2015.2.24
Q & A
エネルギー同盟は、2014年6月の欧州理事会(欧州連合[EU]首脳会議)でその構築が長期戦略の一つとして採用されました。同年11月に新欧州委員会が発足した際、ジャン=クロード・ユンカー新委員長が示した10の優先課題の一つが、エネルギー同盟の構築です。その目的は「エネルギーの確実で安定した供給の確保」、「手ごろな価格を保証するエネルギー市場の創出」、「持続可能なエネルギー社会の実現」です。
「同盟」の構築というと、国同士が連携する新たな組織づくりのイメージがありますが、EUの国々が新しい組織を作る訳ではありません。エネルギー問題に関連し、エネルギー安全保障や域内エネルギー市場の統合に加え、再生可能エネルギーの開発やエネルギー消費効率の向上といった環境問題も含み、EU全体として総合的に取り組むことを目指した戦略なのです。
欧州委員会ではマレシュ・シェフチョビチ副委員長をエネルギー同盟の専任に当て、気候行動・エネルギー担当委員、環境・海事・漁業担当委員、域内市場・産業担当委員などからなるエネルギー同盟・気候変動政策プロジェクトチームで総合的に取り組む体制を採っています。2015年1月に欧州議会の産業・研究・エネルギー委員会(ITRE)の会合でエネルギー同盟の枠組みを説明したシェフチョビチ副委員長は、「エネルギー同盟は産業政策との利害関係も含め、非常に多くの分野を総合的に判断しなければならない政策だ。旧態依然たるやり方を打ち破り、皆が一丸となって取り組まなければならない」と述べています。
EU域内で消費されるエネルギーは、2013年時点において、その約8割を石油や天然ガスなどの化石燃料で賄っています。石油と天然ガスは、約5割をEU域外からの輸入に依存しており、その割合は近年ますます大きくなっています。EUは、エネルギー資源を域外から購入するために毎年約4,000億ユーロを支払っており、このまま輸入が増え続けると、EU域内の安定したエネルギー供給に対するリスクが高まるのみならず、エネルギー価格の変動に左右される不安定な状態に陥る危険性があります。
EUの企業が支払うガス料金は、米国の企業などの3倍以上ともいわれています。一般家庭でも電気料金の負担が増加しているほか、域内の10%の家庭では電力事情が原因で十分に暖房が利用できないという試算もあります。この背景には、EU域内におけるエネルギー供給網の分断に加え、再生可能エネルギーへ転換するための費用の負担などがあります。
エネルギー供給網については、EU域内を網羅するインフラ整備とともに、EU域外の特定地域だけに依存しない供給ルートの確保も必要になってきます。エネルギーを商売の道具ではなく、政治の道具として使うような国の供給に依存している状況は改めなければなりません。
これまでEUでは人・物・サービス・資本の自由な移動を可能とする単一市場の形成を進めてきました。その一方で、エネルギー供給問題などは、基本的に各国の権限に任されていました。しかし上記のようなエネルギー問題に対応するためには、EUがエネルギー分野においても単一の市場として機能し、EU全体として統一された政策を実施する必要があります。このような危機感の高まりから、エネルギー同盟の構築が長期戦略に盛り込まれたのです。
エネルギー同盟構築のための5本柱として、欧州委員会は下記の内容を最優先課題として掲げています。
エネルギー同盟の5つの柱
現在、エネルギー安全保障の鍵となる供給網の整備に関し、EU域内では、南北を結ぶガスパイプラインの構築や天然ガスターミナルの分布の是正が議論されています。またEU域外については、新たにカスピ海からトルコを通じて天然ガスを運ぶパイプライン「南回廊」の設置が計画されています。
安全保障の問題も含め、エネルギー同盟の柱となるこれらの政策を実行するには、EUのエネルギー市場が政治的にも経済的にも一つにまとまることが重要です。EU域内のエネルギー供給網の地域間格差が是正されれば、域内でエネルギーを融通し合うことができ、特定の国や地域におけるエネルギー価格の高騰を防ぐことができます。またEU域外からのエネルギー資源の輸入に対しても、協働することでエネルギー価格に対しての発言力も高まり、域外の政治情勢の変化に伴うエネルギー価格の変動にも左右されにくくなります。
省エネルギー化の推進や再生可能エネルギー技術の開発も重要な課題です。再生可能エネルギーの利用比率が高まれば、化石燃料の消費量が減り、輸入コストも抑えられます。また、新規雇用の創出や開発した技術や製品の輸出といった経済効果も期待されます。このように5本柱の政策はいずれも密接な関係にあり、いずれもエネルギー同盟の構築に欠かせない政策となっています。
EUは2030年までの温室効果ガス排出量削減目標を1990年比で40%、再生可能エネルギーの消費比率を少なくとも27%に拡大する目標を発表しています。気候変動問題に対する取り組みはエネルギー同盟の一角を成しています。省エネルギー化や再生可能エネルギーの技術開発が促進されれば、化石燃料の消費量も減り、温室効果ガスの排出量は抑えられます。そのためEUでは太陽光発電や風力発電、二酸化炭素回収・貯蔵(CCS)技術の研究開発や水素燃料電池車(FCV)の商業化試験を重点的に進めています。
ユンカー委員長がまとめたガイドラインには、エネルギー同盟の構築によってEUが再生可能エネルギーの分野で世界一となり、温暖化問題に率先して取り組むことを目標の一つと明言しています。この目標に向けてエネルギー同盟がEU加盟国の取り組みを調整する役割を担い、EU全体として気候変動問題に取り組んでいきます。
2015年12月にパリで開催される第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で、気候変動問題に関する新たな国際的枠組みに合意される予定です。EUはすでに新たな枠組みづくりに求められている「自身の削減目標」をまとめました。エネルギー同盟はこの目標に大きく貢献していきます。
欧州委員会は、エネルギー同盟の5本柱を実行に移すにあたっての戦略プランを発表、さらに加盟国相互の接続率を引き上げるための電力網整備計画も作成するなど、同盟実現に向けた動きを活発化させています。天然ガス供給網の整備計画はすでに進められており、2015年中にはEU域内で孤立地域をなくせる見込みとなっています。これらの結果に基づくEUのマーケット構想についても、欧州委員会が本年中に白書にまとめます。
欧州委員会では、省エネルギー政策の中間報告を2017年にとりまとめ、政策の効果測定に必要な新たな指標の導入について検討することにしています。
2015年2月27日 更新
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