各加盟国が行う評価は、各原子力発電所の運転事業者による事前評価と、加盟国当局による国別評価に分けられることから、全体としては3段階で構成されている。

評価は段階ごとに異なる実施者により行われ、ストレステストの実施プロセスの透明性と、結果の客観性を確保する方法がさまざまに図られている。例えば、ピアレビューの場合、検査を実施する専門家チームには、原子力発電所を持たないEU加盟国の専門家も参加させるなどして、検査の独立性を保つ工夫がされている(※4)

段階1:事前評価
2011年6月
原子力発電所の運転事業者が、ストレステストの提示する質問票に回答し(自己評価)、各国の規制当局に提出する
報告書提出期限
2011年10月31日

段階2:国別評価
2011年9月
各国の規制当局が、運転事業者の自己評価を確認し、国別報告書としてENSERGに提出する
報告書提出期限
2011年12月31日

段階3:ピアレビュー
2012年1月
ストレステスト参加国およびその他のEU加盟国の専門家が構成するレビューチームが、各国の国別報告書を確認し、ピアレビュー報告書としてENSERGに提出する
報告書提出期限
2012年4月25日

ストレステストに関する最終報告書は、2012年6月に欧州委員会から欧州理事会に対して提出されることになっている。事前評価、国別評価、ピアレビューの各段階において作成された報告書や、ストレステストの最終報告書は、すべて一般に公開されることになっており、情報公開の徹底が図られている。

関連情報
EUストレステスト仕様書(ENSREG)

ストレステスト実施の進捗状況

ストレステスト実施を受け入れた17カ国は、原子力発電所事業者の事前評価と国別評価のプロセスを終え、2011年12月までにENSERGに対し国別報告書を提出した。2012年1月以降、ストレステストはピアレビューの段階に移行し、24カ国80人の専門家による17カ国の国別報告書の査読と、38の原子力関連施設における現地調査が行われた。

4月25日、欧州委員会とENSERGにより、国別最終レポートを含むピアレビュー報告書が採択された。欧州委員会とENSERGは、翌26日に発出された共同声明において、各国の原子力関連施設の安全対策には確実な改善が認められたと報告するとともに、今後は、各国レベルの行動計画の策定と実施およびEU地域を含むグローバルな安全対策の充実を視野にフォローアップを図るとした。

ストレステストに関する最終報告書は、2012年6月、欧州委員会から欧州理事会に対して提出されることになっている。

ストレステストの実施後の見通し

ピアレビュー報告書は、各国による国別評価に重要な欠陥がなかったかどうかを確認し、各国の規制当局と、実施可能な改善策やグッドプラクティスなどの情報を共有することで、より高い安全性を確保する目的で作成されている。特定の原子力関連施設の運転や閉鎖に関する提案がなされることはないが、報告書が公開されるという事実は、原子力発電所を持つ加盟国に結果のフォローアップを促すとともに、自国民とEU諸国に対する説明責任を負わせる役割を果たす。EUのストレステストには、域内の原子力発電関連施設で最大限の安全性を確保するための方策が可能な限り取られるよう、保証する役割が与えられているといえる。

この記事に関連する情報
EUストレステストに関するENSREGのウェブサイト
EUストレステストに関する欧州委員会のウェブサイト

原発に対する耐性評価:高度な安全性を確認しつつもさらなる改善の必要性も

(※1)^ Directive on the safety of nuclear installations(2009/71/EURATOM)

(※2)^ EUでは、原子力政策に関する責任は各加盟国政府が負うことになっており、前述の指令は、拘束力ある安全基準の設置や管轄規制機関の創設を各国に対して求めている。

(※3)^ 稼働中の原子力発電所があるベルギー、ブルガリア、チェコ、ドイツ、スペイン、フランス、ハンガリー、オランダ、ルーマニア、スロヴェニア、スロヴァキア、フィンランド、スウェーデン、英国と、廃炉作業中の原子力発電所のあるリトアニアの計15カ国。

(※4)^ EU域外からのオブザーバーも受け入れられ、国際原子力機関や日本からも専門家が参加した。

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