2019.12.16
FEATURE
公正で開かれ、かつルールに基づいた自由貿易を支持し、保護主義に立ち向かうEUは、さまざまな貿易パートナーと積極的に自由貿易協定を結び、双方の経済発展に寄与している。2019年2月に発効した日・EU経済連携協定もまだ記憶に新しい中、同年10月に発表された報告書を基に、昨年のEUの貿易状況および日・EU間の協定を巡る取り組みを振り返る。
公正な自由貿易は、国が経済成長し、人々の生活水準が向上するために今や欠かせない要素の一つとなっている。現在の欧州連合(EU)では、およそ7人に1人の雇用(約3,600万)が対外輸出関連であり、また将来、世界の経済成長の9割が欧州以外の国々・地域で見込まれていることから、貿易協定は非常に重要である。EUは、72カ国を対象とする41の貿易協定を結んでおり(2019年10月時点)、その規模は世界最大である。
欧州委員会が発表した2018年の貿易協定の実施状況に関する年次報告(2019 Report on Implementation of EU Free Trade Agreements: 1 January 2018 – 31 December 2018)によると、2018年には協定下の取引が全貿易取引の31%を占め、これは新しい貿易協定の発効により、40%近く大幅に上昇する見込みである。また輸出は2%、輸入は4.6%の成長を見せ、特に農産品の輸出が好調だ。EUは貿易協定下の商品取引で、846億ユーロの黒字を記録。これに対し、世界全体の貿易で見た赤字は246億ユーロだ。貿易はトータルでEUの域内総生産(GDP)の35%を占めた。
EUが世界各国・地域で結んでいる自由貿易協定には、次の4種類がある。
1. 第一世代協定(First generation agreements)
主に2006年以前に締結され、関税撤廃に焦点が置かれている。スイス、ノルウェー、地中海・中東諸国、メキシコ、チリとの協定やトルコとの関税同盟、また、西バルカン諸国との「安定化・連合協定(Stabilisation and Association agreements)」が含まれる。
2. 第二世代協定(Second generation agreements)
韓国、コロンビア、エクアドル、ペルーのほか中米などが対象。ここでは知的財産権やサービス、持続可能な開発への取り組みも含まれる。日・EU経済連携協定(EPA)は、名称は異なるがこの種類に該当する※1 。
3. 深化した包括的自由貿易地域(Deep and Comprehensive Free Trade Areas=DCFTA)
EUとジョージア、モルドバ、ウクライナといった近隣諸国の間で、より強い経済関係を創出する。
4. 経済連携協定(Economic Partnership Agreements=EPA)
アフリカ、カリブ諸国、太平洋地域の開発需要に焦点を当てたもの。日・EU間のEPAはこれに該当しない。
図1:EUの貿易協定の状況
2018年に見られたEUの自由貿易協定の実施状況として、次のような特徴が挙げられる。
図2:EUが締結している自由貿易協定下の貿易収支(2008年~2018年)
セクター別に見た、2018年の貿易成長率の特徴は以下のとおり(図3を参照)。
今後の見通しについては、農産品の輸出に大きな可能性がある。例えば、EUが世界最大を誇る豚肉輸出に関し、自由貿易協定を締結している日本と韓国はそれぞれEUの第2、第3の市場(合わせるとEUの全豚肉輸出の42%)であり、成長の潜在性がある。それ以外にも、日本への農産品輸出は2018年に増加しており、家禽肉類では78%増だったが、これは鳥インフルエンザ発生後に衛生植物検疫措置が取られていた日本向け輸出品について解決に向けた協力が得られ、禁輸が解除されたためだ。豚肉や牛肉に課される関税は今後、完全撤廃または大幅に削減される予定だ。
図3:主なセクター別の貿易成長率(2017年~2018年)
貿易で不公平な措置を被っているEUの企業は、自由貿易協定が結ばれることにより、例えば輸出入の規制緩和などで貿易障壁が解除され、投資環境が向上するといった進展が見られる。
本報告では、自由貿易協定のさらなる進展を示す事例として「貿易と持続可能な開発」に関する条項の影響についても触れている。またEUは、労働や環境問題に関わる国際的な取り決めを実行すべく、貿易パートナーと連携して取り組んでいる。例えば、日本をはじめとする幾つかの国々との貿易協定では、気候変動に関するパリ協定を効果的に実行するための取り決めも含まれている。
進展のため、具体的には次の4つの活動分野を挙げている。
EUは、今後も貿易パートナーの諸国や関係機関と協力し、協定の目的にかなった成果を上げられるように自由貿易を進展させていく必要がある。そのため欧州委員会は、欧州企業が協定の内容を理解し、輸出先市場で必要な条件の情報を入手できるように、オンラインポータルサイト(Market Access DatabaseおよびTrade Helpdesk)を設置している。
2013年春に交渉が始まり、2017年12月に妥結した日・EU間のEPAは、2019年2月1日に発効した。本協定は、EUがそれまでに交渉したものの中で最大規模の二者間貿易協定であり、人口6億3,500万と世界のGDPの約3分の1を擁する巨大な自由貿易圏を実現した。それと同時に、双方の広範な分野での協力を強化し、持続可能な開発への互いの責任を再確認するほか、気候変動に関するパリ協定の実施に責任を持って取り組むことを初めて明文化した。また日・EUのEPAは、知的財産権、データ保護、公共調達など幅広い分野を盛り込んだ自由貿易協定でもある。
EUにとっては、協定の発効により、欧州企業への輸出関税といった貿易障壁が次第になくなり、双方にとって高い基準と共通の価値に沿った世界貿易の規定を作りやすくなる。また、他の経済大国の保護主義に対し、自由で公正かつルールに基づいた貿易を、日本とEUが共に支持するというメッセージも世界に発信している。
欧州委員会はEPA発効を前に、加盟国の各国政府、産業界、そして一般市民向けの情報パッケージを制作し、関税に関わる問題や農業に与える影響などを含めた案内を行った。また、日欧産業協力センターでは、協定実施を支援するヘルプデスクを立ち上げ、特に中小企業を対象に実用的な情報を提供するほか、分野別のオンラインセミナー開催も行っている。
日・EU合同で行われた行政上の具体的な準備には、次のようなものがある。
※1 外務省の定義では、EPAとは「貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、さまざまな分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定」を指す。
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