2014.9.17
FEATURE
2002年に欧州委員会が創設した「EU文化遺産賞(EU Prize for Cultural Heritage /Europa Nostra Awards)」は毎年、「保存・修復」、「調査・研究」、「個人・団体の貢献」、「教育・啓蒙」の4部門における文化遺産保護の取り組みを称えている。欧州全土で最大30のプロジェクトや団体、個人に授与され、大賞(グランプリ)には1万ユーロ(2014年9月初旬のレートで約136万円)が贈られる。2014年のEU文化遺産賞は、30カ国160件の応募の中から27のプロジェクトが選ばれ、そのうち6つに大賞が授与された。
分野 | 大賞受賞プロジェクト | 国名 |
---|---|---|
カテゴリー1 保存・修復 |
ワルザー民族の住宅 アラーニャ・ヴァルセージア地方固有の建築物の保存 |
イタリア |
ドラゴミルナ教会(修道院)の17世紀フレスコ画 | ルーマニア | |
協同ワイナリープログラム | スペイン | |
カテゴリー2 調査・研究 |
ペロポネソス半島の古代ローマのアーチ形天井建築 | ギリシャ |
カテゴリー3 個人・団体の貢献 |
ケンペン景観協会 | ベルギー |
カテゴリー4 教育・啓蒙 |
「通り道」プロジェクト 色あせた街から新しいミシュコルツへ |
ハンガリー |
以下、大賞受賞プロジェクトの内容を見ていくことにする。欧州の文化遺産保護に関わる団体や個人が所属する連盟「ヨーロッパ・ノストラ」が運営し、「ヨーロッパ・ノストラ賞」の名称でも知られるEU文化遺産賞の本年(2014年)の授賞式は、5月5日にウィーン(オーストリア)のブルク劇場で開かれ、欧州連合(EU)からアンドゥルラ・バシリウ欧州委員会教育・文化・多言語主義・青少年担当委員、ヨーロッパ・ノストラのプラシド・ドミンゴ会長、オーストリアのハインツ・フィッシャー大統領らが出席。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏と共にウィーン少年合唱団の歌唱も披露され、音楽の都ならではの華やかな式典となった。以下、大賞受賞プロジェクトの内容を見ていくことにする。
カテゴリー1 【保存・修復】
http://www.europanostra.org/awards/130/
17世紀初頭に建てられたドラゴミルナ修道院は、ルーマニア北部のスチャヴァ市近郊にある重厚な建造物で、世界遺産にも登録されている。今回のプロジェクトは、教会内部のフレスコ画の修復に特化して行われた。17世紀に描かれたこのフレスコ画(フレスコとは壁に塗ったしっくいが生乾きのうちに水彩絵具で描く技法)は、キリストの生涯、聖人たち、天使たちなど壮大なキリスト教のシンボルを、素晴らしい色彩と目を見張るような力強さで表現している。プロジェクトには、ルーマニア人専門家の指揮の下、さまざまな国から集まった50人の専門家と学生たちが参加した。修復により、修道院を訪れる観光客は大幅に増加している。
http://www.europanostra.org/awards/133/
スペインのカタルーニャ自治州バルセロナの南西にある8つのワイナリーは、教会のような外観をもち、「ワイン大聖堂」とも呼ばれている。7つは建築家アントニオ・ガウディの弟子であるセサール・マルティネル(1888~1973)が設計、あとの1つは1992年のバルセロナ五輪にも使用されたスタジアムを設計したペレ・ドメネク・イ・ロウラ(1881~1962)の作品。8つのワイナリーは長い間ワインを作るために稼働し続けてきたことで、老朽化が進んでいた。そこで2009年、カタルーニャ州政府と地元の銀行をグループに持つラ・カイシャ財団が協定を結んで広範囲の修復を実施。建築上の芸術的特徴だけでなく、現在も稼働する産業施設として重要な存在となっている。審査団は、官民の協力体制による素晴らしい成功事例として高く評価した。
http://www.europanostra.org/awards/134/
カテゴリー2【調査・研究】
紀元前146年から紀元395年までの間、古代ローマ帝国の支配下にあったギリシャ。その時期の建築技術はすべて古代ローマから伝わったものと考えられていた。しかし、イタリア人のパオロ・ヴィッティ博士は、10年をかけ30カ所以上の現地調査を行った結果、従来の学説とは異なる新たな事実を見つけた。ペロポネソスにある寺院や水道橋など、アーチ形の天井をもつ建造物の工法は、古代ローマから伝わったものではなく、ペルシャ(現在のイラン)など東方の様式であり、西洋の建築様式とは明らかに異なることを発見したのだ。さらに、この地域で古くから用いられていた建築様式が他の地域に伝わって、中世やルネサンスの多くの建築物に影響を与えたと結論づけた。
http://www.europanostra.org/awards/138/
カテゴリー3 【個人・団体の貢献】
ケンペン景観協会(Kempens Landschap)は、ベルギー北部のアントワープ州のプッテという町に設立された、景観保護を目的とした協会。協会が管理する地区は、19世紀に国営の慈善集団居住地として使われていた場所で、都市部に住む貧しい家族や路上生活者たちがここに集められ、農作業などの仕事や家を与えられて暮らし、さらに死後はそこで埋葬された。
以来、830ヘクタール(東京ドーム約177個分の広さ)に及ぶ歴史的価値のある土地は、共同所有の形で学際的に管理されている。地区内には、宗教建築、かつての製粉所や農場、さらに軍事要塞も現存しており、自然保護と併せてそれらの重要な文化遺産の管理に若いチームがひたむきに取り組んでいる。審査団は「地域固有のかつての集団居住地に新しい未来を与えたことに感銘を受けた」と称賛した。
http://www.europanostra.org/awards/142/
カテゴリー4 【教育・啓蒙】
ミシュコルツはハンガリー北東部に位置する、ブダペスト、デブレツェンと並ぶ主要都市。1930年代からは製鉄・機械工業などの重工業によって繁栄したものの、東欧革命により状況は一変、1990年代には地域の産業や経済も急激に衰退した。現在では若年層の人口流出も起きている。そこで、地域に対する誇りと帰属意識を再形成するために、Atjaro(Passage)プロジェクトの下で、大規模な文化遺産保護プログラムが導入された。このプログラムでは、ミシュコルツの文化と産業遺産の保存・評価や遺産に対する意識向上、さらに、現存する建築遺産の再興に重点的に取り組んでいる。ミシュコルツの過去が再評価され、それが若者たちに新たな自尊心をもたらすことを目指して、人類学者、建築家、歴史学者、社会学者を含む強力なチームが懸命に努力を続けている。
http://www.europanostra.org/awards/145/
2014年 EU文化遺産賞 全27プロジェクト(受賞者・団体)の分布
詳しい情報はマークをクリック(英語)
より大きな地図で 2014 EU Prize for Cultural Heritage / Europa Nostra Awards 出所:Europa Nostra
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