2012.8.3
FEATURE
欧州連合(EU)加盟国の首脳は、2010年6月、持続的な経済成長を達成することを目的に、雇用創出、社会的連帯の強化、環境保護など、2020 年までの10年間の政策課題に関する政治指針をまとめた新戦略「欧州2020(Europe 2020)」を採択した。
「欧州2020」は、2000年に採択された10カ年経済成長戦略「リスボン戦略」を引き継ぎ、競争力強化を図りながら、欧州型の社会経済モデルを築いていくことを目的としているが、5大重点目標のひとつとして、教育水準の向上や貧困層の削減、環境対策といったテーマとともに、雇用問題も引き続き取り上げている。具体的には、2020年までに達成する中・長期的な戦略目標として、20~64歳の男女の就業率を2010年当時の69%から75%に引き上げること、若年層、高齢者層および単純労働者の雇用を促進することなどが盛り込まれている。
しかし、その後のEUにおける雇用情勢は、欧州債務危機に伴う経済情勢の悪化の影響で一段と厳しさを増しており、「欧州 2020」が目標に定める「20~64歳の男女の就業率75%」を達成する見込みは容易に立たない状況が続いている。
EU統計局によれば、2012年第1四半期の就業率は、EU加盟国27カ国で68.0%、ユーロ圏17カ国で67.7%にとどまっている。他方、2012年5月の失業率は、EU加盟国27カ国で10.3%、ユーロ圏17カ国で11.1%に上り、ユーロ圏については、共通通貨導入以来、最悪の水準を更新している。
長引く景気の低迷に苦しむEUでは、これまで、財政規律の重視と緊縮策の実施による財政再建が目指されてきた。しかし、公共サービスや社会保障に関する予算削減、公的部門における人員削減などの歳出削減を含む緊縮策の実施には、財政状況を改善させる期待がかかる一方で、景気や雇用状況を悪化させ、社会経済の閉塞感を高める可能性も指摘されている。そこで最近は、経済の本格的な回復と再生のためには、緊縮策の実施により財政再建を図るのみならず、経済成長を積極的に促し、雇用を増進させていく必要もあるとする見解が支持を得るようになっている。
欧州委員会が、2012年4月、雇用対策の政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生(Towards a job-rich recovery)」を発表したことも、その一環とみなすことができる。雇用対策の政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生」は、雇用情勢の改善を伴った景気回復の必要性を提唱し、雇用創出や労働市場改革、EU加盟国間の政策協調を目的として設定する中長期的計画から構成されている。欧州委員会は、景気の低迷期に抜本的な構造改革を実施することが、一時的に競争力に影響を与えることは否定できないとしつつも、EUが新しい機会を開拓し、再生を果たしていくためには、不可欠なプロセスであるとしている。このため、規制緩和や新成長産業の育成と産業構造の転換・改革など、実施されるべき経済改革として、以下の点をあげている。
政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生」の主なポイント
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その後、財政再建と経済成長の両立を目指す動きは、2012年5月のフランスでの政権交代と同6月のギリシャ総選挙を経てますます本格化し、6月28-29日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)において、「成長・雇用協定(Compact for Growth and Jobs)」への合意という形で結実した。
成長と雇用を促進するための包括的協定である「成長・雇用協定」は、EU加盟国に対し、経済成長に資する域内の財政統合に足並みをそろえて取りかかるように促すとともに、銀行貸出の回復、経済成長と競争の促進、公的部門の合理化に加えて、失業対策にも積極的に取り組むよう要請している。また、EUは、総額約1,200億ユーロ規模の即効性の高い成長促進策の実施をはじめ、単一市場の深化(デジタル単一市場の促進を含む)、域内エネルギー市場の整備、技術革新や開発の支援、さまざまな規制緩和策の実施等に取り組むことを約束するとともに、欧州委員会の提案した政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生」を早急に検討し、雇用対策について必要な決定を行うことも明言した。
政策合意「成長・雇用協定」の雇用政策に関する主なポイント
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