2017.2.20
EU-JAPAN
駐日欧州連合(EU)代表部は2016年12月、「女性の経済的エンパワーメントに関するハイレベル会合」を開催した。男女平等問題に関してEUが日本で開催する初のハイレベル会合で、日・欧の講演者・パネリストらが、労働市場への女性の参画、意思決定の場の平等など幅広いテーマで意見交換を行った。
EUは、男女平等に関して創設時から基本原則と据え、その実現に取り組んできた。2015年12月には、2020年 までに女性の雇用率を上げて男女差をなくし、男女ともに75%の雇用率達成を目指すための文書「男女平等へ向けた戦略的取り組み2016-2019(Strategic engagement for gender equality 2016-2019)」を発表。①女性の労働市場参加の拡大と男女双方の経済的自立、②男女間の賃金、収入、年金差の縮小、③意思決定の場における男女平等、④女性に対する暴力の排除、⑤世界で男女平等を推進――の5点を優先事項に掲げ、男女平等を推進している。
今回のハイレベル会合は、男女平等問題に関してEUが日本で初めて開催したもので、男女平等をより広く確立し、経済的な男女格差を縮めるための日本と欧州双方の経験や意見を共有・交換する場を設け、政策や商慣行について理解を深めることが目的。日本と欧州から政府関係者のほか、外交団、民間企業、学会、市民社会など約300人が参加し、労働市場への女性の参画、賃金と年金、指導的ポストにおける平等など、これまでの取り組みや成果、法制度や意識改革に至るまで幅広いテーマで討議、意見交換が行われた。
会合冒頭、ビデオメッセージを寄せた欧州委員会のヴェラ・ヨウロヴァ法務・消費者・男女平等担当委員は「男女平等はEU創設以来の根本的な価値であり、日本においても同じく重要。この会合が、EUと日本の関係において新たな一章を開くことになるだろう」と期待を表明。「近い将来の労働力不足に対応するため、『労働と意思決定への女性の参加』は戦略的に取り組むべき課題である。EUがこれまで取り組んだ課題解決や議論の共有は、日本にとっても有益である」と今回の会合の意義を訴えた。
続く開会のあいさつで、IEDC-ブレッド・スクール・オブ・マネジメント学長兼欧州リーダーシップ・センター代表のダニツァ・プールク博士が、EU加盟国における女性議員の比率などを例にEUにおける女性のエンパワーメント※1の状況報告。EU加盟国における女性議員の割合は、1990年の16%から2016年には28%に拡大し「一定の進歩だ」と認めた一方で、EUの上場企業における女性の取締役員は17%にすぎず、「民間部門では効果の高い施策が必要」であり、その一つとして「クォータ制」※2を提案した。
自身の学校改革の経験より、エンパワーメントは、本人の努力とともに、家庭や教育における他者からのものも大切だと述べ、「戦略と法整備に加え、女性の真のエンパワーメントの成功の鍵は、人々のとらわれた価値観や思い込みを変えられるかどうかにかかっている」との見方を示した。
基調講演では、日本から加藤勝信・一億総活躍、働き方改革、女性活躍、男女共同参加担当大臣が登壇。2020年までに女性管理職比率を30%に引き上げるため、安倍晋三総理大臣が、企業に数値目標を設定・開示する義務を課し、実効性を高める働きかけを行ってきたことを説明した。その結果、近年の育休取得率は80%に上昇、出産後も勤務を続ける女性の割合も、かつての40%から53%に増加したことなどを報告した。加藤大臣は、2016年に施行された「女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」の下、国・自治体・企業が連携し、さらに努力を続けることを約束した。
欧州からは、フィンランド議会議員で、フィンランド男女平等会議のサリ・ラッシーナ議長が、自国での女性の労働・政治参加の成功例を挙げながら、「男女平等は経済的利益にかなうものであり、社会全体の努力無しではありえない」とし、「男女平等の支持・促進は、進行中の平和的な闘いである」と論じた。またラッシーナ議長は「フィンランドにおいては、男女平等は根底にある価値観。独立して間もなく100年を迎えるが、それを記念して『100の平等プロジェクト』というものを始めた。これは(平等に関して)大それたことをやるということではなく、日常的に当たり前のことをやろうというもの。現在80の組織が参画しており、いずれは1,000を目指していきたい」と自国の取り組みを紹介した。
一橋大学大学院商学研究科のジェスパー・エドマン講師は、女性の労働参加、賃金および年金格差など日本、EUにおける女性の経済的エンパワーメントの現状を検証した「女性の経済的エンパワーメントに関するEUと日本の比較報告」を発表。この中で、女性の労働参加率に関して、「フルタイムで雇用されている女性の割合は日本とEUであまり変わらない。しかし、パートタイム雇用の割合は日本の方がEUよりかなり高く、これには問題が多い。パートタイムは、フルタイム、正規雇用の被雇用者と同等の社会保障または年金の受給対象にならないばかりか、仕事の質が同等であっても地位が低いとみなされる。女性の経済的エンパワーメントに対する負の影響はより深刻だ」のと問題点を指摘した。
また、日本とEUの企業におけるダイバーシティ・イニシアチブに関する比較では、日本企業2社(IHIとカルビー)、欧州企業2社(ロイヤル・ダッチ・シェルとユニリーバ)の比較分析を実施。女性の経済的エンパワーメントを高めていくには、トップ主導で生産性や成果重視のワークスタイルへのシフト、女性のロールモデルを育成、女性管理職促進に男性上級管理職の支援を得ることなどを、また、公的政策に関しては、①男女ともに家事の負担を軽減する、②父親の育児休暇のインセンティブを高める、③税制改革を通してフルタイム勤務のインセンティブを高める、④時間外労働に関する規制の厳格適用――をそれぞれ提言した。
続くパネルディスカッションでは、女性の経済的エンパワーメントに関して、公共政策面からの考察、さらに民間部門における実態と課題などについて意見交換が行われた。
各パネルディスカッションの模様は下記の通り。
第1部は、猪口邦子氏(参院議員・自民党)、中川正春氏(衆院議員・民進党)、ライモ・パルッシネン氏(スウェーデン議会労働問題常任委員会委員長)、マラ・マリナキ大使(欧州対外行動庁主席ジェンダーアドバイザー)、アストリッド・クラーグ氏(元デンマーク政府厚生大使)をパネリストに招き、女性の経済的エンパワーメントのための公共政策について意見交換が行われた。
パルッシネン氏は、スウェーデンでは男女平等が社会の根幹をなしており「男女平等の概念は、全ての政策立案に組み込まれなければならない」とし、男女が仕事・家庭において真に同等の時間を割くべきであり、育児休暇制度の推進、年金格差縮小が重要な課題だと主張。クラーグ氏は「乳幼児を育てる世代が労働力の中心をなしているため、彼らへの施策として、育児休暇取得推進が最重要であり、保育支援、そしてワークライフバランスを受け入れる柔軟な職場文化が求められる」との考えを示した。マリナキ大使は「現状は多くの女性が能力を活かせていないという現実があり、EUは2020年を目標に労働参加率を上昇させている途上にある」とした上で、「女性だけが変わるのではなく社会が変わらなければならず、フェミニズムの本来の意味である機会均等を実現するためには、世論を変える必要がある」と主張した。
猪口氏は「女性が男性と同等の賃金を得ること」、「少女に夢を実現するよう働きかけること」、「急激な高齢化が進む中、様々なチャレンジを抱えた人々を包摂する社会を作ること」が重要だと指摘。中川氏は「女性の活躍躍進は権利のためだけでなく、社会の活力向上のためであり、結果的に男性にも人間性を取り戻す働き方を可能にする」との認識を示し、男女平等に関わる全ての政策の主流化に取り組む固い意志を示した。
第2部は、日本から橘・フクシマ・咲江氏(G&S Global Advisors Inc.社長)、佐々木かをり氏(国際女性ビジネス会議創設者兼代表、佐藤玖美氏(コスモ・ピーアール社長)、ティツィアナ・アランプレセ氏(FCAジャパン・マーケティング本部長)、松本晃氏(カルビー会長兼CEO)をパネリストに招き、民間部門における女性の経済的エンパワーメントの対策について意見交換が行われた。
フクシマ氏は、多くの日本企業で取締役を務めた経験から「従来の女性取締役は外部登用が多かったが、近年は社内登用も増えており、真に会社を変えるという結果を出す段階に差し掛かっている」と指摘した。また、「ダイバーシティ推進には、役員からの支持と共に、実効性のあるインフラ整備がなされているかをチェックする必要がある」と指摘した。
佐藤氏は「日本政府は女性活用の施策を一気に実行するべき。日本の女性は何があっても働き続けるという意志を持ち、人生にもっと多くを求めて欲しい」とエールを送った。
アランプレセ氏は、自動車産業での経験をもとに、女性が職場や家庭においてリーダーシップを取ること、有言実行であることの重要性を指摘した。そして、皆が仕事を離れて家族として一緒に行動する時間を増やす必要性に言及した。
女性の活躍を推進し、2020年には女性管理職比30%を目標に活動を展開しているカルビーの松本氏は「ダイバーシティ推進には、同質的な環境で培われてきた既得権益である地位や居心地の良い関係性を維持しようとする層の抵抗に負けず、成果に結びつくと信じてやりぬくしかない」と強い姿勢で臨むことを示した。また、「ダイバーシティへの取り組みは不可欠であり、それと密接な関係にある労働時間の短縮などの働き方改革で、皆が幸福になる方法をとらなければならない」と訴えた。実際に、カルビーでは残業手当を廃止する改革が成功している。
「日本でのワークライフバランスの取り組みは結果を出しつつあり、子育てとキャリアは近い将来皆が両立できるはず」と展望を語ったのは国際女性ビジネス会議創設者兼代表の佐々木かをり氏。育児と出世が両立しない現状については「男女ともに育児はダイバーシティへの理解を深める準備期間として、いずれ会社にとってプラスになる」という見方を示した。
閉会のあいさつで、アン・バリントン駐日アイルランド大使は「女性の経済的エンパワーメントは、法制度改革だけでなく既存の価値観からの解放など、ソフト面の変革の段階に差し掛かっている。ジェンダーとは、法律から文化にまで及ぶ、個人の生き方自体であり、複雑かつ多面的で時間を要する問題のため、官民を巻き込んで分野横断的に取り組まなければならない」とした。その上で、「女性の経済的エンパワーメントは、トップの強力なリーダーシップをもって、長期的に取り組む課題。多様性を重視しながら推進するという理念を大切に、この日始まったEUと日本の対話を引き続き深めていくべき」と締めくくった。
*写真:駐日EU代表部撮影
※1 ^ ビジネスにおいては、与えられた業務目標のために、組織の構成員に自律的に行動する力を与えること。
※2 ^ 男女平等を実現するために、議員・閣僚・役員などの一定数を女性に割り当てる制度。海外の議会では、比例区の名簿順位を男女交互にするなど100以上の国で採用されている。
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