2016.11.1
Q & A
2015年12月に採択された「パリ協定」は、国連と政府間の協力が実を結んだ、21世紀最初の主要な多国間協定です。気候変動という脅威に対する地球規模での対応の核をなすもので、温暖化を2度未満に抑え、さらには1.5度未満に向けた努力を追求するための行動計画が盛り込まれています。
また、世界全体の、法的拘束力のある協定として、クリーンエネルギーへの移行が行われなければならないという明白なシグナルも送っています。資源と、取るべき政策が化石燃料を前提としたものから転換されなければならないのです。パリ協定では、最も貧しくぜい弱な国々に対し、彼らが二酸化炭素(CO2)の排出を削減し、気候変動による悪影響に備え、透明性の高い協定枠組みに効果的に参加するための資金を、先進諸国が拠出することに合意しました。これは、重要な拘束力あるコミットメントです。
本年、パリ協定の早期発効に向けた大きな流れが勢いを得ており、すでに批准手続きを完了した国の数は増え続けています。EUは、EU全体として同協定を批准することを決め、10月4日に欧州議会が承認し、批准に関するEUの政治的手続きは完了しました。EUの批准により、協定は批准国の数などの必要な条件を満たし、1カ月後の11月4日に発効することとなりました。
2016年11月7日から18日までモロッコのマラケシュで開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第22回締約国会議(COP22)では、パリ協定を「実行し」、「実現すること」、そして、「詳細を明確にする」ことに焦点が置かれるでしょう。EUとしては、日本が2016年のパリ協定批准に向けて迅速に動き、そして、温室効果ガスの排出量削減の世界的な努力にさらに前向きな貢献をするという、政治的な決意を見せたことを歓迎しています。EUや日本のような世界の主要経済圏は、自国内だけではなく、最もぜい弱な国々を支援して、低炭素で気候変動に対して強靭な経済へと移行することを主導するという、特別な責任を負っているのです。
EUとその加盟国は、具体的な実現策に非常に精力的に取り組んでいます。EU域内では、野心的な気候政策に前向きに取り組んでおり、新しく「気候・エネルギー枠組み」のための提案を行っています。これは、2030年までに1990年比で少なくとも温室効果ガスの排出を40%削減する、という目標への到達を容易にし、さらに低炭素経済への移行促進に役立つことでしょう。将来的には、先進国全体で、2050年までに1990年比で80%~95%の排出削減をしなくてはならない、とEUは考えています。そして、それに必要な政策を立案しようとしています。
まず、EU自体は、2030年に向けて1990年比で少なくとも40%の排出削減を達成するという目標をすでに設定しています。その上で、EUは、エネルギー効率を最低でも27%改善すること、また、エネルギーミックス全体の中での再生可能エネルギーの割合を少なくとも27%まで高めることに取り組んでいます。EU排出量取引制度(ETS)では、産業部門からの温室効果ガスの排出量に対し、価格付けを可能にすることによって、エネルギー消費量と排出量を低減させる市場主導のインセンティブを導入しています。このように、ETSは、EUの排出量削減目標達成のための決定的動機付けになるのです。
欧州委員会は、現在のETSの効率を高めて、2030年目標(2005年比で産業排出の43%削減)に適合させるための政策立案を始めました。EUは、特にアジアにおけるパートナー、とりわけ中国と韓国が、それぞれ国内ETSを導入することも支援しています。しかし、産業部門の温室効果ガス排出量は、EU全体の排出量の一部でしかないのです。ETSでカバーされていない部門について、欧州委員会は2016年7月に、以下のような一連の方策を提案しました。
EUのエネルギー政策は、統合されています。全ての政策領域は、同じ目標を目指し、ある部門の施策を実施すればそれが別の部門の施策を助けるように策定されているのです。エネルギー効率の改善、新しい電力市場の設計、再生可能エネルギー政策の枠組みばかりでなく、研究、イノベーション、競争力の向上を鑑みた、統合された「エネルギー同盟」戦略の提案などが、今後、われわれが取り組むべき仕事なのです。
EUは、気候変動対策は経済成長を阻止しないという総体的な考え方に立っています。1990年以降、EUのGDPは48%成長しているのに、EU全体での排出量は24%減少しています。大胆かつ決定的な気候政策によって、新たな雇用、事業、技術、競争の優位性を生み出すことが可能になったのです。それによって、私たちは新しい「気候と調和した経済(climate-compatible economy)」に備えることができるのです。
低炭素経済に向けた経済改革が、投資の大幅な変革を意味することは疑いの余地がありません。特に、インフラや資産などが高排出を固定化してしまっている場合にはなおさらです。低排出や気候に強靭な経済への移行には、民間の投資は不可欠です。EUの財政支援策は、投資を喚起できるようインセンティブを付与する規則や政策によって、民間の投資を補完するものです。
2013年、EUは2013年~2019年の予算の少なくとも20%を気候政策に拠出することで合意しました。2015年には、EU内の幅広い投資を促進するために「欧州戦略投資基金」が創設され、2020年までに5,000億ユーロの投資水準に到達することが目標とされました。
同基金は、パリ協定とEUの気候目標の実現に向けた事業計画に、全体の40%を充てることになるでしょう。しかし、EUは、域外での努力にも踏み込んでいます。EUは、加盟国とともに、公的資金から145億ユーロもの額を、発展途上国における気候変動プロジェクトに拠出しました(2014年の数値)。
最近になって、欧州委員会は、最大440億ユーロの投資を集める「欧州対外投資計画」を提案しました。これは、特にアフリカとEU近隣諸国のパートナーを支援するための戦略的基金を含めたもので、斬新な保証策を通して民間投資を促進しようとしています。加えて、欧州投資銀行(EIB)は、EUによる保証の下で2014年~2020年の間に最大323億ユーロの融資ができるようになっています。
「EU理事会、2021~2030年のEU ETS新規則を承認」(2018年2月27日付 EU代表部ニュース)
地球温暖化対策の歴史的合意「パリ協定」(EU MAG 2016年1月 ニュースの背景)
EUが目指すエネルギー同盟とは?(EU MAG 2015年2月 質問コーナー)
気候変動枠組み―パリ会議での合意を目指して(EU MAG 2015年1月 ニュースの背景)
世界の気候変動対策を先導するEUの取り組み(EU MAG 2014年1月 特集)
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