2019.8.6
EU-JAPAN
気候変動対策に積極的な自治体がネットワークを築き、意欲的な温室効果ガス削減目標を設定して、コミットメントを表明する「世界気候エネルギー首長誓約」。2008年にEUが前身の「首長誓約」を立ち上げて以来、現在では日本を含む132カ国、9,000以上の自治体が参加しているこの取り組みは、日本でも広がりを見せている。
気候変動対策で世界をリードする欧州連合(EU)は、今をさかのぼること10年以上前に、当時CO2削減に非常に意欲的に取り組んでいる欧州内の自治体を支援すべく、「首長誓約(Covenant of Mayors=CoM)」というイニシアチブを開始した。これは、市長や知事など各自治体の首長が「誓約」という形で、その趣旨を明らかにして行動計画を策定・実施する仕組みだ。2008年に始まったこのイニシアチブは成果を挙げ、2010年10月までに欧州の2,000自治体へと瞬く間に広がった。2011年にはベラルーシ、ウクライナ、モルドバなどの東欧の自治体にも拡大した。
イニシアチブは2015年には、EUの2030年の温室効果ガス削減目標(1990年比マイナス40%)を上回る削減目標などを掲げた「気候エネルギー首長誓約(Covenant of Mayors for Climate and Energy)」に発展した。翌年には、都市・気候変動担当の国連特使であるマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長をはじめ、持続可能な都市と地域を目指す自治体協議会(ICLEI、イクレイ)、また世界大都市気候先導グループ(C40)などが独自に進めてきた「気候変動政策首長誓約(Compact of Mayors)」と合流し、今に続く「世界気候エネルギー首長誓約(Global Covenant of Mayors for Climate and Energy)」(以下、世界首長誓約)が誕生した。2017年からはこの傘下に、世界の各地域の特性に応じた「地域首長誓約」が展開されている。
日本では、名古屋大学がEUのCovenant of Mayorsをモデルにして、2015年末に「日本版首長誓約」を立ち上げ、愛知県の5市(岡崎市、豊田市、安城市、知立市、みよし市)と長野県の高山村が誓約した。2016年にはCovenant of MayorsとCompact of Mayorsの合流で「世界首長誓約」が発足した。そして2017年からは、その傘下に地域誓約を置くこととなり、その一つである「世界首長誓約/日本(CoM Japan)」を2018年7月に立ち上げ、同年8月1日から日本での署名を開始した。2019年7月時点の世界首長誓約/日本の参加自治体は21。
首長誓約の柱は3つある。1つ目は、低炭素な都市づくりによる気候変動の緩和(mitigation)。CO2などの温室効果ガスを、国が設定した目標を上回るペースで削減することを目指すというものだ。例えば日本政府は、2016年に発効したパリ協定で「2030年までに、CO2排出量を2013年のレベルから26%削減する」と約束しているが、首長誓約に参加する自治体は、この目標レベルを上回る削減を目指す。2つ目は、気候変動がもたらすリスクに対応できる街づくりを行い、適応力を高めること(adaptation)。そして3つ目は、安全かつ低価格で実現できる、持続可能なエネルギー開発だ(secure, sustainable and affordable energy)。首長誓約への署名は、これら3つの柱に対して自治体がコミットメントを表明したものだといえる。
誓約への参加は、次の3ステップを踏むことが求められる。まず1つ目は、誓約への署名だ。署名を行うと、世界首長誓約の誓約自治体リストに登録され、世界に向けて発信される。2つ目のステップは、「気候エネルギー行動計画」の策定。誓約自治体は、誓約後2年以内に、誓約した前述の3つの柱に関する具体的な取り組みをまとめ、行動計画として首長誓約の事務局に提出する必要がある。3つ目のステップとして、誓約自治体はこの行動計画を実行し、2年ごとに計画実施状況報告を行う。
日本では、EUの「国際都市間協力プロジェクト」の資金サポートを受け、名古屋大学大学院環境学研究科附属持続的共発展教育研究センター内に事務局が置かれている。当センターは誓約の手続きを担当するほか、ヘルプデスクを設けて誓約を検討している自治体や誓約した自治体のサポートにあたっている。また全国の1,700自治体に対し、首長誓約に関する情報発信やセミナーを行うなどの広報活動も行っている。
世界首長誓約/日本の21自治体の参加理由は、自治体によってさまざまだ。例えば、「気候変動における首長レベルの世界最大のネットワークに参加することで、環境政策のベストプラクティスを世界中の自治体から学びたい」、あるいは「世界に向けた情報発信を行い、自治体のブランディングにつなげたい」という自治体もあれば、「実行計画策定やモニタリングなどで得られるサポートをメリットに感じている」という自治体もある。
日本ではまだ参加する自治体が少ない理由に、「首長誓約に伴う事務手続きが煩雑なのではないか」、「新たに実行計画を策定し直す必要があるのではないか」などと懸念していることが挙げられるだろう。しかし、実際はそうではない。多くの自治体は、すでに環境対策に関する計画を策定して環境省に提出しているため、首長誓約のために新たな計画を立てる必要はない。また報告業務についても、事務局などのサポートが得られるため、むしろグローバル規準のモニタリングや報告などのノウハウを得る貴重な機会となるはずだ。
世界首長誓約の特徴は、「ボトムアップ」「インクルーシブ」「透明性」である。誓約の内容をどのように実行し、実現するかについては、各自治体に一任されており、トップダウンではなくボトムアップの形を取っている。なぜなら、自治体によってセクターごとのCO2の排出割合や産業構造、人口構成などが異なるからだ。実行可能で効果のある施策は、それぞれの自治体が独自に決めるべきだという考え方が基本にある。「インクルーシブ」については、包摂的または開かれていることを意味しているが、大都市から人口の少ない町村まで、あらゆる自治体が参加できる。さらに「透明性」は、前述のステップ3で計画実施状況報告が求められている通り、情報を集約して公開することを重視している点に表れている。
世界首長誓約は、ただ報告を行って終了するものではない。世界の他の自治体が、どのような取り組みを行い、どれほどの成果を挙げているかなどの、標準化した比較可能なデータを得ることができる。さらに、日本ではこれまで、地理的に離れた他の自治体とのネットワークがあまり発達していなかったといえる。そのため首長誓約は、国内のさまざまな自治体が情報交換やノウハウ共有を行い、協力して脱炭素化の取り組みを推進する、自治体同士のネットワークづくりにつながる機会となり得る。
世界首長誓約/日本に参加している自治体は、東京都や横浜市などの大都市から、ニセコ町(北海道)、南牧村(群馬県)、高山村(長野県)などの人口が1万人に満たない町村まで幅広く広がっている。
「世界首長誓約/日本」に参加する21市町村(2019年7月時点)
そもそも自治体が環境政策に積極的に取り組むことは、各地域にさまざまなメリットをもたらすことが期待される。例えば、持続可能なエネルギーの開発は、関連する企業や大学・研究機関などの関心を集め、新規投資や雇用創出にもつながる。世界首長誓約への参加は、こうした取り組みをさらにブラッシュアップし、国内だけでなく海外にもアピールすることにもつながるだろう。
2018年8月に署名した長崎県の五島市は、東シナ海に浮かぶ11の有人島と52の無人島から成り、人口は約3万7,000人。2014年に「再生可能エネルギー基本構想」を策定し、「エネルギーのしま」を目指してきた。2030年度に100%超のエネルギー自給率達成を目標に掲げて、風力発電などの再生可能エネルギー事業を推進し、現在は約4割の電力を再生可能エネルギーで賄っている。同市の人口は減少を続けているが、再生可能エネルギー事業で地域活性化を図ろうとしている。
2019年1月に署名した京都市は、その目的を「都市は温室効果ガスの大排出源であることから、京都議定書誕生の地の自治体としてその責務を果たすとともに、パリ協定の目指す脱炭素社会の構築に向けて世界をさらにリードしていくため」としている。同市は2004年に京都市地球温暖化対策条例を制定しており、2010年には「京都市域からの温室効果ガス総排出量を30年度までに1990年度比40%削減する」という目標を設定。年ごとの温室効果ガス排出量を公式ウェブサイトで公開している。
現在、世界首長誓約/日本に参加しているのは、日本に1,700以上もある自治体のうち21のみであり、さらなる拡大は大きなテーマだ。その一方で、自治体数で見ると少ないものの、人口で見ると日本の20%程度に及んでいる。人口が集中して経済活動が活発な地域ほど、温室効果ガスの排出も多いため、これだけの人口を網羅していれば効果も大きいと期待される。
EUは、環境政策におけるグローバルリーダーとして、世界の自治体レベルでの脱・低炭素化のイニシアチブを推進してきた。将来は日本を含め、各地域の自治体のネットワークがさらに発展し、自律的に温室効果ガス削減の取り組みを推進できるようになることを目指している。
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