2012.8.7
Q & A
EMUとはEconomic and Monetary Unionの略で、日本語では経済通貨同盟と称します。EMUの設立は、欧州連合(EU)の基本条約に規定されています。
EMUはEUの経済通貨統合プロセスを指すもので、域内単一市場を補完し、EUに繁栄と経済安定をもたらすべく、EU加盟国の経済政策協調や、単一通貨(ユーロ)、欧州中央銀行(ECB)創設を含む、経済・通貨問題に関するEU内の協力をつかさどっています。
1957年に調印された欧州経済共同体(EEC、EUの母体)設立条約では、通貨が安定し、人・物・資本・サービスの自由な移動を可能とする共通市場を目指していけば、欧州の建設は保証される、と想定していました。しかし、1968~69年に通貨の不安定な時代が到来し、1971年のニクソン・ショックに伴って世界的な為替相場状況がさらに不安定化したため、70年代と80年代を通じて、欧州共同体(EC、EUの前身)加盟各国は為替相場安定のための協力を進めました。
その協力関係を土台に、1988年6月にハノーバーで開催されたEC首脳会議は、EMUの実現を目指して検討委員会を発足させました。翌年6月にマドリッドで開催されたEC首脳会議は検討委員会の報告に基づいて、資本移動の自由化や金融政策の一層緊密な協調から、単一通貨の導入に至るEMU実現計画を採択しました。そして、EMUの創設がマーストリヒト条約(欧州連合条約、1991年12月採択)の条文に明記されたのです。
EMUは以下のような3段階を経て実現しました。
第1段階 [1990年7月~93年12月]: 資本移動に関するあらゆる制限を撤廃し、マーストリヒト条約により加盟国の経済的収れん基準が設けられました。
第2段階 [1994年1月~98年12月]: 欧州中央銀行(ECB)の前身である欧州通貨機関(European Monetary Institute=EMI)を設立し、多くの準備作業とともに、加盟各国の財政赤字を抑制するルールを整備しました。1998年6月にはEMIに替わってECBが発足しました。
第3段階 [1999年1月~]: 単一通貨と参加国通貨の換算レートが固定され、ユーロが単一通貨導入国の通貨に取って替わりました。ECBが単一通貨政策を担うようになりました。
ユーロは1999年に会計上の通貨として誕生し、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、アイルランド、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランドの11カ国で導入されました。その後2001年にギリシャが導入し、2002年の現金流通後、2007年にスロヴェニア、2008年にマルタとキプロス、2009年にスロヴァキア、2011年にエストニアが導入し、現在、17 カ国がEMUの第3段階(単一通貨を採用)にあります。
EU加盟国がユーロを導入するには、次の経済収れん条件を満たさなければなりません(※1)
1) インフレ率:ユーロ圏で消費者物価上昇率が最も低い3カ国の平均値から1.5%ポイント以内に収まっている
2) 長期金利:(1)と同じ3カ国の長期金利(10年物国債)の平均値の2%ポイント以内に収まっている
3) 財政赤字:財政赤字がGDP比3%以下である
4) 政府債務残高:政府債務残高がGDP比60%以下である
5) 為替相場:直近2 年間のユーロとの為替相場が安定している
EU各国は規律ある財政管理を維持し、過剰な財政赤字を回避しなければなりません。その実行手段は1997年6 月の安定・成長協定(Stability and Growth Pact=SGP)の採択で明確になりました。財政安定のため、財政赤字がGDP比3%を超えるユーロ参加国には制裁措置を科すことにしました。
EUは計画とルールに従ってユーロを導入し、ECBを発足させてEMUを運営してきましたが、昨今の経済・金融危機によって、EMUの経済ガバナンスの弱さが露呈しました。現在、EUは弱点をカバーするためのルールを導入し、経済ガバナンスを高めようとしています。2011年初めに「欧州半期(※2)(European Semester)」制度を導入し、加盟国の予算案の監視を大幅に改善することにしました。また、2011年3月にはユーロ圏17カ国にブルガリア、デンマーク、ラトビア、リトアニア、ポーランドとルーマニアを加えた23カ国がユーロプラス協定(Euro Plus Pact)に調印し、競争力と経済収れんのための経済協調を補強するための取り決めを行いました。なお、ユーロプラス協定下で行った公約は欧州半期に統合されています。
2011年12月には経済財政政策の監視をさらに強めるため、5つの規則と1つの指令からなるシックスパック(Six-Pack)を発効させ、安定成長協定(SGP)をさらに増強しました。
2012 年3 月、EU各国は財政均衡義務の国内法化を各国に義務付ける「安定、協調および統治に関する条約(Treaty on Stability, Coordination and Governance=TSCG)」に調印しました(※3)。ユーロ圏の財政規律と経済政策協調をさらに強化するためです。各国は同協定発効から1年以内に、財政均衡目標を自国の憲法または予算審議過程で十分に保証される国内法に盛り込むことを義務付けられています。
なお、政府債務が膨らみ、特に大きな打撃を受けた一部の重債務国に対しては、2010 年6 月に、欧州金融安定基金(European Financial Stability Facility=EFSF)を導入し、さらに、恒久的な安全網として欧州安定メカニズム(European Stability Mechanism=ESM)導入にも合意しました。これは、財政危機に陥ったユーロ加盟国に金融支援を行う制度で、5,000億ユーロまでESMを通じて融資できます。
2012年8月現在、ギリシャ危機は収束していません。スペインほかの危機も伝えられる中、EU全体としての金融監督の強化や預金保証制度の導入を柱とする銀行同盟(Banking Union)や財政を含む経済統合を進める財政同盟(Fiscal Union)を求める声が高まっています。しかし、議論は緒についたばかりです。
このような状況の中、2012年6月末のEUサミットに「Towardsa genuine economic and monetary union(真の経済通貨同盟に向けて)」という文書が、ヴァンロンプイ欧州理事会議長から提出されました。同文書はバローゾ欧州委員会委員長、ユンカー・ユーログループ(ユーロ圏財務大臣会合)議長およびドラギECB総裁の協力により作成されたもので、向こう10年間で向かうべきEMUの将来展望と、EMUが成長、雇用、安定に最も良く寄与するためのたたき台を示しています。EMUの安定と繁栄にとって、以下の4つが柱になると提案しています。
このたたき台を基に加盟国やEU諸機関と協議の上、本年10月に中間報告が、また12月の欧州理事会(EU首脳会議)に、より具体的な内容を盛り込んだ最終文書が作成されることになっています。
EUはこれまで幾多の危機を乗り越えて拡充され前進してきました。EMUに関しても、今後とも決して逆行することはありません。EU加盟国間の関係は今次の経済金融危機を通じて、より緊密で強いものになっており、今後とも統合の度合いを深めていくでしょう。
(※1)^ 3) と4) をまとめ、4つの条件とする場合もある。
(※2)^ 経済ガバナンス強化策、マクロ経済の不均衡、構造改革、財政政策・予算の監視制度。2011年1月発効
(※3)^ EU法ではなく、政府間条約。英国とチェコを除く25カ国が調印。ユーロ圏の12カ国が批准すれば発効する(2013年1月発効予定)。条約の財政に関わる部分は「財政協定(Fiscal Compact)」と称されている。
関連情報:http://www.euinjapan.jp/media/news/news2012/20120912/152007/
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