2016.7.11

Q & A

北極圏に関するEUの政策を教えてください

北極圏に関するEUの政策を教えてください

Q1. 北極圏に関する欧州連合(EU)の統合政策が策定されたそうですが、その背景はどのようなものですか?

北極圏(北極線より北の地域)の温暖化は地球平均の約2倍のスピードで、予想よりも広範囲に進んでいます。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~2014年にかけ公表)では、1980年代初頭よりほとんどの地域で永久凍土温度が上昇し、将来にわたってこの傾向が継続する、と予測されています。すでに海氷は溶け出し、このままでは早ければ今後20~40年で夏季には北極圏から氷がなくなる可能性もあり、生態系、海水位、経済に与える影響が懸念されています。また、海洋工学が急速に進歩したことから海運、採鉱、炭化水素資源の採取などの活動が活発となり、北極圏の環境を破壊しつつあります。北極圏は非常にぜい弱で、かつ地球全体の環境や気候システムに多大な影響を与えます。

EUの行政執行機関である欧州委員会が、北極圏に関するEU初の政策文書を作成したのが2008年。その中で、EUは北極圏を支える主要パートナーとなることが打ち出されています。その後、EUは徐々に北極圏への関与を強め、2014年には欧州議会とEU理事会が、北極圏問題に対処するEUの行動と資金援助プログラムをより首尾一貫した明快な形で行えるよう、統合政策を作成することを要請。それを受けて、欧州委員会とフェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長が共同で策定したのが、2016年4月27日に発表された、EU初の北極圏に関する統合政策なのです。

出典:IPCC「CLIMATE CHANGE 2013 The Physical Science Basis」

Q2. 北極圏の問題に、EUや国際社会はどのように取り組んでいますか?

北極圏には、カナダ、デンマーク(グリーンランド、フェロー諸島を含む)、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、ロシア、スウェーデン、米国の8カ国が含まれており、それら北極圏諸国のうち、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの3カ国はEU加盟国です。またEUはアイスランドおよびノルウェーとは欧州経済領域(EEA)の枠組みで緊密な関係を有しており、カナダや米国などの国々はEUの戦略的パートナーです。

北極圏の課題への対応の第一義的な責任は北極圏諸国にありますが、多くの問題は、地域的もしくは多国的な協力があってこそ、より効果的に取り組めます。EUは以下のような協議機関を通して、大きな貢献を行っています。また、国家の管轄外にある北極圏公海の持続可能な管理は世界全体の責任であり、EUもその責任を負っています。

北極圏の持続可能な開発と環境保護に直接関与する国際的な政府間協議体で、北極圏諸国8カ国からなる「北極評議会(Arctic Council)」には、EU加盟国のうちフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、英国が常任オブザーバー、EUは非常任オブザーバー(ad hoc observer)として関与しています。「バレンツ海欧州北極圏評議会 (BEAC)」は、北極海の一部であるバレンツ海における政府間および地域間協力のための協議体で、欧州委員会が加盟しています。「ノーザンディメンション(Northern Dimension)」は、EU、ロシア、ノルウェー、アイスランドの間での経済・文化・環境・運輸問題に関する対話と具体的な協力を促進させることを目的とした共同政策です。

そのほか、国際的な枠組みとしては、さまざまな海域における国々の管轄権などの秩序を確立する「国連海洋法条約(UNCLOS)」(EUは条約に署名済み)、船舶航行の安全や船舶による海洋汚染の防止などを管轄する国連の専門機関「国際海事機関(IMO)」(全EU加盟国が加盟、欧州委員会はオブザーバー)などがあります。

上記のような枠組みを土台としながら、EUはさまざまなプロジェクトによって一連の問題に世界屈指の貢献をしています。例えば、気候変動が北極圏の生態系と主要な経済部門に与える影響に関する研究活動、および北極圏の海氷・氷河・氷床の変化や、氷が消失することで海水位に与える影響などについて研究するプロジェクトなどです。これらにEU予算からは、2002年以来2億ユーロを注ぎ込んできました。これはEU加盟諸国独自の拠出を除いた額です。

さらにEUは、先住民や地元住民を対象にしたさまざまな活動を通して多額の財政支援をしています。2007~2013年の期間に行った資金助成プログラムの総額は11億4,000万ユーロに及び、EU加盟国との共同助成も含めると19億8,000万ユーロに上ります。2014~2020年の間、欧州構造投資基金(ESI基金)から北極圏における研究イノベーション、中小企業支援、クリーンエネルギーなどの戦略的な分野に10億ユーロ以上が投資されることになっています。

統合北極政策に関する記者会見を行うモゲリーニEU上級代表(左)と欧州委員会のヴェッラ環境・海事・漁業担当委員(2016年4月27日、ブリュッセル) © European Union, 1995-2016

Q3. EUの新たな統合政策では、どのようなことに取り組んでいきますか?

北極圏で起きている変化の深刻度に呼応し、今回の統合政策では、相互に密接に関連する「気候変動」「持続可能な開発」「国際協力」の3つの主要分野において、EUの政策をこれまで以上に推進するために、39の行動を提案しています。その分野ごとの概要は以下の通りです。

北極圏で極地研究をする「EU-PolarNet」の研究員 © European Union, 2016

気候変動

  • EUは自身の温室効果ガス排出を1990年の水準より2030年までに40%、2050年までに80%削減すると表明。昨年12月採択の気候変動に関する国際合意「パリ協定」を実施に移す努力を継続。気候変動適応・緩和策に、EU予算の20%を確保
  • 地元住民や先住民コミュニティを含む北極圏諸国および関連の国際機関・団体などと連携して、北極圏における野心的な気候変動適応策策定の支援
  • EUの研究資金助成プログラム「ホライズン2020」の下、北極圏研究向けの現在の資金拠出水準(年間平均2,000万ユーロ)を維持。2016~2017年の業務計画で4,000万ユーロを、北半球の観測、天候、気候変動、および永久凍土減少の研究プロジェクトに充当
  • EUの17カ国の22の北極研究機関が、コンソーシアム「EU-PolarNet」の下、統合的な極地研究プログラムを作成
  • 北極圏における研究インフラ(調査基地、科学船舶、衛星観測)への国境を越えたアクセスと、データ資源への開かれたアクセスを支持。地球観測衛星の画像を活用するEUの「コペルニクス計画」は、北極圏の気候変動に関する国際的研究を支援

持続可能な開発

  • EUにはイノベーションやインフラ開発を推進する数々の資金助成プログラム・手段があるにもかかわらず、北極圏に含まれるEU加盟国の領土は投資不足に苦しんでいるため、各プログラム間の調整を強化
  • 船舶航行や海氷移動の観測・監視(「コペルニクス計画」)および衛星航法サービス(「ガリレオ計画」)を通じて地域の海洋安全に貢献

国際協力

  • 北極評議会、バレンツ海欧州北極圏評議会、ノーザンディメンションなどの国際的な協議体との連携強化
  • 北極圏に領土を有している国々のみならず、中国、インド、日本など、北極圏への関心を強めている全ての国々と、科学や研究などで協働
  • 北極圏の先住民や地元住民の権利が尊重され、EUの政策に彼らの意見が反映されるよう、彼らとの関与を継続

 

関連情報

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EUの北極海に関する政策

EU統合北極圏政策(政策文書)
以上全て英語

新北極圏政策(2021/10/14)

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