2024.4.30
EU-JAPAN
2050年までの気候中立を目指している欧州連合(EU)と日本にとって、再生可能エネルギーの拡大は急務だ。最も成長可能性が高い再生可能エネルギー源の一つと見なされ、日・EUの協力が進む洋上風力発電の取り組みを紹介する。
2023年夏、欧州や日本を含む世界各地を記録的な熱波が襲った。気温が40℃を超えた都市もあり、気候危機の悪化を印象付けた。こうした異常気象は、温室効果ガス(GHG)の正味排出量をゼロとする気候中立への移行が待ったなしであることを意味しており、EUも日本も2050年までの気候中立実現を目標に掲げている。
世界のGHG排出量の75%がエネルギー起源であることを考えると、世界的に再生可能エネルギーの利用を拡大することは当然だといえる。EUと日本は、グリーンな社会への移行に共に取り組む重要なパートナーであり、2021年の「日・EUグリーン・アライアンス」の発足で示されているように、今日の地政学においてさらに重要性を増している。
こうした背景を踏まえ、EUは日本とのエネルギー移行における協力を深めることに大きな可能性を見出している。
EUでは欧州気候法に基づき、2050年までの気候中立達成や、2030年までに1990年比で少なくともGHG排出量を55%削減するという法的拘束力のある中間目標を設定している。再生可能エネルギーの中でもとりわけ、 EU域内では豊富に供給され、安定した自前のエネルギー源と見なされている風力エネルギーは、EUの脱炭素化目標を達成し、産業競争力を高め、戦略的自律性を高めるために非常に重要だ。
EUは2030年までにエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの比率を少なくとも42.5%とすることを目標としている。洋上風力発電に関しては、2023年1月にEU加盟国が合意した野心的な目標に基づき、2022年の累積導入量の16.3 GWから、2030年までに111 GW、2050年までには317 GWへと大幅な拡大を目指す。つまり、平均して毎年約12GW(日本の原子力発電1基の容量を平均1GWとすると12基分に相当)の洋上風力発電を新規に導入し、電源構成における風力の割合を2022年の16%から2030年には34%に増やす必要があるということだ。
この目標は簡単ではないが、実現不可能ではない。EUの気候問題への責任を果たすためには必要な対策であり、避けて通れない。また、新しい取り組みによって生み出される雇用機会も見逃してはいけない。EU全域では既に風力分野で24万~30万人の雇用を創出しており、その数は2030年までに93万6000人に増加すると推定されている。
EUは洋上風力発電において世界屈指のプレイヤーだ。風力発電設備の大手メーカー10社のうち4社がEUを拠点とし、世界の洋上風力発電市場の35%をEU企業が占め、最先端の技術も保有している。
EUの風力発電分野における経済活動は、欧州と日本の企業の連携や合弁事業からもを恩恵を受けている。日本企業はベルギー、フランス、ポルトガルおよびスペインなどの洋上風力発電所に投資しており、例えば、東京電力と中部電力が出資する火力発電会社「JERA」は、2023年3月にベルギーの洋上風力発電大手「パークウィンド(PW)」を買収。EUから日本に対しても同様で、日本の洋上風力発電事業に非常に多くのEU企業が参入している。活動領域は、デベロッパー、風力タービンメーカー、サプライヤー・部品メーカー、建設会社、O&Mサービス、輸送・物流、研究開発、人材育成、評価機関、テスト・認証機関、コンサルティングおよび法律事務所、金融など多岐にわたり、よく知られた大企業だけでなく、規模は小さくとも革新的な企業も含まれている。
日本政府による洋上風力発電事業者の公募第2ラウンドの選定結果においても、EUと日本の洋上風力発電分野での協力体制が明らかになった。新潟県村上市・胎内市沖、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖、長崎県西海市・江島沖および秋田県八峰町・能代市沖の計4海域が対象となったが、落札したコンソーシアムの中には欧州企業3社、即ちドイツのRWE、スペインのイベルドローラ 、デンマークのべスタス(GEと共に3海域で風力タービンを提供)が含まれている。黎明期の日本の洋上風力プロジェクトにEUの企業が参入するという点で、間違いなく大きな前進であり、EUもこれを歓迎している。
日本の洋上風力市場の潜在力を活用するために、確かな実績を持つ欧州企業がさらに進出することは間違いない。日本は再生可能エネルギーの導入目標として、洋上風力発電に関しては、2030年までに合計10GW(稼働ベース 5.7GW)の案件形成を掲げている。最近の研究では、日本の洋上風力における潜在能力として、着床式で176GW、浮体式で542GW、合計700GW以上というデータが算出された。EUの洋上風力発電業界の産業、規制、政策における経験と信頼は、日本の洋上風力の発展、そして気候中立という目標達成に間違いなく役立つだろう。
EUと日本のエネルギーおよび気候分野の目標が反映されている「日・EU経済連携協定(EPA)」や「日・EUグリーン・アライアンス」の下ですでに存在する枠組みを活用するなど、いくつかの方法でEUは貢献することができる。
日本の洋上風力発電の見通しが明るくなる一方で、世界の風力発電産業は、本来可能であるはずの活動を妨げるさまざまな課題に直面している。コストの上昇、利益率の圧迫、世界的なサプライチェーンの分断、材料と熟練労働力の確保の問題などである。
EUと日本は価値を共有するパートナーとして、協力的かつ互恵的な方法でこれらの問題に取り組む必要がある。例えば、EUは現状に対処するため2023年10月に欧州風力発電計画を発表したが、これを基盤として今後、政策レベルで日本と交流することも一つの方法だ。
次に取るべき行動の一つは、浮体式洋上風力発電の開発における協力だ。これにより、大規模な商業化が可能となり、社会が求めているクリーンで、競争力と信頼性の高いエネルギーを生み出すことができる。世界第6位の面積を有する、日本の排他的経済水域(EEZ)での浮体式洋上風力発電の開発が注目されているのも当然である。技術的リーダーシップ、海底と深海再生可能エネルギーで世界を牽引するEUの条件の類似性、既設の浮体式洋上風力発電の活用などを通じて、EUは日本にとって主要なパートナーとなるだろう。技術と規格に関する協力体制を確立し、浮体式特有の工学や製造における課題に対応するための定期的な交流を行うべきだ。
EUと日本は共に「風を捉え」、クリーンでよりグリーンな未来に向けた「航海」に出発しようではないか。
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