2014.4.30
FEATURE
欧州連合(EU)が2010年に立ち上げた経済成長戦略「欧州2020(Europe 2020)」は、その3つの最重要課題のひとつ、「持続可能な成長」に欠かせない要素として、「現状の資源消費経済からの脱却」を掲げている。つまり、大量消費・大量生産・大量廃棄による旧来型の経済と袂(たもと)を分かち、資源利用の効率化と低炭素社会という新しい経済社会を実現することこそが、EU全体の成長につながるという考えだ。EUは、持続可能な消費と生産のカギとなる「グリーン製品」の普及促進を域内外で進めている。
グリーン製品とは環境に配慮した製品を指し、大気汚染への取り組み、廃棄物の管理、風力・太陽光など再生可能エネルギーの開発といった、幅広い分野が対象となる。例として、鉛を含まない工業用機械や土木資材、内装・外装材、家具、食品、食器、玩具など、製造、利用、廃棄に至るまで、資源を効率的に利用し、環境への負荷が少ない製品が挙げられる。
しかし最新のユーロバロメーター(EUの世論調査)によると、「EUの消費者の48%が、グリーン製品について混乱している」という結果が出ている。グリーン製品の認定基準が、加盟各国でそれぞれ異なるため、どの国のどの製品を信頼すればいいのか、どう比較すればいいのかが分からないというのがその理由だ。
EUの消費者の48%がグリーン製品の情報について混乱しているとの調査結果が出ている(『Flash Eurobarometer 367―ATTITUDES OF EUROPEANS TOWARDS BUILDING THE SINGLE MARKET FOR GREEN PRODUCTS』の74ページより転載。2012年12月調査、2013年7月発表)
EUとしての統一基準がない現状では、消費者の混乱を招くばかりではなく、事業者にとっても余計な手間とコストがかかってしまう。グリーン製品を販売するすべての国の基準それぞれに対応しなければならないからだ。この状況はグリーン製品の普及に悪影響を及ぼし、EUの目指す単一市場とも相反する。
ヤネス・ポトチュニック欧州委員会環境担当委員は、「持続可能な発展のためには、資源効率が最も高く、環境に優しいグリーン製品が、市場で認識されることが必要だ」と、EUとしてのグリーン製品認定基準の統一化の重要性について語っている。統一基準を制定することで、消費者の信頼性を獲得し、事業者のコスト削減と負担軽減をもたらし、グリーン製品をさらに普及させようというのが、EUの新たな取り組み、「グリーン製品の単一市場(Single Market for Green Products=SMGP)」だ。基準は透明性、信頼性、完全性、比較可能性、そして明確であることが求められる。
現在EUは製品のみならず企業などが行う活動のライフサイクル全体で環境に与える影響を評価する手法「環境フットプリント」を構築中である。
環境フットプリント(Environmental Footprint)は以下の2つからなる。
製品環境フットプリント(Product Environmental Footprint=PEF) ライフサイクル全体にわたる物品やサービスの環境性能を複数の基準で測定する尺度 |
組織環境フットプリント(Organisation Environmental Footprint=OEF) ライフサイクルの視点から、物品やサービスを提供する組織の環境性能を複数の基準で測定する尺度 |
これまで既存方法論の分析、新たな方法論作成、パブリックコメント実施、ステークホルダーによる会議などが行われており、現在は環境フットプリント(EF)に関する法律制定を視野に、パイロットプロジェクトが行われているところだ。先ごろパイロットプロジェクトに参加する事業者・団体の第2回募集が行われた。今回の対象製品およびサービスは食品、飼料、飲料、肥料、食品包装、ケータリングサービスの分野だ。
パイロットプロジェクトにはEU市場で製造・販売を行うすべての組織・団体が応募でき、EU域外からの参加も可能だ。最大10の事業者が選定され、2014年6月1日からプロジェクト開始、2016年12月31日までに完了と、3年の期間をかけてテストが行われる(募集は3月28日に締め切られた)。
経済、社会、環境の持続可能性の推進は、EUの基本姿勢であると同時に通商方針でもある。ゆえにEUは、通商、経済拡大においても環境保護を重視し、貿易活性化によりグリーン製品やサービス、技術がEU以外の国々にも普及し、世界が低炭素社会へ移行することを目指している。EUは世界貿易機関(WTO)の一員として、貿易と環境委員会(CTE=Committee on Trade and Environment)での積極的な関与、ドーハ・ラウンド(多角的貿易自由化交渉)でのグリーン製品やサービスの自由化推進を行っている。
2014年1月24日、ダボスで開催された世界経済フォーラムにおいて、EUを含む14のWTO加盟国と地域(EU、豪州、カナダ、中国、コスタリカ、台湾、香港、日本、韓国、ニュージーランド、ノルウェー、スイス、シンガポール、米国)が、グリーン製品の貿易自由化のための協定策定の交渉(環境物品交渉)を開始すると表明した。すでに発表されている、アジア太平洋経済協力(APEC)が特定した54品目のグリーン製品(環境物品)について、関税率を5%以下に引き下げることを目指す。交渉は当初、関税の引き下げに焦点を当てるが、WTO加盟諸国は製品やサービスに関する他の障壁撤廃といった将来のニーズにも応えられるような「進化する」協定を作り上げることを希望している。欧州委員会のカレル・ドゥグヒュト通商担当委員は、「すべてのWTO加盟国は、環境保護、気候変動に取り組むグリーン製品、技術へのより良いアクセスを必要としている」とし、「同協議は我々の広範囲で野心的、持続可能な成長アジェンダのひとつとして、貿易に大きく貢献するだろう」との見方を示している。
グリーン製品の普及は、持続可能な発展に不可欠である。発展途上国では現在、急速に進む都市化により、さまざまな環境問題が発生しており、環境保護のための製品、サービス、技術へ容易に、安価にアクセスできることが望まれている。またEUにとっても、グリーン製品の推進は、すでに発表されている「2030年の気候およびエネルギーに関する枠組み」における、温室効果ガスの削減や、再生可能エネルギーの目標達成に役立つものとなる。EUは引き続き、二者間および多国間交渉により、グリーン製品やサービスの貿易自由化を強く促していく。
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