2012.4.11
Q & A
Q1. 欧州連合(EU)の「移動の自由」はどのように定められたものですか?
EUの母体である欧州経済共同体(EEC)の設立条約(ローマ条約、1958年発効)において、加盟国間で人、物、サービス、資本が自由に移動できる共同市場を創ることが目指されました。その後、1985年に西ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの5カ国が「人の移動の自由」の実現に向けて、域内国境を段階的に撤廃することに合意したのが「シェンゲン協定(The Schengen Agreement)」です。同協定は、当時の欧州共同体(EC)の枠外で締結されました。名称は、締結地であり、フランスとドイツの国境が交わる、ルクセンブルクの小さな村シェンゲンに由来します。
1990年には、域内の出入国管理をどのように廃止するか、そのためにどのような施策が必要かを定めた「シェンゲン協定を施行するための協定(The Convention implementing the Schengen Agreement)」が調印され、1995年3月にようやく実施の運びとなりました。つまり締結国どうしの間では出入国管理が撤廃されると同時に、域外国境の出入国管理を締結国間で調和させることになったのです。1996年までにはイタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、オーストリア、フィンランド、スウェーデンが加わり、シェンゲン協定の締結国は13カ国に拡がりました。
1997年に、前述の2つの協定が他の関連法規とともに、EUの改正基本条約「アムステルダム条約」に附属議定書として組み入れられ、「人の移動の自由」がEUの法体系の中で保障されるようになりました(条約の発効は1999年)。ただし英国とアイルランドは、国境を越える犯罪対策の条項など部分的に合意しましたが、国境検査は維持することとしました。また2004年以降の新規加盟12カ国については、キプロス、ブルガリア、ルーマニアがいまだ協定の完全な適用に至っていません。
また、EU加盟国以外にも、アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタインがシェンゲン協定に参加しており、2012年4月現在、いわゆる「シェンゲン圏(The Schengen Area)」はEU27加盟国中22カ国と非加盟国4カ国からなっています。
なお、前述の附属議定書にあるシェンゲン関連法規全体は「シェンゲン・アキ(The Schengen acquis)」と総称されています。また一般的に「シェンゲン協定(The Schengen Agreements)」と呼ぶ場合は、前述の2つの協定を指しています。
* 域外国境での入国審査の際に、加盟国同士が特定の人および物に関するデータを共有・交換・照会できるシステム。犯罪や不法滞在の防止を目的とする。
Q1・関連情報
EUウェブサイト:シェンゲン圏と協力(英文)
EUウェブサイト:シェンゲン域内の国境(英文)
Q2. 日本人がシェンゲン圏内を旅行する際、パスポートやビザは必要ですか?
第三国の国民はシェンゲン圏内に入域する際、および圏外に出域する際には旅券(パスポート)の審査を受けますが、いったん入域すれば、圏内の移動の際に国境検査や出入国審査はありません。実際には、協定締結国間の陸路の国境では、ほとんどの検問所が閉鎖あるいは撤去されています。
とはいえ、日本を含む第三国の国民がパスポートを携行せずに域内を自由に移動ができると考えてはなりません。随時身分証明書の提示を求められることがあるため、旅行者は、パスポートを携行して移動する必要があります。
なおシェンゲン協定では以前から、公共の秩序や治安上の観点から必要と考えられる場合、短期的に国境管理を実施することが認められています。例えばサッカーの欧州選手権やワールドカップ、主要国首脳会議といった大規模なイベントの開催や、テロ発生後の警戒態勢といった特別な場合には、域内の移動であっても国境検査が行われることがあります。
日本人の場合、シェンゲン圏への滞在は、90日以内の観光など非営利活動目的の場合は、査証(ビザ)が免除されます(シェンゲン圏以外のEU加盟国についても同様)。しかし、シェンゲン圏での滞在が90日に達した後、再びビザなしでシェンゲン圏に入域するには、最初の入国日から6カ月経つのを待たなければなりません。また「90日」は「連続」でなく、「合算」ですので、6カ月以内に出入りを繰り返し、その合計が90日を超える場合は、ビザなしでの入域ができなくなります。ただしオーストリアに限っては、日本との二国間の取り決めにより、ビザ免除の上限は6カ月となっています。
ビザはシェンゲン圏内共通のシェンゲン統一ビザとなります。申請する場合は、主な滞在国あるいは最初の入域国の在日大使館や領事館で手続きを行います。なお、シェンゲン・ビザを取得し、シェンゲン協定締結国の一国で滞在許可証を交付された場合でも、その他のシェンゲン協定締結国に滞在できるのは90日間が上限です。
Q2・関連情報
EUウェブサイト:短期滞在におけるビザの共通ルール(英文)
Q3. 国境検査を大幅に廃止したことに伴う問題点はありますか?
域内での人の自由な往来が可能となっている中で、域外からの移民の急増にどう対処するかという問題が浮上しています。特に2011年に始まった中東・北アフリカ地域の民主化革命を機に、一部のEU加盟国に海を渡って庇護希望者が押し寄せる事態となりました。
その中心が地中海にあるイタリアのランペドゥーザ島で、イタリア政府はチュニジアからの難民に仮滞在許可証を発行して対処しました。これにより、仏語圏であるチュニジアからの多くの難民がシェンゲン協定に基づいて、フランスへ入国しようとしたのです。するとフランスは治安維持のため一時イタリアとの国境を閉鎖するという措置を取りました。また、デンマークも移民の大量流入を懸念して、国境における無作為の車両検査や旅券審査を復活させる意向を示しました。このように各国が任意の対応をとることで、シェンゲン体制を揺るがしかねない状況が生まれました。
EUとしては、加盟各国による移民の「押し付け合い」を抑え、EUレベルの対応を明確に打ち出す必要に迫られました。欧州委員会は2011年9月、「市民の移動の自由をよりよく守るため」と題した提案を行いました。政策提言文書と以下の2点に関する法案からなっています。
欧州委員会の提案が今後、欧州議会およびEU理事会で承認を受ければ、シェンゲン圏の強化に向けた新たな一歩となります。
Q3・関連情報
EUウェブサイト:シェンゲン圏強化に向けた提案に関するプレスリリース(2011年9月16日、英文)
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE