2018.4.10
Q & A
朝鮮半島の政治的・軍事的緊張が高まる中、外交的解決のために共に取り組んでいるEUとそのパートナー諸国。北朝鮮が昨今行ってきた核実験や弾道ミサイル発射を非難し、国際社会と歩調をそろえて対北朝鮮制裁を強める一方で、EUは緊急時における人道援助や人権状況の改善に取り組んできた。
欧州連合(EU)は、国際社会の主要な懸念の対象である朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)の核・ミサイル開発に対し、制裁と他の措置を組み合わせて圧力をかける一方で、意思疎通と対話のチャンネルを開けておく「圧力と関与(Critical Engagement)」という政策を取っています。その目標は、朝鮮半島および周辺地域の平和と安定に貢献し、国際的な核不拡散体制を擁護するだけでなく、同国の人権状況を改善することにあります。
1990年代からEUは、北朝鮮の核兵器開発を阻止しようとする国際的な取り組み「朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)」に参加し、資金を供与してきました(KEDOプロジェクトは北朝鮮側の約束不履行により2006年に終了)。また、1998年からEUは同国と定期的に政治対話を行い、2015年6月に行われた14回目となる最新の対話では、非核化、地域の安定と安全保障、人権の尊重といった国際的な問題のほか、北朝鮮国内の人道的状況などのさまざまな議題が話し合われました。政治対話は、EUの「圧力と関与」政策の一環です。
EUは、2001年5月2日と3日に、当時のEU理事会議長国であり朝鮮半島の2カ国と長い関係を維持してきたスウェーデンのヨーラン・ペーション首相率いる代表団を平壌に送り、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記と会談を行いました(写真下)。会談で北朝鮮側は、ミサイル発射実験を2003年まで凍結するほか、南北首脳対話およびEUとの人権対話を継続し、経済改革を推進する研修団をEUへ派遣する意向を示しました。その結果を受け、欧州委員会は同月14日、EU加盟国との協議の上で、EUと北朝鮮との外交関係を樹立する決定を行いました。
現在、EU加盟28カ国のうちフランスとエストニアを除く26カ国が、それぞれ北朝鮮と国交を結んでいます。北朝鮮にEUの代表部・大使は置かれていませんが、同国にある7つの加盟国(ブルガリア、チェコ、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、スウェーデン、英国)の大使館が、順番に同国内でEUを代表しています。また北朝鮮側は、在英北朝鮮大使館が対EU関係を管轄してきました。
EUの「圧力と関与」政策は、北朝鮮との意思疎通と対話のチャンネルを保持する一方で、制裁や他の措置で圧力をかけ、朝鮮半島の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化を実現させることを狙いとしています。この政策の下、EUは核・大量破壊兵器・弾道ミサイル開発計画の放棄を求めた国連安全保障理事会(以下、国連安保理)決議を北朝鮮に全面的に順守させるよう取り組んでいます。
例えば、2017年8月29日、北朝鮮が発射した弾道ミサイルが北海道上空を通過したことにより、日本を含む近隣諸国との緊張をさらに高めた際、フェデリカ・モゲリーニEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は「複数の国連安保理決議による国際的義務のあからさまな違反行為であり、国際平和と安全保障に対する深刻な脅威である」と非難。「この問題に関する欧州の方針は非常に明確である。さらなる経済的圧力、さらなる外交圧力、地域および世界のパートナーとの結束、そして周辺地域のみならず全世界にとって極めて危険な状況となり得る軍事的対立の悪循環への突入を防ぐ」と明言し、多国間解決への支持を表明するとともに、新しい制裁を提案しました。
EUが初めて北朝鮮に対する制限措置(制裁)を採択したのは、2006年11月のことです。これは、北朝鮮が核実験を行ったことに対する、国連安保理の制裁決議第1718号(2006年)を受け、同決議をEUの規則に置換し、かつEU独自の追加的措置を科したものです。EUの対北朝鮮制裁には、(1)国連安保理で決議され、EUが域内の法令に置換したもの、および(2)国連安保理決議を強化・補強する目的でEUが独自に行っているもの、という2種類があります。
制裁は、核兵器・大量破壊兵器・弾道ミサイルの開発に関わる恐れのある物資とサービス、技術の取引禁止、またこれらの開発に関わる個人と企業・団体の渡航制限や資産凍結、そしてより広い範囲において、貿易、投資、運輸、金融サービスが制限されます。そのほか、核技術、航空・宇宙工学、またより高度な製造業生産技術といった分野の協力関係も制限対象となります。
2017年7月4日、北朝鮮の発射した大陸間弾道ミサイル(ICBM)が日本の排他的経済水域内に落下しました。その後も続いた9月3日の6度目の核実験や、前月29日や同月15日の弾道ミサイル発射を受け、EUは9月15日に「非常識な挑発行為」(モゲリーニ上級代表)と非難した上で、北朝鮮の核計画に関わる資産凍結と渡航制限の独自制裁リストに、1個人と3団体を追加。10月10日のEU理事会では、国連安保理で決議された分野別制裁をEU法制に置き換え、(1)北朝鮮への液化天然ガスの販売禁止、(2)同国からの繊維製品輸入禁止、(3)北朝鮮への石油精製品および原油販売の制限、(4)EU加盟国が北朝鮮国籍の労働者に対し、新たに入国・就労許可を与えない、などの制限措置をさらに強化しました。
11月29日に北朝鮮が再びICBMを発射したことを受け、EU報道官は「世界の安全保障に対する重大な脅威」との声明を発表。2018年に入ってからも、EUは国連安保理決議に沿って対北朝鮮制裁対象リストを拡大し続けており、現在では同決議によって80人と75団体が、EU独自制裁によっては59人と9団体が、資産凍結と渡航制限の対象リストに掲載されています(2018年4月20日時点)。また、2月26日には、国連安保理決議第2397号(2017年)に合わせ、石油精製品の最大年間輸出量上限の引き下げ(200万バレルから50万バレルへ)や、禁輸措置対象分野の拡大、北朝鮮籍労働者を24カ月以内に送還など、さらなる制裁強化に踏み切りました。
2018年3月13日に欧州議会本会議で行った演説で、モゲリーニ上級代表は、緊張状態が続いた朝鮮半島の政治情勢、および韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との間で4月に開かれる予定の首脳会談について言及。「韓国の特使を通して、非核化を巡る交渉に北朝鮮が応じる意欲を示した。北朝鮮はこれらの交渉期間、核兵器実験やミサイル発射を控えるという報告を受けている」と発表し、「極東からのニュースに希望が持てる」と好意的に捉えました。
EUによるこれまでの対北朝鮮制裁の一覧はこちら(英語)。
EUと各加盟国は協力して、例えば不正な貨物積載の疑いのある北朝鮮の貨物船を拿捕するなど、制裁の実効を高めるための行動を取っています。また、日本などの国々と協調し、第三国に対して制裁を完全に実施するように働きかけています。
EUは、北朝鮮による拉致をはじめとする非人道的行為に対して、国際的な圧力を強める働きかけを行っており、毎年日本と共に、北朝鮮の人権問題に関する決議案を国連人権理事会と国連総会に提出しています。直近では、2017年12月に開かれた第72回国連総会本会議において、北朝鮮の組織的かつ深刻な人権侵害を非難し、外国人に対する拷問や勾留、拉致、法的手続きを経ない死刑にも深刻な懸念を示す、日・EU共同提出の決議が採択されました(採択は13年連続13回目)。
また、2018年3月23日の国連人権理事会でも、北朝鮮における人権侵害を非難し、責任者への処罰を求める決議案が採択されました。日本とEUが共同で提出した同決議案では、北朝鮮が国民の福祉の犠牲を顧みず、核兵器やミサイルの開発に資源を費やしていることや、国民の大半が食糧不足に苦しんでいる深刻な状況をあらためて指摘。日本人拉致問題については、被害者の家族が高齢化している現状を踏まえて、被害者の帰還問題は「差し迫っている」と明記しています(採択は11年連続11回目)。
2010年に欧州議会は、北朝鮮の人権侵害について調査するとともに、それが人道に関する罪に該当するかどうかを検証する「国連調査委員会(UN Commission of Inquiry)」の設置を求める決議を行い、積極的な働きかけを行いました。同委員会は、日・EUの共同提案を受けて、2013年3月に国連人権理事会内に設置されたものです。
国連の発表では、北朝鮮の国民のうち70%以上に当たる約1,800万人が食べ物を満足に買えない、基本的なサービスを受けられない、また人道援助を必要としているなどの状態にあるといわれています。干ばつや洪水、荒天が多いことも理由の一つですが、2013年の国際的制裁によって外国からの送金が難しくなり、人道援助機関の活動に影響が出ていることも事実です。
人道援助を政治的状況と関係なく推進するという国連の基本原則にのっとり、欧州委員会の人道援助・市民保護総局は、1995年以来、北朝鮮の国民に対して人道援助を提供しており、130のプロジェクトに総額1億3,560万ユーロを投入しました。そのほとんどが、安定した食糧供給、医療サービスの向上、また最も脆弱な立場の人々に対する上水供給と下水処理に関するものです。また、障害者や高齢者の社会的包摂、あるいは農村地帯の災害に備えるプロジェクトについても、北朝鮮の団体を援助しています。
これらのプロジェクトは、非政府組織(NGO)や国連機関などを通して実施されており、例えば2016年夏に発生した壊滅的な洪水への対応として、EUは救援物資を配布するために30万ユーロをフィンランド赤十字に拠出しました。また、EUによる支援と並行して、各加盟国も独自に北朝鮮への人道援助プログラムを実施しています。
また、北朝鮮の一定の組織や団体は、 EUの教育・研究・イノベーションプログラムに参加することができます。各加盟国独自の教育・文化プログラムも、北朝鮮国民と団体を受け入れています。ただし、現在実施されている対北朝鮮制裁の項目である「科学技術分野における協力の制限に違反しないこと」や、「各プロジェクトの諸条件に従うこと」などの制限が設けられています。
なお、EUと北朝鮮の間の経済関係は限定的で、両者間の貿易は、北朝鮮の対外貿易のわずか0.5%を占めるにすぎません。2016年の商品貿易総額は2,700万ユーロと非常に少なく、ここ数年の制裁の影響で、その額も減少傾向にあります。また、北朝鮮は世界貿易機関に加盟していないため、発展途上国や移行経済圏からのほとんどの輸入品に関して、EU 市場への無税または減税でのアクセスを受けられる「一般特恵関税制度」の対象にはなっていません。
更新情報
2018/04/20 ― EU独自制裁の対象人数を55人から59人に更新(関連プレスリリースはこちら)。
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「世界的注目を集めるEUの制裁の仕組み」(EU MAG 2014年8月号 政策解説)
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