2014.4.23
Q & A
2014年の議会選挙キャンペーンのスローガン、「ACT. REACT. IMPACT」は、EU市民一人ひとりの投票行動が「欧州を動かす」と訴える © European Union 2013 – EP Altiero SPINELLI building : © Architecte: AEL
欧州議会は、欧州連合(EU)の主要機関のひとつで、加盟各国の選挙で選ばれた議員で構成される立法機関です。欧州議会の選挙は5年に一度行われます。8回目となる今回の選挙は2014年5月22日から25日にかけて、全28EU加盟国で行われます。そもそも欧州議会は、EUの源流である欧州石炭鉄鋼共同体の共同総会として1952年に設置され、当時は加盟国議会の議員が二重議席という形で兼務していましたが、1976年に欧州議会選挙法が制定され、1979年から任期5年の欧州議会議員が直接選挙で選出されてきました。第1回選挙以来これまで7回はすべて6月上旬に行われてきましたが、今回初めて5月下旬に行われることになりました。前倒しの理由は、キリスト教の祭日である聖霊降臨祭の週末を避ける(今年は6月8日)とともに、選挙後に行われる欧州委員会委員長人事の時間にゆとりをもたせるためとされています。
欧州議会選挙法は、選挙の原則(普通、自由、秘密投票、比例代表制)など大枠のみを規定していて、各加盟国が個別の欧州議会選挙細則を定めています。そのため国ごとに方法の異なる多様な選挙となっています。結果公表の日時などの選挙日程はEUで決定しますが、投票日と投票時間、選挙人登録の必要性や期限などは各国が決定します。投票が義務となっている国(ベルギー、キプロス、ギリシャ、ルクセンブルク)もあれば、そうでない国もあり、選挙区も全国で1区の国もあれば複数の地域ブロック(例えば英国は12)に分割されている国もあります。
今回の選挙より、リスボン条約で定められている議員定数の上限に適合させるため、ドイツより3議席、12の加盟国より1議席ずつ減らすなどの措置により、総議席数が751に変更される © European Union 2012 – EP
選挙権を持つのはオーストリアの16歳を除き、18歳以上のEU市民(EU加盟国の国籍をもつ市民)です。立候補できる被選挙権を有すのも、18歳以上のEU市民と規定している国が多いのですが、21歳、23歳、25歳の国もあります。選挙制度については、比例代表制でも、政党だけでなく候補者も選べる非拘束式(open list)の国が多数ですが、政党内の名簿順位が決定されている拘束式(closed list)の国(フランス、ドイツ、北アイルランドを除く英国など)、単記移譲式(Single Transferable Vote system)をとる国(アイルランドやマルタ)や地域(北アイルランド)もあり、さまざまです。また、全国レベルで最小投票獲得率(国によって1.8%から5%まで)を設定し、達しない場合は落選として少数政党乱立を避けようとする国もあれば、このような足切りを設定しない国もあります。
EU市民の将来を決める重要な選挙 © European Union 2013 Source – EP
議員定数は、1979年の410から、その後の度重なる拡大で大幅に増員され、最近では2013年7月のクロアチアのEU加盟に伴い766に膨らんでいます。2009年12月に発効したリスボン条約では、議長を含めた定数が751となり、今回の選挙から適用されます。国ごとの定数は、最大96議席(ドイツ)、最小6議席(マルタ、ルクセンブルク、エストニア、キプロス)の間で、人口比例で配分されますが、人口の少ない小国に手厚く配分されています。議席はこのように国別に配分されますが、議員は、国家横断的に、政治信条を同じくする政治会派(political group、政党グループともいう)を形成して、活動を行います。
EU市民は、「EU市民権」の一部として、出身国ではなく、居住国で選挙人登録を行うことによって、選挙権と被選挙権を行使することができます。EU市民であれば、議員候補者に国籍条項はありません。例えば1994年の選挙でフランス人のモーリス・デュベルジェ(パリ政治学院教授)がイタリア選挙区で当選したことがあります。
注目点は3つあります。最も注目されているのが、選挙結果から、誰が欧州委員会の次期委員長候補者に選出されるかという点です。今回の欧州議会選挙は初めてリスボン条約(改正欧州連合条約、2009年12月発効)の下で行われますが、同条約によって欧州委員会委員長の候補者選びに変更が加わりました。すなわち、今回から、全加盟国の首脳および欧州委員会委員長からなる最高政治機関である欧州理事会が、選挙の結果を考慮して、かつ適切な協議を行った後、特定多数決により、欧州議会に委員長候補者を提案することになりました(下線部分が重要)。このため、欧州議会のほとんどの主要政治会派は、委員長候補者を立てて選挙運動をすることになりました。これは初めて適用される候補者選定手続きであり、EU市民がEUの将来を誰に託すかについて意思を表明する重要な機会を提供することになります。
欧州議会は、EU市民の声を議会に反映させることを目指し、積極的な投票を呼びかけている © European Union 2013 – EP
第2の注目点は、投票率です。加盟国の国政選挙の投票率は通常60%から90%と高いのですが、欧州議会選挙の投票率は、1979年の第1回直接選挙(9カ国)の61.99%から、1984年(10カ国)58.98%、1989年(12カ国)58.41%、1994年(12カ国)56.67%、1999年(15カ国)49.51%、2004年(25カ国)45.47%、2009年(27カ国)43.0%と回を重ねるごとに低下しています。国政選挙には、国の指導者を選ぶという明確な目標がありますが、これまでの欧州議会選挙にはそのような目標はありませんでした。今回の欧州議会選挙は、欧州委員会委員長の決定に間接的に関与する選挙となることで関心を呼び、市民のより積極的な参加が期待されています。それゆえに投票率低下に歯止めをかけられるか否かが、注目されているのです。
第3の注目点は、各政党の議席配分です。全体としては、これまでと同じように中道右派と中道左派が中心となることが予想されますが、反EU、反ユーロ、反移民などを旗印に掲げる極右政党が票を伸ばし、最小投票獲得率の条件を満たし、議席を獲得する可能性が高くなっています。これまでもフランスの国民戦線などの極右政党が議席を得ていましたが、2007年以降の経済危機を背景に、反外国人、反移民などの政策を掲げるポピュリスト政党が勢力を伸ばすことが懸念されています。
なお、前回の欧州議会選挙の結果については、『europe』の第259号(2009年秋号)の「中道右派が勢力を維持した欧州議会選挙」(14-15頁)が参考になります。
執筆=田中俊郎(慶應義塾大学名誉教授、ジャン・モネ・チェア)
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE