2024.8.6

EU-JAPAN

デジタル社会の未来をリードする日・EUパートナーシップ

デジタル社会の未来をリードする日・EUパートナーシップ

デジタル技術は現代社会経済の重要な構成要素であり、学習、娯楽、仕事、探索といったあらゆる分野において新しい手法をもたらし、人々の願望を満たしてきた。欧州連合(EU)と日本は、ともにデジタルトランスフォーメーション(DX)をアジェンダとして掲げ、同技術の開発・利用に関する政策と枠組みを導入し、発展させている。本稿では、デジタルの分野におけるEUと日本の連携の背景を概説するとともに、2024年4月30日にベルギー・ブリュッセルで開催された「第2回 日・EUデジタルパートナーシップ閣僚級会合」の主な議論のポイントを紹介する。

EUと日本のDX制作

EUには、デジタル経済を形成するための政策イニシアチブが数多く存在する。

例えば、オンラインプラットフォームに利用者の保護や違法コンテンツへの対応を義務づける「デジタルサービス法(Digital Service Act: DSA)」(2022年11月発効)は、オンライン環境の安全性と信頼性を確保する目的で制定された。さらに、巨大IT企業に対してオンラインプラットフォーム上のサービス独占を禁止するデジタル市場法(Digital Markets Act: DMA)」(2022年11月発効)は、より公平なビジネス環境を構築し、新興企業がオンラインプラットフォーム上で新たな機会を創出し、利用者の選択の幅を広げることを目的としている。

欧州の半導体エコシステム強化に向けた欧州半導体法(European Chips Act)」は、総額430億ユーロ以上の官民の投資を導入するなどして、欧州の半導体産業と研究技術の強化を目指す。

また、人工知能(AI)においても、AIをリスクの高さに応じて分類し、それぞれに相応の規制をかける「AI法(Artificial Intelligence Act)」(2026年から適用)や、AI開発におけるEU加盟各国のスタートアップや中小企業を支援するための「AI イノベーションパッケージ(AI Innovation Package)」などを通じて、域内で提供されるAIシステムの安全性を確保したり基本的権利を順守したりしつつ、技術開発を促進している。

データ政策に関しては、データの単一市場の構築を目的とする「欧州データ戦略(European Data Strategy)」によって、より多くのデータ流通の実現、法制枠組みの構築、データ駆動型のイノベーションと成長を目指している。また、EUは研究・イノベーション助成枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」を通じて、デジタル技術の研究開発に多額の投資を行っている。

日本においても、DXを推進するため、岸田文雄総理が掲げる経済政策「新しい資本主義」で「デジタル社会への移行」をキーワードにし、「デジタル田園都市国家構想」や「AIへの取組」などを推進していく意向を表明。2021年9月に発足したデジタル庁を司令塔として、「データ戦略」(デジタル庁)や「半導体・デジタル産業戦略」(経済産業省)などさまざまな取り組みが行われている。このように、DXがもたらす課題と機会に関し、EUと日本は類似した見解を持っており、自然な流れの中でパートナー関係を構築することができた。

最初のデジタルパートナーシップ の相手国は日本

EUの執行機関、欧州委員会は2021年3月、デジタル化推進のためのコミュニケーション(政策文書)「2030 Digital Compass: the European way for the Digital Decade(2030デジタルコンパス:デジタルの10年のための欧州の道筋)」を発表した。同文書は、デジタルスキルの育成、デジタルインフラの整備、企業によるデジタル技術活用および公共サービスのデジタル化という4つの軸で構成されており、これらに沿った国際協力を推進することで、主要な国際パートナーに戦略的に関与するという目標もあった。

「デジタルコンパス」の発表後、最初のデジタルパートナーシップの相手国となったのが日本だった。2022年5月に東京で開催された第28回日・EU定期首脳協議で、ウルスラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長と岸田首相によって発表された。

日・EU定期首脳協議に臨む岸田総理(左)とフォン・デア・ライエン委員長(2022年5月12日、東京)©European Union, 2022

EUはその後、韓国(2022年11月)、シンガポール(2023年2月)、カナダ (2023年11月)との間でも、デジタルパートナーシップ協定を結んでいる。

日・EUデジタルパートナーシップの成果

2022年5月の日・EU定期首脳協議の後、2023年7月に東京で第1回 デジタルパートナーシップ閣僚級会合が開催された。さらに2024年4月17日には、オンラインで日・EU官民会合が開かれ、民間企業や学術界などのステークホルダー200人以上が参加。全体的な協力関係はもとより、AI、半導体、量子、サイバーセキュリティ、海底ケーブル、デジタルアイデンティティなど特定の技術分野での協力強化に向けた意見交換や提案が行われた。

同オンライン会合の結果を踏まえ、2024年4月30日、ベルギー・ブリュッセルの欧州委員会本部で、第2回デジタルパートナーシップ閣僚級会合 が開催され、欧州委員会のティエリー・ブルトン委員(域内市場担当)、河野太郎デジタル大臣、松本剛明総務大臣、石井拓経済産業大臣政務官が共同議長を務めた。

デジタル・アイデンティティとトラストサービスの協力推進に関する協力覚書に署名した河野デジタル大臣(左)とブルトン欧州委員(2024年4月30日、ブリュッセル)©European Union, 2024

会合では9つのトピックが取り上げられ、主な成果は以下の通り。

1.信頼性のある自由なデータ流通(Data Free Flow with Trust: DFFT)

安倍晋三元総理が2019年のダボス会議で初めて提唱したこの重要なイニシアチブについて、EUと日本は、経済協力開発機構(OECD)でのDFFT専門家コミュニティの設立を含むパートナーシップのための制度的取り組みの始動を歓迎するとともに、デジタルアイデンティティとトラストサービスの協力推進に関する協力覚書に署名した。この覚書の主な目的は、貿易や電子商取引を促進し、企業や学生間交流に関するユースケースを模索するほか、デジタルIDの日・EU間での相互運用を目指す。マッピングエクササイズを通じ、双方の取り組みの共有や両者間の共通点の特定も行う。

2.データガバナンス

日・EU双方のデータスペース間の相互運用性を促進するための協力を継続する。欧州自動車業界のデータスペース「Catena-X」と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のように、欧州と日本の自動車業界向けデータ共有における相互運用の検証に関する覚書を締結している例もある。さらに、標準化をめぐる課題についても協力拡大の重要性が確認された。

3.半導体

2023年に署名された半導体に関する覚書に基づき、半導体分野の共同研究プログラムを開発するため、専門家チームを立ち上げる。双方の公的支援に関する情報を交換するための「公的支援透明性メカニズム」の準備を進める。

4.海底ケーブル

2023年にブルトン欧州委員と松本総務大臣が東京で署名した協力覚書に従い 、EUと日本は、安全で強靭な海底ケーブルインフラを展開することの重要性を確認した。北極圏経由を含む大洋横断海底ケーブルの実現に関心を寄せる同志国との協力の必要性も指摘。この分野における協力と対話の継続は、戦略的優先事項とされている。

5.ハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)/量子コンピューター

EUと日本は、量子コンピューターの基礎研究に関する共同プロジェクトの連携テーマを探求することを決定。また、アルゴリズムのライブラリ、研究者・技術者の交流、量子コンピューターのオープンソースコードなど、その他の分野での協力も模索する。

6.サイバーセキュリティ

EUと日本は、製品セキュリティの認証制度の互換性を促進するための取り組みを継続し、両制度の標準策定における専門家間の協力を強化する。 また、「インド太平洋地域向け日米EU産業制御システムサイバーセキュリティウィーク」の重要性を認識した。  

7.5G / Beyond 5G

EUでは2024年1月から、日本では同年3月から開始された6Gに関する「日EU国際共同研究プロジェクト」の公募を歓迎。国際標準化や第三国におけるデジタル接続促進での協力なども強調された。

8.AI

EUと日本は、EUのAI事務局と日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)の設立を歓迎し、将来的な協力に取り組む。また、主要7カ国(G7)が生成AIの活用や規制に向けて共通のルール作りを目指す「広島AIプロセス」を前進させる必要性を強調した。相互運用に向けた第一歩として、双方は、欧州委員会が立ち上げた「AI協定 」や日本政府の「AI事業者ガイドライン」など、それぞれのAIガバナンスの枠組みに関する情報を共有する。

9.オンラインプラットフォーム

EUと日本はオンラインプラットフォーム規制の分野での協力を深め、定期的な情報共有チャンネルの確立を模索する。

日本における次世代半導体の量産を目指すラピダス(Rapidus)社を訪問したブルトン欧州委員(中央)(2023年7月4日、東京)©European Union, 2023

世界共通のデジタルの課題解決に向けて

このように、デジタル分野におけるEUと日本の協力は、さまざまな形態を取り、双方の深い専門性に裏打ちされた幅広いテーマをカバーしている。将来の電気通信ネットワーク、量子コンピューター、半導体などの分野で研究開発協力が促進されているほか、AIやオンラインプラットフォームなど、現代社会にとって極めて重要テーマについても、さらなる情報共有と協力拡大が見込まれる。

このような技術やプラットフォームがますますイノベーションを推進し、形作っていくため、それらの土台となるデータインフラやデータアーキテクチャおよび日・EU間のそれらの相互互換性もまた、デジタルパートナーシップを通じて取り上げられている。さらに、量子やサイバーセキュリティなどの分野においても、双方の交流を強化するための措置が講じられている。

世界が変化し、新たな問題が生じるにつれ、EUと日本がパートナーとして多くの類似した政策課題を共有し、その変化について理解を共有し、関連課題の解決に向けて緊密に関与し、協力し続けることがますます重要になっている。日・EUデジタルパートナーシップは、この緊密な関わりを促進するものである。 

デジタルパートナーシップの次回会合は2025年に日本で開催される。

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