2021.4.27
Q & A
新型コロナウイルス感染症のパンデミック克服への希望であるワクチン接種が世界各国で進行する中、主要なワクチンメーカーが製造拠点を置くEUの動向が注目されている。域内外の安定的かつ公平なワクチンの供給に対するEUの戦略と具体的な取り組みを説明する。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの終息には程遠い状況の中、EUとその加盟国は「全ての人が安全でなければ、誰も安全ではない」と考えています。全ての人々の安全には、ワクチンが絶対不可欠です。
世界で初めて欧州と米国で承認された新型コロナワクチンは、ビオンテックというドイツの小さなバイオベンチャーが米国の大手製薬会社ファイザーと共同で開発したものでした。欧州でのワクチン接種は、当初は混乱もありましたが、現在、順調に進んでいます。またEUはワクチンの世界への分配に貢献しています。
世界的にワクチンが不足する中、EUは域内で製造されるワクチンのほぼ半数を輸出しており(計3億7,400万回分、うち日本向けは1億4,710万回分――2021年7月6日までの数)、世界最大のワクチン供給元となっています。
世界中でワクチン接種を加速するため、EUは2021年末までに域内のワクチン製造能力を年30億回分以上に増強する準備を進めており、同時にアフリカでのワクチン製造能力の開発も支援しています。また、原材料の国際的な供給網を常に開放しておくことが非常に重要です。EUの価値や考え方を共有しない国に埋められる空白があってはなりません。
ワクチン接種を始めるにあたり日本は、唯一承認しているビオンテック/ファイザー製のワクチンについて、EUからの輸入に頼ってきました。モデルナ製とアストラゼネカ製のワクチンは、5月20日に厚生労働省から承認されましたが、EUは日本への無二のワクチン供給元として、日本政府が国民のために必要なワクチンを確保する取り組みを支援してきました。
EUは7月6日までに、日本向けに約1億4,710万回分のワクチンの輸出を承認しています(出荷は各製薬会社の責任で実施)。日本は現在、EU域内で製造されたワクチンの最大輸出先です。
EUは、世界保健機関(WHO)、感染症流行対策イノベーション連合(Coalition for Epidemic Preparedness Innovations = CEPI)、GAVIワクチンアライアンスなどの国際機関や組織に資金を提供することで、全世界にワクチンを届ける活動を支援しています。
EUが交渉しているメーカーは、域外の国々にもワクチンを供給することを約束しています。EU域内への限定供給や他国への輸出制限などの独占条項はありません。
EUの輸出承認制度(Q4 で説明)は、人道支援を目的とするワクチン供給や新型コロナウイルス感染症ワクチンの国際的共同購入枠組み「COVAXファシリティ」の対象となる国々への供給、EUの近隣諸国※1への出荷については、適用されません。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックとその影響に関する取り組みにおいてパートナー国を支援するため、EUは「チーム・ヨーロッパ」として活動しています。チーム・ヨーロッパは、EUおよびEU加盟国に加えて欧州投資銀行や欧州復興開発銀行などの欧州の金融機関の財源を組み合わせて、パートナー国への支援に活用しています。EUは約25億ユーロの資金をCOVAXファシリティに提供すると誓約しており、さらにワクチンの形で相当な支援を行うことにしています。
この先、将来のパンデミックに対する世界的な備えと対応を強化することは、世界共通の優先課題です。そのためEUは、パンデミックへの備えと対応に関する国際条約の締結を提案しました。この条約は、感染症の爆発的流行により良く対応するために必要な政治的コミットメントを得ることに寄与します。条約の検討プロセスは2021年5月のWHO年次総会で開始しました。
「ワクチン輸出に関する透明性・承認制度(輸出承認制度)」は、欧州委員会が、全EU加盟国を代表して新型コロナウイルス感染症ワクチンの「事前購入契約(Advanced Purchase Agreements = APA)」(Q5 で説明)を締結した製薬会社のうち、EUに拠点を置く企業に対して、EU域外へのワクチンの輸出を承認する制度です。本制度はAPAを結んだ企業にのみ適用され、対象企業は新型コロナウイルス感染症のワクチンやその有効成分を輸出しようとする際に、申請を提出する必要があります。
輸出承認制度が導入された2021年1月30日から7月6日までの間に提出された世界各国向けの輸出申請のうち1,598件が承認され、却下されたのはオーストラリア向けの1件のみです。また、EU加盟国は合わせて51の輸出先に3億7,400万回分のワクチンを承認しており、総量で経済協力開発機構(OECD)のメンバーの中で最大の輸出元となっています。
輸出承認制度は、次の目的で実施されています。
企業は製造拠点の所在国の当局に対し、「2020年10月30日以降のワクチンの輸出量」および「2020年12月1日以降EU域内に供給したワクチンの本数、製造予定量」を届け出る必要があります。各社の申請は①EUおよび第三国との契約の順守、②必要な全ての情報の提供、③製造の遅延や不足が生じた場合の、EUと輸出先との間の均等かつ公平な配分――という3つの承認基準で審査されます。
2021年3月24日には、ワクチンの安定供給をさらに確実にするため、相互主義と比例性に関する原則が承認基準に追加されました。EUとのAPAの履行状況の確認に加えて、輸出先の国が自国のワクチンや原材料の輸出を制限していないか(相互主義)、および輸出先の国の感染拡大の状況やワクチンの接種率および在庫量(比例性)が考慮されるようになりました。
こうした措置は、的を絞り、目的に照らし相応、かつ透明性があり、一時的なものとして実施されています。また、世界貿易機関(WTO)や主要20カ国・地域(G20)の下でのEUの国際的な義務と完全に整合性が取れているのに加え、「WTO貿易・保健イニシアティブ」に関連してEUが提案した内容とも合致しており、輸出禁止措置には該当しません。
なお、輸出承認制度の適用は、2021年9月30日までの予定です。(※その後12月31日まで延長されました--更新情報参照)
EUのワクチン戦略の下、欧州委員会がEU加盟国を代表して、個々のワクチンメーカーと「事前購入契約(Advance Purchase Agreements = APA)」を取り交わしています。この契約に基づいて製造されたワクチンが、新型コロナウイルス感染症に対する安全性と有効性が確認され、EUの医薬品規制当局である欧州医薬品機関(EMA)の科学的に実証された提言を受けて、EUレベルで使用が認可されれば、全てのEU加盟国で安全で有効なワクチンが同時に入手可能となります。また、公平性を担保するため、ワクチンは人口比に基づいて配分されます。
APAを締結することで、欧州委員会は所定の期限内に指定された数量のワクチンを購入する権利を得るかわりに、ワクチンメーカーが必要とする初期費用の一部を負担します。その金額は、EU加盟国が実際に購入するワクチンの頭金とみなされます。したがってAPAは、メーカーが製造承認を得る前の段階で供給の約束を取り付ける、リスクの低い先行投資ということになります。
欧州委員会は、これまでに6社(アストラゼネカ、サノフィ/グラクソ・スミスクライン、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ビオンテック/ファイザー、キュアバック、モデルナ)とAPAを締結し、かなりの量のワクチンを確保。さらにノババックス社およびバルネバ社と、それぞれ最大2億回分と同6,000万回分の購入を想定した予備的協議を終えています。(※その後、ノババックス社とのAPAも承認--更新情報参照)
これまで、ビオンテック/ファイザー、モデルナ、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンの4社のワクチンが、安全で新型コロナウイルス感染症に対して有効であることが認められ、EMAから認可を受けています。(※その後、ノババックス社のワクチンも認可--更新情報参照)
なお、約4億4,770万の人口を抱えるEUでは、7月12日現在、域内におよそ5億回分のワクチンが供給されています。(※最新数値は関連情報参照)
2021年3月17日、欧州委員会は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの中で安全で自由な市民の移動を促進するため、「デジタルCOVID証明書」を導入する法案を策定しました。法案提出時には「デジタルグリーン証明書」と呼ばれていたこの証明書は、EU域内で次のいずれかを証明するものです。
「デジタルCOVID証明書」は、その所持者が渡航先のEU加盟国の市民と同様に、自由な移動に対する制限が免除されるための書類で、パスポートのような渡航に必要な書類ではありません。また、その所持は人がEU域内の移動の自由の権利を行使するための前提条件ではありません。
「デジタルCOVID証明書」の発行は、病院、検査場、保健当局など各国の当局が管轄します。デジタル証明書はスマートフォンなどのモバイル端末に保存することができ、また書面での発行を希望することもできます。いずれも、基本情報を記載したQRコードと、証明書が本物であることを保証するデジタルシール(組織印の電子証明書)が付されます。
「デジタルCOVID証明書」は、国籍にかかわらず、EU市民およびその家族に発行されます。欧州委員会は、EU加盟国またはシェンゲン協定の加盟国に合法的に在留するEU以外の国籍の保持者や、他のEU加盟国に渡航する権利を有する滞在者に対しても「デジタルCOVID証明書」を発行する法案を提案しました。法案では、証明書に関しては、EU市民とEU市民ではない人々との間の取り扱いに差はありません。
本法案は、5月20日にEUの立法機関であるEU理事会および欧州議会の間で暫定的政治合意に達しました。また、5月25日の欧州理事会(EU首脳会議)はこの合意を歓迎しています。証明書は、法案の正式採択を経て、7月1日より全加盟国で導入されます。ただし、7月1日以前に証明書を発行・利用できる加盟国もあれば、同日までに準備が間に合わず6週間の猶予が与えられる加盟国もあります。証明書を導入する規則の適用期間は2021年7月1日から12カ月です。
デジタルCOVID証明書について詳しく知りたい方は、欧州委員会が6月1日に公開した「一問一答」(英語)をご参照ください。
※1 3月24日に導入された新しい規則で引き続き本制度の適用外となる国は、アンドラ、フェロー諸島、コソボ、サンマリノ、バチカン、「EUの機能に関する条約」の附属書IIに記載されている海外領土、ビュージンゲン、ヘルゴラント、リヴィーニョ、セウタおよびメリリャ、アルジェリア、エジプト、モロッコ、パレスティナ、シリア、チュニジア、ウクライナの各国。
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