2020.6.17
EU-JAPAN
新旧を問わず良質な欧州映画を紹介し、コアな映画ファンからの根強い支持を得ている毎年恒例の映画祭「EUフィルムデーズ」。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、本年は初のオンライン上映となるが、例年に劣らず充実したラインアップで優れた欧州映画をお届けする。本稿後半では、映画振興を目指すEUの文化政策についても触れる。
2003年の第1回以来、毎年5月~6月に開催することが恒例となっている「EUフィルムデーズ」。駐日欧州連合(EU)代表部が、在日EU加盟国大使館や文化機関と共に主催し、日本初公開作品をはじめ、近年公開された欧州映画を中心に一挙に紹介する映画上映会だ。
18回目を数える本年は、新型コロナウイルス感染拡大の防止を考慮し、残念ながら東京・京都・広島で当初予定していた従来のような劇場での上映はかなわないが、代わりに「EUフィルムデーズ2020オンライン」が特別開催される運びとなった。2007年以来、EUフィルムデーズの共催者および会場として関わっている国立映画アーカイブ(2018年4月までは国立近代美術館フィルムセンター)にも、今回は企画協力という形で協力を得ている。
緊急事態宣言が解除となっても引き続き全国的に外出自粛が求められる中、映画好きに限らず、自宅に居ながら手頃な価格でさまざまな欧州映画に触れられる絶好の機会となるだろう(配信は青山シアター、料金・視聴方法については文末を参照)。
EUフィルムデーズ2020オンラインでは、例年どおり「映画で旅するヨーロッパ」をテーマに、EUに加盟する20カ国の作品を紹介。日本未公開の7作品に加えて、過去のEUフィルムデーズで好評だった映画を含む14作品を合わせ、計21作品をインターネット配信する。
今年のラインアップでは、「映画における女性」や「女性監督」といった特徴を持つ作品も目立つ。実写の長編フィクション映画だけでなく、ドキュメンタリーやアニメーション作品なども取りそろえて、各作品を単独で選べるほか、A~Fの6プログラムで編成された魅力的な作品パックもある。
日本初公開となる『ビッレ』(原題:Bille/ラトビア、2018年)は、本国ラトビアのほか数々の海外映画祭で話題をさらい、欧州はもとより南米各地でも高い評価を得た。ノーベル文学賞候補にもなったラトビアの作家ヴィズマ・ベルシェヴィツァによる同名の自伝的小説をベースとしており、1930年代の旧ソ連とドイツの間で翻弄される過酷な時代のラトビアに生きた少女を描く。
ドイツ在住のシリア人映画監督、タラル・デルキがメガホンを取り、第91回アカデミー賞(2019年)で長編ドキュメンタリー映画賞にもノミネートされた『父から息子へ~戦火の国より~』(英題:Of Fathers and Sons/ドイツ、2017年)は、アルカイダの関連組織・ヌスラ戦線に属するメンバーの父親とその息子たちに密着し、内戦に巻き込まれる一家の生々しい姿に迫った問題作だ。
過去のEUフィルムデーズで上映されて好評を博し、本オンライン映画祭でも取り上げられた作品として『アルデンヌ』(英題:The Ardennes/ベルギー、2015年)、『猿』(英題:Monkey/ブルガリア、2016年)、『リトル・マン』(英題:The Little Man/チェコ、2015年)などがある。
教育目的という名目で制作され、映画祭など、限定された形でのみ上映が許可されている『ファイナル・カット』(英題:Final Cut: Ladies and Gentlemen/ハンガリー、2012年)は今回特別に無料配信となる。第65回カンヌ国際映画祭(2012年)の「カンヌ・クラシックス部門」でクロージングを飾ったことでも知られている本作は、著名な映画作品451本から選び抜かれたカットを編集するという、極めて実験的なモンタージュ手法を駆使しながら、男女のロマンスを描いた異色作。
そのほか、EUのプロジェクト「Support to European Film Festivals」より、駐日EU代表部の選定作品として『スマグリング・ヘンドリックス』(キプロス、2018年)も登場する。これは、2004年にEU加盟を果たしたキプロス共和国と、独立を宣言したもののトルコ以外の国に承認されていない「北キプロス・トルコ共和国」が隣り合わせに存在するキプロス島の首都ニコシアを舞台に、逃げ出して勝手に「北側」に迷い込んでしまった愛犬を連れ戻そうとする主人公の苦悩を描いた、風刺に富んだコメディーだ。
コロナ禍にあっても、日本全国で視聴可能(編集部註:著作権上の問題により海外からのアクセスは不可)となり、より多くの方々にご覧いただけることがオンライン上映ならではのメリットだ。この機会に、本邦初公開の最新作や見逃してしまった過去の話題作を自宅で堪能し、“欧州への旅”をじっくり味わってみてはいかがだろうか。
EUはこれまで多様な文化を相互に尊重し、促進していくことに力を注いできた。現行の文化産業振興政策「クリエイティブ・ヨーロッパ(Creative Europe)」(2014年~2020年)の実施や、また2016年の「国際文化関係のための戦略」の策定は、いかにEUが文化を重要視しているかの表れである。
このような一連の文化政策の流れから生まれたのが、2016年3月に創設された「文化外交プラットフォーム(Cultural Diplomacy Platform=CDP)だ。これは、欧州委員会の外交政策手段局(Service for Foreign Policy Instruments=FPI)の呼び掛けに、ゲーテ・インスティトゥートがブリティッシュカウンシルやBOZAR、EUNICグローバル、欧州文化財団、アンスティチュ・フランセなどと合同で応じたコンソーシアム(共同事業体)ものである。2020年4月の終了後には、新たに「文化関係プラットフォーム(Cultural Relations Platform=CRP)として生まれ変わり、より良い文化関係・協力を通し、EUがパートナー諸国の観客やステークホルダーと有意義に協働することを目指している。
具体的な例として、2018年11月に立ち上げられたプロジェクト「Support to European Film Festivals」がある。世界各地のEU代表部が主催する「欧州映画祭(European film festivals=EUFFs)」のクオリティーをより高めるため、コンソーシアム側は全代表部に向けて、例えば次のような支援策を行った。
欧州委員会が2016年に行った調査によれば、EUFFsの開催は、世界中の人々にも欧州映画に親しんでもらうユニークな機会をもたらし、創造性あふれる欧州のイメージを世界中に広め、異なる文化間の相互理解を促す上で重要な役割を果たしている。つまり、文化外交を行う上で、映画祭の開催が効果的かつ魅力的で、将来性を備えているのだ。
【会期】2020年6月12日~25日
【配信】青山シアター https://aoyama-theater.jp/
【料金】1作品300円(税込)、A~Fのお得な作品パック〈下記参照〉500円(税込)
【視聴方法】青山シアターにて無料会員登録後、単品もしくはパックで購入。
A. ヨーロッパの逞しくしなやかな女性たち(3作品/ギリシャ、スロヴェニア、スペイン)
B. 20世紀に輝く人物―その真実と嘘(3作品/オーストリア、ラトビア、ポルトガル)
C. 家族―悲喜こもごもの物語(3作品/ベルギー〈フランス語〉、フィンランド、キプロス)
D. ミステリアスすぎる個性派たち(4作品/スウェーデン、イタリア、ベルギー〈オランダ語〉、ブルガリア)
E. 覚醒するドキュメンタリー(3作品/オランダ、ドイツ、クロアチア)
F. 期間限定パック(3作品/フランス、ポーランド、チェコ)
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