2013.2.15
Q & A
ノーベル平和賞は過去にも20を超える団体が受賞していますが、今回のEUのように国家の連合体が受賞したケースは、国際連合を除いて初めてです。そのため、受賞の決定後、真っ先に「賞金はどう分配されるのか?」などと考えた人々がいたようですが、EU加盟各国、あるいはEU諸機関の間で「分配」するというのは、明らかに現実的な方法とは言えません。過去のノーベル平和賞の受賞者(団体)は、賞の意義に沿う形で、賞金を寄付したり、賞金を用いて基金を設立したりしてきました。
今回のEUの場合も、その例にもれることなく、新たにEU「平和の子どもイニシアチブ」を立ち上げ、戦争・紛争の被害を受けた子どもたちの援助に役立てることが決まりました。賞金の800万スウェーデンクローナ(約93万ユーロ、受賞時のレートで約9,400万円)に、ほぼ同額の資金をEUから追加し、総額200万ユーロ(2013年2月8日のレートで約2億5,000万円)が、4つの人道支援プロジェクトに充当されることになっています。
今回EUが授与された賞金(およびメダル)は、EUへの寄付について定めた規則(No.1605/2002)の第19条に基づき、欧州委員会が、欧州議会および欧州理事会の承認を受けて、受理を決定しました。
賞金の使途については、受賞発表(2012年10月12日)を受けてからおよそ1カ月間をかけ、欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長、欧州理事会のヘルマン・ヴァンロンプイ常任議長、欧州議会のマルティン・シュルツ議長の間で大枠を協議し、賞金を用いて「EUノーベル賞子どもプロジェクト」(当初の仮称)を創設、運営することで合意に至りました。
さらにその後の1カ月間で、欧州委員会が中心となり、具体的な支援先や実行手段、法的、予算的な枠組みを詰めていきました。この過程で、支援計画の呼称を「平和の子どもイニシアチブ」とすること、合計2万3,000人の子どもを対象とした4つのプロジェクトから成ること、追加資金を人道支援予算から拠出して賞金額のおよそ2倍となる総額200万ユーロに増額すること、などが決まりました。
このプロジェクトの意図について、バローゾ委員長、ヴァンロンプイ常任議長、シュルツ議長の三者は、そもそもノーベル平和賞は世界中の和解のためのものであり、その賞金は「平和を奪われた最も弱い立場にある者」、「戦争・紛争から最も過酷な影響を受けた者」に与えられるべきであり、それは即ち、戦争・紛争の被害を受けた子どもたちである、という見解で一致しました。また三者それぞれの思惑が以下の言葉に表れています。
■バローゾ欧州委員会委員長:「あらゆる子どもたちの権利が常に擁護されることを願います。どんな子どもにも、才能を伸ばす可能性がなくてはならない。教育を推進することは、平和が続くチャンスを与えることでもあります。我々は、“戦争の子どもたち”が“平和の子どもたち”になってくれることを望んでいます」
■ヴァンロンプイ欧州理事会常任議長:「このイニシアチブが最初の1年を終えても存続すればうれしい。“平和の子どもたち”のプロジェクトが、世界中の困難な状況にある人々に対するEUの取り組みの象徴になってほしいと思います」
■シュルツ欧州議会議長:「子どもたちは我々の未来です。そして個々の子どもの未来こそがそのカギとなるのです。子どもたちに紛争の間に受けた傷や苦しみを乗り越えてもらう、それを助けるために我々がすることは、すべて意義あることなのです」
資金は4つのプロジェクトに振り分けられます。それぞれのプロジェクトは、国連の機関や、EUの人道支援パートナーとして定評のあるNGOが任務を遂行します。
紛争国 | 人数 | 避難場所 | 支援実行団体 |
---|---|---|---|
シリア | 4,000人 | イラク北部ドミズ難民キャンプ(シリア国境) | ACTED(フランス) |
コロンビア | 5,000人超 | コロンビア国内、エクアドル | 国連難民高等弁務官事務所 |
コンゴ民主共和国 | 11,000人 | コンゴ民主共和国東部、エチオピア | セーブ・ザ・チルドレン ノルウェー難民委員会 |
パキスタン | 3,000人 | パキスタン北部カイバル・パクトゥンクワ州 | 国連児童基金(ユニセフ) |
支援の内容は、
など。
EUは、「平和の子どもイニシアチブ」を、単年で終わるものではなく、永続させる考えです。このイニシアチブも、他のすべての人道支援プログラムと同様、欧州委員会人道援助局(ECHO)が統括します。
ECHOの最高責任者は、欧州委員会のクリスタリナ・ゲオルギェバ委員(国際協力・人道援助・危機担当)。ノーベル平和賞の賞金が子どもたちの教育支援に使われることの意義を次のように述べました。
「紛争が起きた場合、人道支援という手段がなければ、子どもたちは学業を続けることができません。そしてこの学業を通じてこそ、子どもたちは将来の見通しを向上させることができるのです。それだけでなく、不正や搾取から身を守ることができるようにもなるのです。これはEUがノーベル平和賞の賞金を投じるに値する重要な理由です。シリアやコロンビアの国境で、パキスタンやエチオピアやコンゴで、我々が資金を提供するプロジェクトは、子どもたちの状況を変えることができる。もしこれがなければ、失われた世代になってしまうかもしれません。これらのプロジェクトによって、子どもたちは過去から立ち直り、子ども時代を謳歌し、よりよい未来を手にすることが可能になるのです」
2012年11月14日発表の欧州委員会プレスリリース(英文)
2012年12月18日発表の欧州委員会プレスリリース(英文)
欧州連合サイト「2012年ノーベル平和賞受賞について」(英文)
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