2021.10.28

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世界の最先端を行くEUの気候変動対策

世界の最先端を行くEUの気候変動対策

2019年、EUは、2050年までに世界初の気候中立な大陸になるという目標を掲げ、それに向けた変革の青写真となる「欧州グリーンディール」を発表。達成へのステップとして2030年までの温室効果ガスの削減を1990年比で55%以上とする、より野心的な目標も掲げた。2021年7月には欧州委員会が、EUの気候、エネルギー、土地利用、運輸、税制政策をこの2030年目標にふさわしいものに改めるための包括法案を発表した。本稿では、包括法案で示された主要な施策の概要と、来る第26回国連気候変動会議に対するEUの取り組みについて説明する。

「欧州気候法」で法的拘束力を伴うCO2排出量削減を推進

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)をはじめとする、世界中の科学者や研究者たちが、地球の未来についてますます悲観的な見方を示す中、もはや何も行動を取らないという選択肢はない。欧州連合(EU)は、これまで、気候変動に対する世界的な取り組みの最前線に立ってきたことを自負しており、自ら野心的な気候目標を設定するだけでなく、こうした地球規模の課題に一刻も早く取り組むよう国際社会に働きかけてきた。

EUは、2050年までの気候中立化、つまり、温室効果ガス排出量が実質ゼロの社会・経済を目指すという目標を掲げている。この目標は「欧州グリーンディール」の中核をなすものであり、パリ協定が求める世界的な気候変動対策に対するEUの公約に沿ったものだ。

EUの2050年気候中立目標に寄与するとして、欧州委員会が後援するソーラーバイクラリー「Sun Trip Europe 2021」。欧州委員会本部ビル前をスタートし(写真)、気候問題への啓発を目的に欧州各国を巡った(2021年6月16日、ブリュッセル)Ⓒ European Union, 2021 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Xavier Lejeune

EUにとって、気候中立な社会への移行は、喫緊の課題であると同時に全ての人にとってより良い未来を築くための機会でもあり、これを実現するには社会や経済のあらゆる部分がそれぞれの役割を果たす必要がある。

2021年6月28日、EU理事会は「欧州気候法」を採択した。それにより、EUがパリ協定下で公約した2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を55%以上削減するという目標は、EU域内で法的拘束力を持つものとなった。また同法は、2050年の気候中立化目標に取り組み、その達成に向けてガバナンス体制を整備することも義務付けた。

EUがこれまでに施行した気候・エネルギー関連法制の成果として、EU域内の温室効果ガス排出量はすでに1990年比で24%減少した一方、同時期に経済は約60%成長した。温室効果ガスの排出量削減と経済成長は両立できることを示すデータに、EUは勇気づけられている。

気候目標達成に向けた「Fit for 55」

欧州委員会は、温室効果ガス排出量削減目標を達成する政策をさらに整備するため、2021年7月14日、いわゆる「Fit for 55」と呼ばれる一括法案を発表した。これにより、2030年と2050年の両方の気候目標の達成に向けた活動を軌道に乗せることを目指す。

EUのCO2排出量削減に向け、再生可能エネルギーの活用促進を啓発するイメージ動画 Ⓒ European Union, 2021

「Fit for 55」の発表に際して、欧州委員会の執行副委員長で欧州グリーンディールを担当するフランス・ティーマーマンスは、「全ての人にグリーンで健康な未来をもたらすには、全ての加盟国のあらゆる産業分野での相当な努力が求められる。そうすることで、この提案は、必要な変化に拍車をかけ、全ての市民が一刻も早く気候変動対策の恩恵を受け、最も弱い立場の世帯を支援するものになる。欧州は、公正かつグリーンで競争力を向上させる変革を目指す」と述べた。

「Fit for 55」の内容は、次のようなものだ。

  • EUの排出量取引制度(EU ETS)の強化と範囲の拡大による、カーボンプライシング(炭素に価格を付けて排出者の行動を変容させる政策手法)の役割の強化と拡大
  • エネルギー効率と再生可能エネルギーに関するEUの目標の引き上げ
  • 土地利用部門によるカーボンシンク(CO2の実質吸収源)の増加の促進
  • 持続可能なモビリティと運輸を以下の取り組みを通して支援
    • 乗用車や小型商用車に関するCO2排出基準の厳格化
    • 充電スタンドなど必要なインフラの整備
  • 世界貿易機関(WTO)ルールに準拠した「炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism=CBAM)」の導入による炭素リーケージ(CO2漏出、後述)の防止
  • 気候目標の引き上げに合わせた、エネルギー製品や電力への課税の調整
  • 公正で革新的なグリーン移行の推進に必要な財源とプロセスへの貢献

EU域内だけに留まらない対策を進めるための炭素国境調整メカニズム(CBAM)

記者会見でCBAMについて説明するティーマーマンス執行副委員長(2021年7月15日) Ⓒ European Union, 2021 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Claudio Centonze

こうした画期的な提案の中でも、CBAMの導入と自動車の排出基準の厳格化に関する提案は、輸出大国であり自動車産業が盛んな日本で、最も大きく報道された。

EU がCBAMを提案したのは、温室効果ガス排出量削減に意欲的でない国々への炭素リーケージによって、EUの気候目標達成への努力が損なわれることを防ぐためである。EUは、域内で排出削減要件が厳格化されるに伴って、炭素リーケージにより排出量がEU域外に移転し、EUや世界の気候への取り組みに深刻な悪影響を及ぼすことを懸念している※1

 

 

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カーボンプライシングは、長年、EUの気候政策の基礎を成してきたが、炭素税やEU ETSのような市場ベースの仕組みなど、同様の制度を導入・検討している国の数は増加している。EUはまず、CBAMの適用対象を鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、発電に限定して導入し、その後、段階的に適用する業界を拡大する予定だ。2023年に監視・報告を開始し、2026年から本格的に運用を開始する。CBAMでは、EUに輸入される対象製品の製造過程における、個々の製造者の実際の排出量が考慮される。炭素価格が域外で実質的に支払われ、輸出の際に割り戻されていなければ、CBAMでは第三国で課された炭素価格に上乗せされることはない。

自動車の排出量については、欧州委員会は、乗用車と小型商用車のCO2排出基準を強化し、新車の平均排出量を2021年比で2030年までに55%削減、2035年までに100%削減を求めることで、モビリティのゼロエミッション化を加速すると主張している。これが実現すれば、2035年には全ての新規登録車がゼロエミッション車となる。運輸部門のグリーン化は、排出量の削減だけでなく、大気汚染や騒音、人の健康への悪影響を減らすことにつながる。またEUは、今後の道筋を明確に示すことで、先端技術の研究やイノベーションが促進されると確信している。

フランス・リヨンのスタートアップ企業「Navya(ナビア)」の自動運転電気自動車工場 Ⓒ European Union, 2021 / Source: EC – Audiovisual Service

日本や世界との協調でグリーン移行を確実にする

EUは、こうしたグリーン移行を確実なものとするため、常に国際パートナーに働きかけ、緊密に連携している。中でも日本は最も重要なパートナーであり、2021年5月の日・EU定期首脳協議において、両首脳は、これから数十年間に日・EU双方の経済の気候中立化、循環化、資源効率化を加速するため、「グリーンアライアンス」を立ち上げることに合意した。その下で、日・EUは、環境保護、生物多様性の保全、気候変動対策に関する協力を強化する。EUにとって初となる域外国との「グリーンアライアンス」は、日・EU関係に新たな展望を開くものだ。ティーマーマンス執行副委員長は、同アライアンスを「今世紀半ばまでの実質ゼロの実現に向けた世界的連帯を構築する取り組みにおける画期的な出来事」として歓迎している。

このグリーンアライアンスの下で、日・EUは、クリーンエネルギーへの転換における協力の強化、イノベーションやクリーン技術の促進、環境保護、持続可能な金融とビジネス、規制協力の促進を目指す。10月31日から英国グラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に先駆けて、同アライアンスは、地球の未来を左右する重要な国際交渉を成功させるという日・EUの決意を明確に示すものとなった。

イタリアで行われたCOP26閣僚級準備会合に出席したティーマーマンス欧州委員会執行副委員長(写真右上)は、「COP26は人類の存亡を懸けた戦いの場」と述べ、各国にさらなる対策を求めた(2021年10月2日、ミラノ)Ⓒ European Union, 2021 / Source: EC – Audiovisual Service / Photographer: Piero Cruciatti

COP26でEUは、パリ協定の全締約国に対し、野心的な国別排出削減目標の提示を求め、また先進国に対しては、国際的な気候ファイナンスの強化を呼びかけるつもりだ。EUは、日本など志を同じくするパートナーと共に、COP26での議論を正しい方向、つまり、全ての人のために地球を守り、気候変動の影響を最も強く受ける弱者の側に立つという方向に導くことができると期待している。

※1 CBAMを通じて域外からの輸入品の炭素価格と調整しなければ、EU ETSに定められた炭素価格を支払っている域内製品が不利になるだけでなく、規制の緩やかな国の製品が増え、世界全体で排出量が増加するおそれがある。そこでEUは、域外からの輸入品にEU ETSの規定と同等の炭素価格の支払いを義務付けることを提案。一方、こうした輸入品の生産国で炭素価格を支払ったことが証明できる場合は、その額に応じてCBAMでの支払いは免除される。こうした仕組みによってEU域内外の炭素価格を調整することで、輸入品に含まれる温室効果ガス排出量を規制し、世界全体の排出量削減を目指す。

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