2012.8.3
FEATURE
近年の欧州では、特に若年層の雇用状況の悪化が問題になっており、EU加盟国が本年6月に合意した「成長・雇用協定」の中でも、若年層に対する雇用対策の必要性が強調されている(Part1参照)。
EU統計局によれば、若年層(25歳未満)の失業率は2008年以降上昇傾向にあり、2012年5月にはEU加盟国27カ国で22.7%、ユーロ圏17カ国で22.6%に上った。つまり、労働可能な若年層のおよそ5人に1人が、職に就けていない状況にある。また、若年層の失業率が10%を切る国(ドイツ7.9%、オーストリア8.3%、オランダ9.2%)がある一方で、50%を超える国(ギリシャ52.1%[2012年3月のデータ]、スペイン52.1%)もあるなど、各国間・地域間の格差が大きいことも特徴的となっている。
このような状況に鑑み、欧州委員会の政策パッケージ「豊かな雇用を生む経済再生」は、早期退学の防止、労働市場のニーズとマッチした職業教育訓練の実施、就業体験機会(OJTなど)の拡大、労働市場へのアクセスの改善といった若年層の雇用対策を各国の実情に合わせて実施していくよう、加盟国に促している。
若年層の失業率を下げるためには、教育機関を修了して労働市場に参入した若年層が、間隔を空けることなく、スムーズに最初の就業機会を得られるようにしなければならない。また、就職後は、離職することなく、一人前の「職業人」として継続して働いていくことが望ましい。そこで、労働市場に参入する以前の若年層の雇用機会獲得能力(エンプロイアビリティ)を高め、労働市場のニーズに合った人材を育成する方法として、職業教育訓練の重要性があらためて注目されている。
日本には、新卒一括採用システムとも呼ばれる雇用慣行があり、長期雇用と組織内部で人材育成を行うことを前提に、「優秀な職業人となるポテンシャルがある」とされた新規学卒者を一括して採用するのが一般的となっている。つまり、日本の場合、若年層が長期安定雇用を獲得し、「優秀な職業人」となっていくためには、学業修了時に時機を逃さずに就業することが重要であるといえる。またこれは、日本では「職業人」としての人材育成や能力開発が就職先で独自に行われる比率が高く、労働市場参入以前の職業教育訓練や、教育機関・公的部門の人材育成に果たす役割が総体的に低い現状を示しているともいえる。
他方、雇用慣行の異なる欧州においては、新規学卒者にも、労働市場に参入した時点で「優秀な職業人」として完成していることが求められる。経験のない若年層は、経験豊富な「優秀な職業人」と同じ土俵に立って競争しなければならず、職を勝ち得ていくことは容易ではない。若年層における高失業率の原因のひとつとして、最初の就労機会が得にくいことが挙げられており、その対策として、エンプロイアビリティの向上、つまり、労働市場参入以前の職業教育訓練により、「優秀な職業人」を早期に育成することが必要とされるのである。
日本とは歴史や政治・経済構造など、社会的背景の異なる欧州には、職業教育訓練の機会を得ることが、個人の権利として保障されるべきであるという考え方があり、また、社会は「優秀な職業人」を責任をもって育成するべきであるという認識がある。こうした考え方に基づく欧州の職業教育訓練システムの中でも、部門を横断した包括的な取り組みにより、労働市場のニーズに的確こたえる人材を育成し、教育機関の修了した若年層の職場へのスムーズな移行を実現する方法のひとつとして、デュアルシステムが挙げられる。
中世以降の欧州のギルドと徒弟制度の流れをくみ、19世紀に制度化が進んだといわれるデュアルシステムは、教育機関(学校、職業訓練センターなど)での教育と、企業での実務実習を組み合わせた職業訓練制度であり、ドイツ、デンマーク、オーストリアなどで実用化が進んでいる。ドイツの場合、350職種の人材育成がデュアルシステムとして公的に制度化されており、各州の公立職業学校で、生徒が州の学習指導要領に沿って「理論」を学ぶと同時に、企業で訓練ポストを得た訓練生として「実践」の経験を積んでいる。訓練期間中、職業学校の生徒は、企業と職業訓練契約を結ぶため、手当の支給や社会保障制度の対象になる。2年から3年半にわたる訓練を終えた生徒は、それぞれの職能別会議所が実施する試験を受け、合格すると公的な資格を得ることができる。
デュアルシステムでは、官民が機能的かつ実際的に連携している点が特徴的である。例えば、「官」が教授すべき「理論」は、「民」の要請に従って、「民」で与えられる「実践」の機会と密接に結びつくように構成されている。これは、「理論」を通じて育成される人材が、「実践」レベルのニーズとミスマッチを起こさないようにするためである。他方、「民」の手による人材育成や資格授与は、「官」の制度の一環として取り入れられることにより、信用と制度的安定を与えられている。このように、デュアルシステムは、社会全体として人材育成を行う制度であるといえる。
グローバル化や少子高齢化に伴う労働市場の変化、スピードアップする技術革新とそれに伴う産業構造の転換など、共に新しい局面に向き合っている日本とEUは、1991年以降、社会・労働問題に関する会合を定期的に開催してきている。
2012年7月18日には、第14回日EUシンポジウム「若年者のエンプロイアビリティの向上と労働市場参入の促進」が東京で開かれ、日本とEU共通の課題である若年層の雇用について、政府、労働組合、使用者団体、学識者の代表がそれぞれの立場から発表を行った。EUからは、欧州委員会のラースロー・アンドル雇用・社会問題・ソーシャルインクルージョン担当委員が参加し、EUが抱える雇用問題と対策について論じた。
現職として初めて来日したアンドル委員は、別途、小宮山厚生労働大臣と意見交換を行い、日本とEUが共に直面している労働市場の課題について、双方の政策担当者および労使関係者の間で相互学習を継続することの意義を再確認した。
雇用に関する統計(EU統計局)
欧州雇用戦略(欧州委員会)
「成長・雇用協定」(欧州理事会)
「第14回日EUシンポジウム」(駐日欧州連合代表部)
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