2014.6.17
Q & A
EU加盟28カ国内の22カ国と欧州自由貿易連合(EFTA)加盟4カ国の計26カ国は「シェンゲン圏(The Schengen Area)」という領域を形成し、これら26カ国の間では、EU市民であるかEU域外国の人であるかにかかわらず、旅券(パスポート)検査などの出入国審査(域内国境管理)が廃止されています。また、対外的には、シェンゲン圏共通の短期滞在査証(ビザ)を発行するなど共通ビザ政策がとられています。
EUの基本目標のひとつは、市民がEU内を自由に移動し、居住し、働くことを可能にする「域内国境のない領域」を作ることです。EUの前身である「欧州経済共同体(EEC)」の設立条約(1958年1月発効)には、その前文に「欧州を分断する障壁を除去する共同行動」が定められ、物、資本、サービスと並んで、人(当初は労働者)の自由移動が目指されました。それが具体化したのは1985年に採択された「域内市場白書」と、それに法的基礎を与えた「単一欧州議定書」(1987年7月発効)によってでした。1992年末までに域内国境のない大きな市場をつくり、その単一市場において競争することで経済を活性化しようとしたのです。
並行して、人(労働者だけでなく市民全般)の自由移動を活発化するために、域内国境における検問の廃止とそれに伴う域外国に対する共通の国境管理とビザ政策が必要となりました。しかし、「国境管理は国家主権の中核である」と考える当時の英国の保守党政権が強く反対したため、フランス、(西)ドイツ、ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)は、1985年6月14日に域内国境での検問を段階的に撤廃する協定を、欧州共同体(EC、当時)の枠外で調印しました。協定は、調印場所となったルクセンブルクの小村の名前から「シェンゲン協定(The Schengen Agreement)」と名付けられました。さらに施行のための補足協定(第2次シェンゲン協定)が1990年6月15日に調印され、1995年3月26日にシェンゲン圏が誕生しました。その間、イタリアおよび、EU拡大にともないスペイン、ポルトガルが参加した上、東西ドイツの統一、さらなる拡大などによってシェンゲン圏も大きく広がっていきました。また、1999年5月には、「アムステルダム条約(改正EU基本条約)」によってシェンゲン協定はEU基本条約に組み入れられました。
英国は前述の通り、国境管理を国家主権の中核とみなして、警察協力を除きシェンゲン協定に参加していません。それでも、1997年に誕生したブレア労働党政権は、「シェンゲン・アキ」と呼ばれたシェンゲン協定関連規定を「アキ・コミュノテール」と呼ばれるEU法の総体に含めることを認めました。ただし、同国とアイルランドにはオプトアウト(適用除外)が認められ、両国は独自の共通旅行領域を維持しています。このため、読者の中には、パリのシャルル・ド・ゴール空港で入国審査を受けると、フランクフルトやミラノに空路で移動しても国内線扱いで入国審査は受けなかったのに、ロンドンのヒースロー空港では長い列に並んで、改めて入国審査を受けたという経験をお持ちの方もいることでしょう。
キプロスは島が南北に二分されている状況が問題視され、ブルガリアとルーマニアは組織犯罪に対する対応などが不十分という理由で一部の協定参加国が反対しているため、参加がまだ認められていません。2013年7月にEUに加盟したクロアチアは、早晩参加することになるでしょう。なお、EU域外であっても、EFTAに加盟しているEUと非常に関係が深いアイスランド、ノルウェー、スイスとリヒテンシュタインは、シェンゲン圏に正式に参加しています。また、シェンゲン圏に周りを囲まれている極小国家のモナコ、サンマリノ、バチカン市国も実質的に国境を開放しています。
日本国発行のパスポートを保有する人が、シェンゲン圏を90日以内の短期間だけ旅行などで滞在する場合は、シェンゲン共通ビザ政策が適用され、ビザが免除されます(ただし、パスポートの残存期間がシェンゲン圏出域予定日から3カ月以上あることが条件)。旅行者はひとたびシェンゲン圏に入域すれば、出入国審査なしで、すべてのシェンゲン参加国を訪れ、滞在することができます。その滞在可能日数は、2013年7月19日に発効した改正規則によって、同年10月18日から「あらゆる180日の期間内で最大90日間」(下線が変更部分)となっています。これは、過去180日以内の滞在日数はすべて(複数のシェンゲン参加国での滞在やトランジットでの通過、および帰国をはさむ複数回の訪問も)短期滞在の期間として通算されるということです。
なお、英国、アイルランドをはじめとするシェンゲン協定に参加していないEU加盟国とも、日本国政府は短期滞在ビザを免除する取り決めを結んでいるので、日本国発行のパスポートを取得している人は、限られた期間内であればビザなしで旅行・滞在することができます。
前述の規則改正を機に、過去の通算滞在日数を基に、あと何日間シェンゲン圏に滞在可能かを手軽に計算できるツールがインターネット上に用意されました。
2013年10月18日より、シェンゲン圏のビザ免除での滞在可能日数は、「あらゆる180日の期間内で最大90日間」となった © European Union 2011 PE-EP
ただし、この計算ツールはあくまでオーバーステイを避けるための目安を示すものであり、残りの滞在可能日数を保証するものではありません。出入国管理は、基本的には、依然として各EU加盟国の権限に属しています。このため、シェンゲン参加国は、必要に応じて自国国境での審査や入国制限を一方的に復活させることも可能です。
さらに、前述のようなビザ免除による短期滞在の上限日数を超える滞在、居住、家族の呼び寄せ、大学や大学院などでの就学や研究、賃金を伴う労働(会議出席のための出張などは除く)などについては別のビザが必要となり、その発給、あるいは不許可などを判断するのは各加盟国の権限です。それぞれについては、シェンゲン圏の滞在日数の計算の確認を含めて、主に滞在する国の駐日大使館領事部や総領事館などに相談するのがよいでしょう。オーバーステイは不法滞在とみなされ、以後の入域を拒否されたり罰金を科されたりしますのでご注意ください。
執筆・監修:田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア)
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