2012.9.4
FEATURE
欧州委員会が2002年に創設したEU文化遺産賞は、文化遺産の保護に対する取り組みを、<保存・修復>、<調査・研究>、<個人・団体の貢献>、<教育・啓蒙>の4分野・対象に分けて評価し、業績を称えるもの。「ヨーロッパ・ノストラ*賞」の名でも知られ、毎年最大で28のプロジェクトや団体、個人に授与される。そのうち最大で6つが大賞として選ばれ、1万ユーロ(2012年8月20日のレートで約98万円)が贈られる。
2012年のEU文化遺産賞は、31カ国から応募の226件のうち、15カ国28プロジェクトが選ばれ、3月20日に発表された。授賞式は6月1日にリスボン(ポルトガル)のジェロニモス修道院(世界遺産)で開催。欧州委員会のアンドゥルラ・バシリウ文化担当委員、ヨーロッパ・ノストラのプラシド・ドミンゴ会長のほか、ポルトガルのア二バル・カバコシルバ大統領、同国出身のジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長が出席したセレモニーでは、28の受賞プロジェクト(個人、団体)の中から、文化遺産の保護に特に多大な貢献をした6つに対して、大賞が授与された。
*ヨーロッパ・ノストラ |
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「ヨーロッパ・ノストラ」(ラテン語で「我らの欧州」の意)は、欧州の文化遺産保護に関わる団体や個人が所属する連盟。NGOやNPOを中心に公的機関から企業までおよそ400の団体と約1,500人の個人が加盟している。1963年にイタリアの文化遺産保護団体「イタリア・ノストラ」が中心となって発足した。ベネチア水没の危機から文化遺産を守るのが当初の目的だった。その後、EUや欧州評議会、ユネスコらとの協力関係を深め、欧州の文化遺産保護活動を代表するロビー組織となった。EU文化遺産賞の選考会、授賞式を運営するほか、数々のワークショップを通じて文化遺産保護のネットワークを活性化させ、各地でフォーラムを開催するなどして危機に瀕する文化遺産の保護をアピールする。また欧州委員会と欧州評議会の共同イベントである「欧州文化遺産の日」のリエゾンオフィスとしても機能している。現在の会長は、世界的に有名なスペインのテノール歌手、プラシド・ドミンゴ氏。 |
以下に大賞に輝いた6つのプロジェクト/受賞者(団体)を紹介する。
1878年にアテネの中心街に建てられたアテネ新古典主義様式を代表する建築。125年以上にわたって校舎として使われてきたが、老朽化はもちろん、度重なる増改築による損傷が目立つようになり、改修・近代化が必要となった。作業はまず、増築された部分を取り除いて建物の原型を復元するところから始められ、構造を強化しながら進められた。この計画の目標は、引き続き教育の現場として機能し続ける建物にすることであり、新古典主義の特色を損なわずに近代的設備を組み込むことに注意が払われた。審査団は「洗練された修復・改築の素晴らしい例」と高い評価を与えた。
パウンドストックは英国の南西イングランド、コーンウォールにある村。ここに15世紀から16世紀の間に建てられた「ギルドハウス」がある。ギルドハウスといってもベルギーなどで有名な商業組合の建物とは異なるもので(綴りもguildでなくgild)、教区の集会所のような役割を果たす「チャーチハウス」。独自のケルト文化をもつコーンウォールにおいて、中世後期によく見られた典型的な集会所のひとつだが、現存するものはほとんどない。現在もなお当時の機能を果たすものとしては唯一である。教会とその「チャーチハウス」を中心とした中世の農村の歴史を知るうえでも貴重な遺産だ。審査団は、「当時の職人技をいまに伝える傑出した補修作業」と成果を高く評価した。
スペインのバレンシア県にあるサグントは紀元前にさかのぼる古い歴史をもつ街だが、1920年代の製鉄所の高炉が歴史遺産として保存の対象となるのは興味深い。何より石炭と鉄は、欧州統合の原点を象徴するものである(EUの母体は、1952年発足の欧州石炭鉄鋼共同体)。審査団はサグント第2高炉について、「未来の世代にとって、20世紀に栄えた製鉄業について理解を深めるのに極めて重要なモニュメント」と認識し、その保存に注がれた長期にわたる努力に敬意を表した。1986年に操業を停止したこの高炉は、全体を赤錆に覆われ、解体を待つだけとなっていたが、1998年に保存による歴史教育の意義が認められ、以来3期にわたって修復工事が進められた。現在は博物館として一般公開されている。
「アラ・パキス・アウグスタエ(アウグストゥスの平和の祭壇)」は、紀元前13年、アウグストゥス帝の凱旋を記念してローマに建てられた祭壇。外壁の上半分には数々の人物、下半分には植物をモチーフとする文様が彫刻されているが、これまで植物文様はただの装飾と考えられていた。しかし、ローマ第3大学植物生態学部ジュリア・カネーバ教授らの研究によって、植物の文様が一定の規則で配置され、象徴的な意味をもっていることが図像学的に示された。それによると、祭壇の彫刻は、再生を称え、新時代の到来を祝うアウグストゥスのメッセージを表したものと解釈することができる。
教師であるパラスキーバ・コバチさんは、トランシルバニアのセーケイ地方(ハンガリー系の少数民族であるセーケイ人が居住する地域。現在はルーマニアに属する)に残る「セーケイ門」のリストアップと保存に40年以上を捧げてきた。セーケイ門は、150年以上前につくられた木造の門で、民族調の精緻な木彫り細工が施されたもの。彼女の調査のおかげで、これらの門が貴重な工芸品であり、消滅の危機にあるとの意識が高まり、保存活動に携わる人々の輪が広がっていった。審査団は、「資金に恵まれなくとも、歴史保存の大切さを訴えることに成功している人々が欧州の至るところにいることを示す素晴らしい一例」として、コバチさんの献身、才能、熱意を称えた。
ノルウェー遺産財団は2000年以来、小学生から18歳までの青少年が参加する地元の文化遺産の保存・修復活動を全国的に展開している。子どもたちは、史跡の修復や景観の保護といった実際の作業をしながら、身近な文化遺産について深く学ぶことができる。同時に文化遺産を破壊から守り、地域の人々と情報を共有することにもつながる。この計画で修復された史跡はこれまでに1,128カ所(2012年現在)。2万2,500人を超える子どもたちがのべ16万時間の作業に携わった。またこれらの作業を通じて広まった情報は、数十万人の人々と共有されたことになる。審査団は、活動の教育的な側面とともに、低予算で文化遺産の保存を可能にする実効性も称賛し、「欧州全域の教育機関に推薦できるもの」と期待を込めた。
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カテゴリー1【保存・修復】 (16プロジェクト)
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カテゴリー3【個人・団体の貢献】 (4団体/人)
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