2015.11.30
EU-JAPAN
日本の若者に欧州連合(EU)の創設経緯や現状、およびEU加盟国の多様性にあふれる歴史や文化への知識を深めてもらおうと、駐日EU代表部と在日EU加盟国大使館は、毎年日本全国の高等学校を訪問して出張授業を開催している。今年も54校、2万4,000人を対象に行った出張授業「EUがあなたの学校にやってくる」。授業にかけるEUや各大使館の思い、さらに実際の出張授業風景などを紹介する。
日本とEUは、2002年7月の日・EU定期首脳協議において、小泉純一郎総理(当時)とラスムセン・デンマーク首相(当時のEU議長国)、ロマーノ・プロディ欧州委員会委員長(当時)が、2005年を「日・EU市民交流年」とすることで合意。この市民交流年1年間に日本とEU加盟25カ国内(当時)で行われたイベントは1,900件を超え、双方の市民交流は活発化した。このような日・EUの交流の延長で、ローマ条約※1調印から50年目の2007年、日本の若い世代と共にその記念すべき節目の年を祝い、また彼らにEUやそのEU加盟国のことを知ってもらおうと、駐日EU代表部と在日加盟国大使館が協力して、出張授業が企画された。以後、授業は毎年行われている。
大使や外交官たちが日本各地の主として高等学校を訪問し、EUとそれぞれの出身国について紹介し、生徒たちと直接交流をするというこの出張授業では、一方的に講義を行うだけでなく、質疑応答を含む生徒との交流も重視している。また、EUをわかりやすく知るための副教材も、生徒一人ひとりに事前に配付される。2007年から今年までに「EUがあなたの学校にやってくる」を開催した学校は全国で延べ833校に上り、計37万人を超える将来を担う若者が、このユニークな出張授業に参加してきた。
開催年 | 訪問学校数 | 受講生徒数(人) |
2007 | 77 | 20,000 |
2008 | 105 | 40,000 |
2009 | 106 | 47,000 |
2010 | 110 | 52,000 |
2011 | 111 | 53,000 |
2012 | 96 | 43,000 |
2013 | 91 | 49,000 |
2014 | 83 | 42,500 |
2015 | 54 | 24,000 |
合計 | 833 | 370,500 |
集計:駐日EU代表部
出張授業は、できるだけ多くの日本の学校と交流することを方針としているため、訪問先はなるべく毎年違う学校を選んできた。しかし、開始から8年が経った今年は、初めてスーパーグローバルハイスクール(SGH)※2指定校およびアソシエイト校を主な対象とすることにし、実施時期もこれまでの5月から「勉強の秋」の11月に移して募集した。結果、35校のSGH・アソシエイト校を含む計54校、約2万4,000人の高校生を対象に実施することとなった。
毎回、出張授業後に学校に依頼し実施しているアンケートの結果によると、出張授業で学校側が生徒に学ばせたいと考えているのは、主にEUの歴史と業績、世界の中でのEUの活動、EUと日本の関係などである。また、約80%の生徒たちは「EUに関する知識がほとんどない状態で出張授業を体験」し、約85%の生徒たちが「新しいことを学ぶことができた」と答えている。また全体の22%の生徒たちが、「欧州についてもっと学びたい」と高い関心を示している。駐日EU代表部と加盟大使館は、これらアンケート結果からも「出張授業を実施する意義は非常に大きい 」としている。
本年の授業開催の約3週間前、授業を受け持つ加盟国の外交官たちが東京の駐日EU代表部に参集。ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使が「皆さんに伝えていただきたいのは、加盟国にとってEUがどれほど大切なのかということ。欧州出身の外交官であるみなさんは、誰よりも国際関係の重要さを理解しています。複雑な歴史を乗り越えて協調することの重要性は、生徒たちがアジア近隣諸国との外交の大切さを学ぶことにもつながるでしょう。外交経験を活かした素晴らしい授業を行ってください」と、プロジェクトの意義を強調し、講師になる外交官らを激励した。
実際に出張授業では、どのようなことが行われるのだろうか。イスティチョアイア=ブドゥラ駐日EU大使が講師として訪れた神奈川県立横浜国際高校(横浜市)の模様を紹介しよう。
11月11日の朝10時半、同校のセミナールームには100人を超える生徒たちが集っていた。元気な「グッドモーニング」の挨拶で授業は始まる。「今日の授業は、私たちにとっても重要なイベントです。なぜなら、この授業もまた私たち外交官の責務だからです。欧州の外交官は、日本とEUの関係強化に務めています。共に繁栄して、みなさんがよりよい生活を享受し、多くの機会を得られるために、今日皆さんにこの活動を理解していただくことが重要なのです」――大使の言葉が、通訳を介して生徒たちに伝えられていく。
授業はわかりやすいスライドの図解を使いながら進行する。序盤ではEUが成立するまでの歴史的な経緯を説明。6カ国で設立された「欧州石炭鉄鋼共同体」が基になっているのは、高校生にとっても意外な事実かもしれない。「なぜ石炭や鉄鋼なのでしょう? 長年にわたって繰り返された戦争の目的は、鉄や石炭を確保して武器を製造し、軍事力で他国を打ち負かすことでした。もうヨーロッパでは戦争をやめようと考えたとき、これらの重要な資源を共同管理することで将来の平和が維持できると考えたのです」。 大使は政治、経済、外交の複雑な問題を、自分の言葉で噛み砕きながら解説していく。その間、生徒らは熱心にメモを取りながら大使の言葉に耳を傾けた。
「EU加盟の条件である、民主主義、市場経済、法の支配、人権の4つをぜひ覚えてください。EU加盟国は、これらの価値をもれなく共有している国々です。日本もまた、これらの条件をしっかりと満たしているパートナーであります。EUと日本は同じ考えを持った友人同士であるということを忘れないでください」 大使の熱弁は続く。EUがさまざまな人種、宗教、価値観の多様性を尊重しつつ統合していること、一部のEU加盟国を除きEU内ではパスポートなしで国境を越えられること、EU内のどこででも働き、住み、勉強ができること。単一通貨ユーロを採用している19カ国では、両替が必要がないこと――を説明し、「こんな地域は欧州だけです」と大使は強調した。
この後、①EUを語ることは、世界を語ることにもなる、②世界最大の開発援助を提供するEUは、世界規模の持続可能な開発の促進のための国際努力を主導している、③世界のGDPの20%以上を占める世界最大の経済圏であり、日本とも戦略的パートナーシップ協定(SPA)および自由貿易協定(FTA)による関係強化を目指している――など世界の中のEUおよび日・EU関係の現状を説明。最後に大使は「EUと日本は、世界の平和に対してもっともよく理解し合っているパートナーです。今度はぜひ、みなさんがEU代表部にお越しください」と授業を締めくくった。
講義後の質疑応答では、一斉に生徒たちの手が挙がる。大使に、好きな食べ物を尋ねた生徒もいれば(答えは寿司)、「世界的な気候変動対策として、EUはEU域外の諸国にどのように働きかけていくのか」といったハイレベルな質問も投げかけられた。また「私たちが世界平和を実現するには、どのようにすればよいのか」という真正面からの問いかけには、「教育を通じて他文化への学びを深めること、旅をして他国の仲間と共に学び働く体験をすること、そして笑顔を忘れないこと。この3つが大切です」と即答し、生徒たちは真剣な表情でその言葉に聞き入っていた。
今回のようなイベントがあるたび、各ホームルームで「振り返り」をするのが横浜国際高校の慣例である。あるクラスでは「名前しか知らなかったEUの成り立ちを学べて勉強になった」、 「ヨーロッパの話かと思ったら、世界規模の取り組みの話が多く、日本との深い関係も意外だった」、「EUの加盟条件があるのを初めて知った。日本もその条件を充分に満たしていると聞いて誇らしく感じた」など、さまざまな感想が発表された。その中の一人、1年生の村田いずほさんが個別に語ってくれた――「EUについては、中学校までに学んだ大まかな知識しかありませんでした。EUといえばヨーロッパだけのイメージでしたが、世界の国々との関係がわかり、日本と価値観を共有して交流をしているという話を聞いて嬉しく思いました。私自身は、あるフランスの絵本が大好きになったのがきっかけで、第2外国語にフランス語を選択しています。今日の授業を聞いて、フランスだけではなく地続きの欧州をたくさん旅行したいと思いました。まずは英語を頑張って、大学でもフランス語の学習を続けたいと思います」。
EU代表部とEU加盟国の外交官が年に一度、教壇に立ち、これまで漠然としか知らなかった欧州の歴史、政治、経済、文化や、日本を含む世界各国との関係をわかりやすく解説する出張授業。駐日EU代表部とその加盟国の在日大使館は、この貴重な体験が、感性の豊かな若い世代が視野を広げ、現在や将来の世界のあり方を考えるきっかけとなってくれることに大いに期待している。
※1 ^ ローマ条約とは① 欧州経済共同体(EEC)を設立するための条約、② 欧州原子力共同体(EURATOM)を設立するための条約――の2条約の総称。EU統合における重要な法的基盤となっている。
※2 ^ 国際的に活躍できる人材育成を重点的に行う高等学校を文部科学省が指定する制度。 語学力だけではなく、社会課題への関心やコミュニケーション能力、問題解決能力などを身に付けたグローバルリーダーの育成を目指している。
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