2012.2.17
EU-JAPAN
—エアバス・ジャパンの社長に就任されてからの1年半を振り返ってのご感想をお願いします。
ステファン・ジヌー(以下SG) あっという間でしたが、2011年はエアバスが日本で史上初めて年間の受注シェア100%を達成したこともあり、非常に良いスタートを飾りました。日本に格安航空会社(LCC)が誕生したのは、英語で言えばゲームチェンジャー、大きな出来事です。これは結果として私たちに有利に働きました。日本の新しいLCCがすべてエアバスを選んでくれた。新規参入の事業者ですから、受注から実際に機体が空を飛ぶまでの期間も短い。私たちにとっては、短期間で大きな前進を遂げたことになります。
エアバスの近・中距離向け最新型旅客機「A320neo」。2010年12月以来すでに受注が1200機を超え、過去最速のペースを記録している © AIRBUS
—その決め手となったのは何だと思いますか?
—A320がLCCと近・中距離旅客機の需要に応えたということですが、それ以外の機種、たとえば長距離向けの大型機についてはいかがですか?
SG スカイマークが日本で初めてA380(超大型旅客機、500席超)を購入してくれました。米国を除いて全世界的に主流なのは、ハブ空港どうしを大型旅客機で結び、そこから小さい飛行機で連絡するという輸送の形態です。日本はまだそれがしっかりできていない。だから日本の市場は、ハブの機能をもっている仁川空港(韓国)などに旅客をどんどんとられていく。大韓航空で仁川から日本の地方まで楽に行けるわけです。成田空港からは最近増えたとはいえ、国内10都市にしか行けない。超大型旅客機の需要をもっと感じてもらうには、日本にもハブのロジックが浸透しないといけません。
—エアバス・ジャパンの具体的な業務について教えてください。
SG 主に営業支援とマーケティングです。営業は欧州の本社が担当するので、その環境を整えることです。マーケティングについては、お客様に必要な情報を集めて提供します。たとえば、運航形態を想定して何席から利益がとれるのか、といったデータ作りをします。日本は先行者が有利な市場ですから、エアバスが日本の空を飛んでいないのはボーイングのほうが優れているから、と思われがちですが、そうとは限らないという基礎情報を伝えていかなくてはならないわけです。
—人材についてお聞きしたいのですが、日本企業のように新卒採用を行っているのでしょうか?
SG 今までは飛行機の知識や経験のある人たちを中途採用していたのですが、今後は新卒の若い人たちも採っていくよう変えているところです。我々の仕事はやはり航空のプロ相手ですから、そういう専門的な知識を持った人材が求められています。今のエアバス・ジャパンには東大で航空工学を専攻した人が多いです。もちろん国際感覚も必要ですが、まずは基礎知識が第一です。専門知識以外なら、必要なことは後からいくらでも教えられますからね。その逆は難しいです。
—もっとヨーロッパの人がたくさんいる職場だという印象がありましたが…。
SG 本社から派遣された技術系の駐在員は何人かいます。でも彼らは出向の形で、常にお客様のそばにいますね。
それ以外のスタッフは1名を除いてすべて日本人です。
—日本の企業とは違うヨーロッパ的な企業文化があると思うのですが、たとえばスタッフの男女比についてはどうですか?
SG 男女のバランスについては常に考えています。でもまだエアバス・ジャパンにシニア職の女性はいません。もともと工学系に女性の人材が少ないことも結果としてはありますね。機会を積極的に作る努力はしています。たとえば最近入ったジュニア・マーケティング・マネージャーの若い女性には、何度もフランスに送って研修を受けさせています。待遇面で男女差はもちろんありません。
—そのほかに日本式の経営と決定的に異なる点はありますか?
SG 若い人に責任を与えることだと思います。日本では、ある程度の年齢にならないと任せられないという傾向がありますが、ヨーロッパではもっと早い段階で責任を与えます。私もそうでしたし。確かにそれは、チャンスでもある反面、リスクでもあります。そこでコケれば次はないわけですから。挑戦したいという人がいて、できると判断すれば任せる。そうすればモチベーションも上がります。日本の場合は、挑戦をあまり重視せず、経験を買う。それも意味のあることだとは思うので、私はそのブレンドにしたいですね。
—責任感や自発性という意味では、日本とヨーロッパの教育の違いもあるのではないですか?
SG その通りです。ヨーロッパ、とくに私が育ったフランスでは、若いうちに自分の考えをはっきり持たせる、ということが教育のひとつのポイントになるんですね。まず自分が何を考えているかをきちんと把握して、それを相手に説明して、説得する。そこから仕事になるわけです。日本人はいい意味で言えば謙虚。先輩がやっていることを見て学ぶ。フランスのやり方では最悪の場合、何もわかっていない自信たっぷりの人が責任を持つという大変なことになります(笑)。ですから、完全にヨーロッパ式にするのではなく、両方のよい面をうまく取り込むことが大切です。それに、お客様は日本人ですから、その価値観も尊重しなくてはならないわけですし。
—ご自身はそういう日本の組織のやり方というのをどのように学んだのですか?
SG 私は日本に来て最初の3年間、通産省(当時)やJETRO(日本貿易振興会=当時、現・日本貿易振興機構)で働きました。そのときに、自分の変なプライドは捨てて、みんなと同じようにやってきたつもりです。当時の同僚が何と言うかわからないけど(笑)。そこで学んだこと、学んだというより実感したことを経て、次のステップに至ったわけです。
—最初は日本の職場に驚きませんでしたか?
SG 大部屋のど真ん中に座って、触れる距離に何十人もいて、目の前で誰かが電話で怒鳴っている、こういうのは欧米の人からすると、カルチャーショックなわけです。あとは会議が長かった。会議中に寝ている人もいる。夜遅くまで働いて、そのあとに飲みに行くとか。
—そういう組織のあり方に疑問を持たれませんでしたか?
SG 問題点は寝不足になることです(笑)。でもこういうやり方は効率が悪い、とは単純に言えないと思います。飲みに行くのだって、組織を維持するひとつの手段なんですね。これがないと結局は問題が出る。とにかく最初は組織に溶け込もうと思って、みんなといっしょに過ごしました。孤独を感じる時間もなかった(笑)。まあ、人生一度の経験だと思ってエンジョイしたし、いい勉強になりましたね。
—これほど日本に長くいることは想像していましたか?
SG 最初は2年くらいで帰るつもりでいたんです。そうしたらまずフランス大使館、その次はユーロコプターから声がかかり、ゴッドファーザーのように断れない申し出が続いてきたんです(笑)。毎回魅力的な提案でした。いつの間にか今年でちょうど20年です。ヘリコプターの仕事で日本全国を回ってきましたが、日本は本当にきれいな国です。田舎の隠れた温泉に入ったり、おいしい食べ物があったり、いつも発見があって、まだ飽きることはないですね。フランスにはほぼ毎月出張で行くんですが、フランス料理だって日本の方がおいしかったりする(笑)。フランスでの楽しみは、朝早く、外に出てすぐに温かいクロワッサンを食べられることかな。
© AIRBUS
—最後に、これからの日本と欧州の関係についてお聞かせください。日本は戦後、外交の軸はずっと米国でしたが…。
SG やはり、政治、外交、産業、あらゆる面で、日本にはもう少しバランスをとってほしいですね。日米欧の関係を三角形で見ると、どうしても日本と欧州を結ぶ線がまだ細いです。最近ですと、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)ばかり注目されますが、実は並行して同じような話がヨーロッパと進んでいるわけです。EUとのFTA(自由貿易協定)を通じて、対米と同じような関係になってほしい。それはお互いに意味のあることでしょう。日本が米国だけに頼るのはリスクが大きいと思うんです。
航空機産業を例に挙げると、別にボーイング・バッシングをするつもりは全然ないんですが(笑)、787型機の納入が3年以上遅れたのが話題になっている。お客さんはもちろん、産業全体にとって大きな打撃です。ですから、選択肢を別に持つというのは極めて常識的なことだと思います。エアバスは欧州の象徴的な企業ですから、ある程度ボーイングとバランスがとれたときには、日本と欧州の関係全体が改善された成果というように見られるでしょう。エアバス・ジャパンには、欧州全体が注目していると思います。
—FTAのほかに、日本と欧州が近づくカギは何だとお考えですか?
SG 人と人との交流があると思います。先ほども人材の話が出ましたが、日本の一番優秀な学生が欲しい私たちにとって、若い世代をいかに口説けるかが大事です。20年先、50年先の飛行機を一緒に作りましょう、そういう思いを込めた活動をしているのです。共に働く場が増えれば、徐々に誤解や未知数な部分も減っていくのではないでしょうか。
—ビジネスとしてだけでなく、とても重要な責務を負っていらっしゃいますね。
SG はい。がんばります(笑)。
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