2018.5.31
FEATURE
毎年違った都市で通年繰り広げられるEUの「欧州文化首都」プロジェクト。今年はレーワルデン(オランダ)とヴァレッタ(マルタ)が独自のアプローチで豊かな文化を発信。日本人アーティストたちが関わる作品や公演もあり、見どころが満載だ。現地から届いたEU MAG読者へのメッセージもお届けする。
欧州文化首都は、1985年にギリシャのメリナ・メルクーリ文化大臣(当時)の呼び掛けで始まった欧州連合(EU)の文化プロジェクト。各都市の魅力を存分に発信するかたわら、欧州市民としての一体感を生み出し、地域の活性化を目指す。現在は、EU加盟・候補国および欧州経済領域(EEA)の国々から2カ国・2都市が選ばれ、毎年開かれている。開催国やEU域内の人々はもちろん、世界各地からも観光客を引きつける。以下、2018年の開催都市レーワルデン(Leeuwarden)とヴァレッタ(Valletta)、それぞれの「欧州文化首都」の取り組みの一部を紹介しよう。
オランダの首都アムステルダムから北東へ約140kmにあるレーワルデンは、北海に面し独自の文化と言語(フリジア語)を持つフリースラント州の州都。土地ゆかりの歴史や文化を記念する600以上のモニュメントがあちこちに立つ、中世の名残を伝える美しい街だ。街中を縦横無尽に走る運河を遊覧船でクルージングするのもよいし、冬のフリースラントでは、レーワルデンが始・終点となり州内の11都市を通る全長200キロのスケートコースで競われる「11都市スケートマラソン」が人気となっている。また、古今東西の陶磁器を集めた膨大なコレクションを誇るプリンセスホフ陶器博物館は、数ある名所の一つ。そしてレーワルデンは、第一次世界大戦中の「伝説の女スパイ」とされるマタ・ハリの出身地としても知られている。
レーワルデン2018のテーマ「大きな夢を抱こう。思い切って行動しよう。違うことを恐れずに(Dare to dream. Dare to act. Dare to be different.)」は、あらゆるものを迎え入れ、新しい選択肢を探り、未知の世界とつながろう、という思いを表している。音楽や演劇、ランドアート(自然の素材を用いて屋外で制作された美術作品)、オペラ、スポーツなどの多彩なジャンルで、メインプログラム60件を含め全部で1,100件以上の催しが行われる。
“だまし絵”や、同じモチーフを繰り返しながら変容させて描く作品群で、独自の世界を創り出した版画家のマウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898〜1972)は、レーワルデン生まれ。今回の特別展では、80点以上のオリジナル版画とスケッチ画約20点を、彼にゆかりのある写真や品々と共に展示し、イタリアやスイスにも住んでいた“エッシャーの旅”の足跡を辿る。
世界で活躍する11カ国のアーティストがデザインした噴水が、州内11都市でそれぞれ披露される。エイルスト市では、日本を代表する現代美術作家・大巻伸嗣が地元の花をモチーフに、華道の技法「立花」を取り入れてデザインした噴水を見ることができる。このプロジェクトはEU・ジャパンフェスト(後述)の一環で、欧州文化首都の会期終了後も11の噴水がレガシー(遺産)として各市に残される。
南フランス発のパフォーマンス集団「ロワイヤル・ド・リュクス」による、初のオランダ公演。15メートルもの巨大な人形が、3日間をかけて、レーワルデンに伝わる民話と歴史をモチーフにした新しい一大スペクタクルを演じる。
“地中海の宝石”と呼ばれるマルタは、イタリア・シチリア島の南、地中海に浮かぶ美しい島国。欧州とアフリカに挟まれ、政治的にも文化的にも周辺諸国から強い影響を受けてきた長い複雑な歴史があった。1565年にオスマン帝国に勝利したマルタ包囲戦、1964年の英国からの独立、1974年の共和制移行、そして2004年のEUへの加盟が、マルタの人々にとって誇らしい歴史として記憶にとどめられているという。
首都ヴァレッタは、オスマン帝国軍との戦いで得た経験から、難攻不落の要塞として設計・建設された都市で、今では街全体がユネスコの世界遺産に登録されている。人口約6,000人の小さな街だが、ローマで活躍した画家カラヴァッジョの作品が見られる聖ヨハネ大聖堂や、紀元前の地下神殿で発掘された女体像「マルタのヴィーナス」が展示されている国立考古学博物館などがあり、マルタの歴史や文化に思いをはせながら散策するのも楽しい。
マルタ初の欧州文化首都として、国を挙げて祝うヴァレッタ2018。マルタ島とそのすぐ北西にあるゴゾ島では、「島の物語(Island Stories)」「未来のバロック(Future Baroque)」「航海(Voyages)」の3つをテーマに、140以上のプロジェクトと400以上のイベントが催される。欧州と北アフリカの間にある島国というユニークな地の利を生かして、地中海のさまざまな地域から多様な文化を集結させようという試みでもある。
ノッテビアンカとは、イタリア語で「白夜」、転じて「眠らない夜」の意。マルタで毎年開かれている国内最大の芸術文化祭で、今年はヴァレッタ2018のために新しいデジタルメディアや市民参加型のインスタレーションなど、特別な趣向が凝らされる。また例年通り、街中できらびやかなパレードが行われたり、路上で音楽や踊り、演劇が披露されたりするほか、博物館や歴史的建造物などの公共施設も無料開放となる。この日はレストランやカフェも遅くまで営業しているので、お祭り気分でナイトライフが楽しめる。
「Strada Stretta(狭い道)」のイタリア語名でも知られるこの通りは、幅約3.5~4メートルの、文字どおりヴァレッタで最も「狭い道」だ。19世紀~20世紀半ばに英・米の兵士が集う飲食街として栄え、戦後しばらく廃れていたが、数年前から歴史的建物の修復作業が進み、クリエイティブな活動の場などとしても再びスポットを浴びている。全長665メートルの道沿いにあるジャズバーやキャバレー、劇場などには世界的なミュージシャンやアーティストが集い、豊かな都市型エンターテインメントを体験できる。ヴァレッタを訪れたら必ず立ち寄りたい。
日本人振付家KENTARO!!が、マルタを代表するオルタナティブロックバンド「Plato’s Dream Machine」やマルタ人ダンサーと共同制作するダンスイベント。既存のジャンルを超えた新しい形のヒップホップを披露する。こちらもEU・ジャパンフェストのプログラムの一つ。
1993年以来、欧州文化首都では、EU・ジャパンフェスト日本委員会の支援で、「EU・ジャパンフェスト」と銘打った、日本に関連したさまざまなジャンルのプログラムが行われてきた。第26回となる今年のEU・ジャパンフェストの一例を挙げれば、レーワルデンでは、手塚治虫・浦沢直樹の世界観を表現した話題作『プルートゥ PLUTO』が、2月に行われた欧州公演で好評を博した。また10月~12月には、日本・キプロス・オランダの作家による合同のアートプロジェクト「共通の神話を探して」に、紙川千亜妃と石澤英子が参加する。
ヴァレッタでは、「光と影」をテーマに落語、インタラクティブアート、漫画、アニメ、合気道など古今の日本文化を展開する「日本文化の祭典:島の光」が催される。そして「ヴァレッタ・デザインクラスター:屋上庭園デザイン」を建築家の近藤哲雄が担当し、2019年の完成を予定している。両都市で、気鋭の日本人アーティストによる活躍が目覚ましい。
記録遺産として1999年からシリーズとして続いている写真展「日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ」もまた、日本・レーワルデン・ヴァレッタの合同プロジェクトとして行われる。第20回の今回は、オランダ出身の写真家アリス・ウェーリンガと、マルタ出身の写真家アレクサンドラ・パーチェが来日し、それぞれが「青森県」をテーマに撮り下ろした作品を発表する。「ねぶた祭り」に魅了されたウェーリンガの作風とは対照的に、パーチェは漁村に生きる人々の日常を切り取る。
レーワルデンは、オランダの首都アムステルダムと似た都市景観を持っており、運河や邸宅、歴史的な市街地をはじめ、町中の運河を巡る遊覧船も多いことから「リトル・アムステルダム」と称されることがあります。といっても、レーワルデンは単なる“ミニ版”にととまらず、世界的に有名な版画家のエッシャーや、第一次世界大戦中にスパイとしても活躍したダンサー、マタ・ハリの生誕地としても知られています。イベントに参加している国内外のアーティストから地元の住民まで、フリースラント州全体が一体となって皆さんをおもてなしします。ぜひこの地域と人々の魅力を発見し、体験してください。
マルタで初めて欧州文化首都が開かれる2018年は、わが国の人々にとって記念すべき年といえます。首都ヴァレッタが洗練された文化発信の拠点となり、地中海で最も魅力的かつ革新的な国際都市となることが、私たちの願いです。日本を含め、世界各国と協力関係を築いてきたことを誇りに思いますし、今後もインスピレーションを与え合い、一緒に何かを創り上げていければ素晴らしいですね。この機会に、皆さんをヴァレッタへお誘いしたいと思います。日本と同じように、マルタも壮観でユニークな文化遺産に恵まれているので、きっとお楽しみいただけることでしょう。
2019年の欧州文化首都は、イタリアのマテーラとブルガリアのプロヴディフでの開催が予定されている。
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