2024.8.16

WHAT IS THE EU?

単一通貨ユーロと硬貨のデザイン

単一通貨ユーロと硬貨のデザイン

ユーロ紙幣・硬貨の種類と特徴

単一通貨ユーロ(記号: €; コード: EUR)は1999年1月1日に、当時の欧州連合(EU)加盟15カ国中11カ国で新しい会計上の通貨として導入され、3年後の2002年1月1日には紙幣と硬貨の流通が始まりました。2024年8月現在、ユーロはEU加盟27カ国中20カ国で、約3億5,000人が利用しています。いまでは、国際決済、借入および貸付、外貨準備金として、米ドルに次いで世界で2番目によく使われる通貨となりました。

ユーロ硬貨には、1、2、5、10、20、50ユーロセント(100ユーロセント=1ユーロ)、1、2ユーロの計8種類あります。ユーロ紙幣は、2002年に発行された最初のシリーズには5、10、20、50、100、200、500ユーロの計7種類ありましたが、偽造防止策などの強化のため2013年に流通が始まった第2シリーズの紙幣(通称「エウロペ」シリーズ)は、500ユーロ以外の6種類で構成されています。旧紙幣は法定通貨として永久に価値を維持し、ユーロ圏各国の中央銀行でいつでも交換できることになっています。

ユーロ紙幣は、欧州中央銀行(ECB)に発券の権限がありますが、各国の中央銀行が分担して印刷しています。デザインは新旧シリーズとも、「欧州の時代と様式」というテーマから着想を得ており、7つの時代の建築様式(古代ギリシャ・ローマ、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロックおよびロココ、19世紀の鉄とガラスの時代、20世紀の近代建築)を代表する架空の建物が、それぞれ異なる色調で描かれています。表面の「窓」と「扉」は、開放性と協調という欧州の精神を象徴し、裏面の「橋」は欧州の人々同士、そして欧州とその他の世界の間の結び付きを表しています。

新シリーズでは、透かしの部分に「ヨーロッパ」の名前の由来となった、ギリシャ神話に登場するフェニキアの王女「エウロペ」の肖像が透かし模様とホログラムとして用いられています。肖像はイタリア南部で発掘され、現在フランス・パリのルーヴル美術館に保存されている2,000年以上前の壺(つぼ)に描かれた模様から取られています。

硬貨に関しては、ECBの管理の下、各国政府の造幣局が発行しています。片面はユーロ圏共通のデザインが施され、もう片面は各加盟国が独自にデザインできるのが特徴で、EUのモットー「多様性の中の統合(United in Diversity)」が反映されていると言えます。EU以外でも、ユーロを自国の法定通貨としているモナコ、サンマリノ、バチカン市国およびアンドラもそれぞれが独自のデザインで硬貨を発行しています。 共通面には、EU旗の12個の星をあしらった横断線を背景に、金種により異なる3種類の欧州地図が描かれているのが特徴です。10、20、50ユーロセント、1、2ユーロの各硬貨の共通面は、2004年のEU拡大を反映して2007年に地図部分のデザインが刷新されました。

上段が2007年1月1日以前、下段が2007年1月1日以降のデザイン。1、2、5ユーロセントはデザインに変更なし。額面によって重さ、大きさ、厚み、エッジ部分の刻みなどが異なっている © European Union, 1995-2024

お国柄が表れる各国面のデザイン

ユーロ硬貨の各国が独自にデザインできる面は、全てのコインの図柄が異なる国もあれば、同じモチーフを複数のコインに使っている国もあります。デザインが自由な各国面も、コインの縁は必ずEUのシンボルである12個の星で囲うルールは共通です。加盟国はそれぞれの文化や歴史などから自国を象徴するモチーフを採用しています。

1ユーロを例にとってみると、オーストリアは音楽家のヴォルフガング・アマデウス・モーツアルトを、ギリシャは紀元前5世紀に使われていた4ドラクマ(旧通貨単位)コインにデザインされていたフクロウを、アイルランドは伝統楽器のアイリッシュ・ハープ、ベルギー、ルクセンブルク、オランダは君主(元首)を、イタリアはレオナルド・ダ・ヴィンチ作の人体理想図を描いています。各国面のデザインは、元首を図柄に用いている国のみ、その交替の場合に限って、変更することができます。

以下の表は、各ユーロ圏加盟国の2ユーロのデザインです。

オーストリア1905年にノーベル平和賞を女性として初めて受賞したオーストリア人作家、ベルタ・フォン・ズットナーが描かれている。
ベルギー3シリーズが流通しているがどれも発行時に在位の国王の横顔が描かれている。画像は2014年に発行されたもので、前年に即位したフィリップ国王が描かれている。
クロアチアクロアチア国章の市松模様を背景に、クロアチアの地図が描かれている。
キプロス紀元前3,000年ごろの十字形偶像「ポモスの偶像」をモチーフにしており、キプロスが古代文明の中心地にあったことを象徴している。
エストニアエストニア全土の地図が描かれている。
フィンランド旧フィンランド通貨のモチーフと似た柄になっており、主にフィンランド北部で採れるクラウドベリー(ホロムイイチゴ)の花と実が描かれている。
フランス最初のデザインは、生命の樹がフランスの標語である「自由、平等、友愛」に囲まれたものだったが、2002年に導入された新デザイン(写真)では、力強さ、堅固さ、平和を象徴するオリーブとオークが合わさった木の中にこの標語が記されている。
ドイツ国章の鷲が描かれている。丸みを帯びた鷲であることから、ドイツ人には「太った手」というあだ名で呼ばれることも。
ギリシャギリシャ神話で雄牛に化けたゼウスにさらわれる王女エウロペ(Europe)が描かれている。エウロペは、「ヨーロッパ」の語源ともなっている。
アイルランドアイルランドの伝統的象徴であるケルトの竪琴(アイリッシュ・ハープ)が描かれている。
イタリアイタリア・ルネサンスを代表する画家ラファエロ・サンティよる詩人ダンテ・アリギエーリの肖像画が描かれている。
ラトビア1929年発行の5ラット銀貨に描かれていた「乙女の肖像」のモチーフが使われている。
リトアニア国章である白馬に乗り剣を振り上げた騎士「ヴィーティス」が描かれている。
ルクセンブルク元首であるアンリ大公の横顔が描かれている。
マルタマルタ騎士団統治時代の1530年~1798年にマルタを表すようになった8つの先端を持つ十字架(マルタ十字)が描かれている。
オランダ最初のシリーズには当時在位していたベアトリクス女王の横顔、2014年に導入された第2シリーズ(写真)にはウィレム・アレキサンダー国王の肖像画が描れている。
ポルトガルポルトガル初代国王の印章の一つである1144年が中心に置かれ、周囲には7つの城と5つの紋章を配している。
スロヴァキア国章を表しており、スロヴァキアを象徴するタトラ、ファトラ、マートラの3つの山の上に二重十字が描かれている。
スロヴェニア詩人フランツェ・プレシェーレンと、彼が作詞した国歌「祝杯」の一文が記されている。
スペイン在位の元首をモチーフにしている3シリーズがあり、第1と第2シリーズには当時の国王のフアン・カルロス1世が、2015年に導入された第3シリーズ(写真)には前年即位したフェリペ6世が描かれている。
© European Central Bank, 2024

ユーロを導入しているEU非加盟国の2ユーロコイン

アンドラ2011年6月にEUと通貨協定を締結、ユーロを法定通貨として使用している。2ユーロ硬貨には同国の標語である「virtus unita fortior(団結は力なり)」の文言が入った国章が刻まれている。
モナコ第1シリーズにはレーニエ3世公の肖像、第2シリーズにはアルベール2世公の肖像が描かれている。
サンマリノ第1シリーズには政府庁舎(Palazzo Pubblico)、第2シリーズには画家ジョバンニ・バッティスタ・ウルビネッリによる聖マリヌスの肖像が描かれている。
バチカン歴代教皇の肖像や紋章をモチーフにしている。2017年に導入された第5シリーズにはフランシスコ教皇の紋章が刻まれている。
© European Central Bank, 2024

記念硬貨でさらに自国らしさを表現

各ユーロ圏加盟国は、1年に2種類の2ユーロの記念硬貨の発行が認められており、毎年、特徴的なデザインの硬貨が発行されます。作家や歴史的建造物をはじめ、オリンピックやサッカーのワールドカップなどイベントをモチーフにしたものもあり、その国で起こった歴史的な出来事や節目などを記念して発行されるケースが多いです。日本の読者にも馴染のある近年のイベントや出来事をモチーフにした2ユーロ記念硬貨デザインを紹介します。

「ウクライナと自由」
(エストニア、2022年)  
手の上に鳥を乗せ、麦の穂を持った女性のシルエットが描かれ、左上に「SLAVA UKRAINI(ウクライナに栄光を)」の文字が刻まれている。  
「エラスムス35周年」
(ユーロ圏の国々、2022年)  
EUの留学支援制度「エラスムス」プログラムの2つの主要要素である、人文主義者デジデリウス・エラスムスの肖像と、学生たちの知的・人的交流を表す光線が描かれている。写真はオランダ版。
「新型コロナウイルス感染症のパンデミックにおける医療従事者の貢献」
(ベルギー、2022年)
医療従事者の姿と、医療分野に関連するピクトグラムとして、十字架、聴診器、心臓、注射器などが記されている。Danke、Merci、Dank uは、ベルギーの公用語であるドイツ語、フランス語、オランダ語で感謝を示している。
「公式通貨としてユーロ導入」
(クロアチア、2023年)
「HRVATSKA」(クロアチア)、発行年「2023」、「ČLANICA EUROPODRUČJA」(ユーロ導入国)の文字が、ユーロ「€」マークの形になるよう配置され、右側にはクロアチア国章の市松模様が描かれている。
「マリア・カラス生誕100周年」
(ギリシャ、2023年)  
ギリシャの伝説的なソプラノ歌手マリア・カラスの生誕100周年を記念し、彼女の肖像を描いた記念硬貨を発行した。
「エッフェル塔」
(フランス、2024年)
2024年のパリオリンピック・パラリンピック開催を記念して2種類の2ユーロ記念硬貨を発行。写真のデザインでは、エッフェル塔が躍動感をもって描かれ、背景にマルセイユのノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院、タヒチを代表する花ティアレタヒチが刻まれている。もう1種類には、ギリシャ神話の英雄ヘラクレスと怪物キマイラがノートルダム大聖堂の前で古代レスリングをする様子が描かれている。オリンピックに関連して、2021年、2022年、2023年にも記念硬貨が発行された。
エストニア、ベルギー、ギリシャ、フランスの硬貨は© European Union, 1995-2024、ユーロ圏とクロアチアの硬貨は© European Central Bank, 2024。 

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