2017.12.7

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「EUがあなたの学校にやってくる」~全国2万4,000の高校生が一斉にEUについて学ぶ出張授業~

「EUがあなたの学校にやってくる」~全国2万4,000の高校生が一斉にEUについて学ぶ出張授業~

本年11月9日と10日、駐日EU代表部と20の加盟国の大使館から、大使や外交官45人が全国30都道府県の高校58校へ赴き、約2万4,000人の生徒に向け、EUについて学ぶ授業を実施。日本の若い世代にEUへの理解を深めてもらうことを目的に始まった「EUがあなたの学校にやってくる」は、開始10年で日本各地に定着しつつある。

日・EUの活発な交流から生まれた出張授業イベント

日本の高校生を対象に開かれる出張授業「EUがあなたの学校にやってくる」は、本年で開催10年目を迎えた。このプロジェクトは、2005年の「日・EU市民交流年」で活発化した日欧の草の根交流を受けて、ローマ条約調印50周年に当たる2007年に企画された。日本の若者に欧州連合(EU)についてより身近に知ってもらうことを目的としたこのプロジェクトは成功を収め、以後、駐日EU代表部の主導により毎年開かれるようになった。この10年で訪れたのは、日本全国900校以上、受講した生徒は延べ約40万人に上る。

11月8日に愛媛大学附属高等学校を訪問したイタリア大使館のロレンツォ・モリーニ公使参事官(写真上:左から2人目)、9日に札幌日本大学中学校・高等学校で講演を行ったクロアチア共和国大使館のドラジェン・フラスティッチ大使(写真左)、10日に神戸大学附属中等教育学校を訪れた駐日EU代表部のフランチェスコ・フィニ公使(一部、期間外に実施した学校もあった)

出張授業では、駐日EU代表部と加盟各国の在日大使館から、大使や外交官が講師として日本全国の高校を訪問し、スライドを使ってEUやそれぞれの出身国について紹介する。一方的に講義を受けるだけでなく、質疑応答や意見交換などを通して、日常生活ではなかなか出会うことのない欧州の国々の外交官と直接交流できるのが、この出張授業のユニークな点だ。豊かな外交経験を生かした講師の話に耳を傾け、自分から直接質問したり意見を伝えたりする機会を得られるのは、欧州についてもっと学びたいという意欲や関心を高めることにつながり、生徒たちにとって大きな刺激となっている。

日本の高校生にEUの過去・現在・未来を伝える―駐日EU代表部政治部長の授業の例

11月10日には、駐日EU代表部から公使参事官・政治部部長のファビアン・フィエスキが、三田国際学園高等学校(東京都世田谷区)を訪問。同校では、高校1年生から3年生までの約170人がフィエスキ部長の講演を聴いた。その後、生徒を代表して8人が部長との交流会に参加し、積極的な意見交換や質疑応答を行った。その模様をレポートする。

フィエスキ部長は、まず駐日EU代表部について紹介し、その主要な役割を(1)日本の現状をEU本部に報告すること、(2)日本に向けてEUの現状を伝えること、(3)日・EU関係の強化と緊密化をサポートすること、(4)日本とEU加盟国との間で情報交換を行い、協力・連帯を奨励すること――と説明した。次に、「日本の高校生に知ってもらいたいEUの現状と未来」をテーマに、「EUとは」「世界の中のEU」「EUと日本」の3つの観点から約30分間の講演を行った。

流暢な日本語を駆使し、生徒に向けて分かりやすく講演を行うフィエスキ部長

まずEUとは、欧州の安定と平和、繁栄のために、加盟各国の個性と多様性を生かしながら協力し合う国々の集まりのこと。人口は日本の約4倍、面積は約11倍にもなり、国際社会でのEUの存在感は極めて大きい。第二次世界大戦後、「二度と戦争を起こさない」という決意の下に設立され、「対立ではなく協力」を原則の一つとする――と前置きした。

EUのもう一つの原則である「国境の無い暮らし」については、一部の加盟国を除き、人とモノ、サービス、資本の「4つの自由」がEU域内を行き来できるメリットがある、また、現在19カ国が導入している単一通貨ユーロは、片面に共通のデザインを持ち、もう一方の面には各国を象徴する絵柄が施されていて、EUの多様性を表している、と紹介した。

次いで「世界の中のEU」では、国際社会の中でEUが果たす役割について解説した。EUは主要7カ国会合(G7)や主要20カ国会合(G20)、アジア欧州会合(ASEM)などに参加しており、世界のパートナーの国々と緊密に連携しているほか、世界各地で展開されている開発援助の約6割をEUが提供しているなど、開発・人道援助における貢献度が高いこと、また一方で、昨今急激に増加している中東・アフリカ諸国からの難民・移民の受け入れが、EU域内で大きな課題となっていることにも言及した。

3番目の「EUと日本」では、日本にとってEUがいかに重要な存在であるかを説いた。世界経済の約3割を占めるEUと日本の間で、本年7月に経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)が政治レベルで大枠合意に達したことに触れ、EPAによって商品やサービスの関税障壁が撤廃されれば、双方にとって大きなメリットになり、日・EU間の経済交流は今後ますます進展していく可能性が大きい、また安全保障の分野でも、日本とEUは協力関係にある、と述べた。

欧州留学を目指す日本の学生が直接的な恩恵を受けられる留学支援プログラム「エラスムス・プラス(Erasmus+)」は、EU域内での留学奨励システム「エラスムス」が成功したことから、EU域外のパートナー諸国からの留学生も同様に支援するためのプログラムだと紹介し、生徒の関心を引いた。

講演の後の質疑応答では、「ユーロ導入の具体的なメリットは何か」、「ユーロが導入され、他国との行き来も自由になり、『国』という枠組みがなくなったことで、外国へ行くという感覚が消えたのか?」といった質問が上がった。それに対し、フィエスキ部長は、「便利にはなったが、各国の言葉や習慣、文化については多様性が尊重されている」、「両替の必要が無くなると便利になり、かつ手数料もかからない、価格の比較が容易、為替変動による損失が無くなるなどのメリットがある」と答えた。英国のEU脱退についての質問には、「英国が持っている独特のアイデンティティーに加え、EU域内を移動する機会の多い都会に住む英国人は、EU加盟国であることに大きなメリットを感じていたが、グローバル化に対して保守的な考えを持つ人々は、その恩恵を感じていなかったのではないか。EUは現在英国と、日本をはじめ外国企業になるべく悪影響が及ばないよう、慎重に交渉中だ」と答えた。

また、発展途上国への援助など、EUおよび日本が国際社会で果たす役割に関して、フィエスキ部長に意見を求める生徒もいた。

生徒8人がフィエスキ部長を囲んで交流会

出張授業では一方的に講演を行うだけでなく、生徒との交流も重視していることから、講演後に8人の生徒が代表して、フィエスキ部長と意見交換を行った。

フィエスキ部長(後列右から3人目)と意見交換を行った8人の生徒たち。皆それぞれ、EU諸国への留学や将来就きたい職業などの目標を定め、日々勉学に励んでいる(三田国際学園高校)

「将来はサイエンスライターになりたい」という小塩玄(こしお・げん)さん(高校1年生)は、「日本では、戦争などの歴史的な背景から、近隣諸国へのネガティブな感情や偏見がまだ強く残っているように思う。EUにはさまざま民族が存在しているが、差別意識などはあるか?」と質問。それに対するフィエスキ部長の「人は知らない相手に対しては不信感を持つ傾向がある。それを取り除くためには、まず相手を知ることが大切。EUでは個人レベルでも、加盟国間での移動や、留学が促進されており、友人ができたり、交流が増えたりすることが、必然的に相手を知ることにつながり、昔に比べて偏見や誤解が随分少なくなってきているように思う。加盟国がお互いに協力して信頼関係を築こうともしている」という回答を熱心に聞き入った。

スペイン人の父、日本人の母を持つアロンソ・アルマ春(はる)さん(高校2年生)は、「カタロニア州の独立問題が気になる」と率直に述べた。懇談会の後、アルマ春さんは「今日の出張授業はワクワクしながら待っていた。EUについては日頃から父からも聞いていたし、スペイン人の友人ともよく話をする。それでも、今日の話を聞いてまだ知らないことが多いのに気付いた」と語った。

「EUがあなたの学校にやってくる」の訪問校については、駐日EU代表部の公式ウェブサイトなどで募集し、決定する。来年以降も開催される予定なので、関心のある高校はぜひウェブサイトをチェックしていただきたい。

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