2023.11.9
FEATURE
欧州連合(EU)は、2030年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で55%以上削減という目標を掲げるなど、気候変動対策で世界をリードしている。しかし、気候変動に国境はなく、その影響を受けない国はない。11月30日にアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開幕する国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)でEUは、交渉の最前線に立ち、自身がグリーン移行に本気で取り組んでいることを示すとともに、パートナー諸国にも同様に取り組むことを促す予定だ。
気候変動に関する科学で最も権威のある包括的な報告書を作成している国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は今年3月、人間活動による温室効果ガス排出が主因の地球温暖化によって、極端な天候や異常気象の起こる頻度と深刻さが増していることを改めて確認した。
異常な熱波、そして大規模な洪水や森林火災は、世界中の人々や自然、経済システムに悪影響を及ぼす。地球温暖化の進行に伴いこうした危険は一層強まるため、温暖化を抑制し、その影響に対応するための地球規模の対策が急務である。科学によれば、気候変動による最悪の結果を回避するには、世界の温室効果ガス排出量を2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減し、2100年までに産業革命前からの平均気温上昇を1.5℃に抑えることが求められる。
EUは2019年12月、2050年までに欧州を世界初の気候中立な大陸にすることを目指す成長戦略「欧州グリーンディール」を発表した。そして、野心的な政策パッケージ「Fit for 55」において、2030年までに温室効果ガス排出量の55%削減という目標を達成するための規則や法律を整備し、既に関連法制は全面的に採択されている。現在の予測では、EUは2030年に1990年比で目標を上回る57%の排出削減を達成できる見通しとなっている。
年末の気候変動に関する極めて重要な交渉に備えて、EU理事会は2023年10月16日、COP28に向けたEUの一般的な交渉立場を採択した。その中で、野心的な気候変動対策が地球や世界経済、世界中の人々にもたらす機会と、誰一人取り残さない、気候変動に耐性のある、気候中立的な持続可能な経済社会への公正な移行を確保することの重要性を強調した。
欧州委員会のウォプケ・フックストラ気候変動対策担当委員は理事会後の記者会見で、COP28でEUは「気候変動対策に関するこれまでの実績と今回の決定を踏まえ、パートナー諸国の緩和策に対する野心をさらに引き出すように取り組むだろう」と述べた。
同委員はさらに、「われわれは化石燃料の段階的な廃止とともに、再生可能エネルギーとエネルギー効率に関する世界的な目標への支持を取りつけることで、クリーンエネルギーへの移行を受け入れるように全てのパートナーを動員することを目指す。それにより、世界の化石燃料の消費量は2030年よりもかなり早い段階でピークを迎えて減少に向かわなければならないという明確な期待感を醸成することができる。それは必要であり、また実現可能だ」と指摘した。
直近の2022年は年間を通じて、異常気象がますます頻繁に発生し、温暖化に影響がさらに深刻化した。春の終わりから夏にかけて発生した熱波により、欧州各地で気温が記録的に上昇した結果、非常に強い熱ストレスを感じる日数が過去最高を記録し、統計上の予想を実際の死者数が上回る「超過死亡」の数は欧州全域で61,000人を超えた。高温と乾燥により欧州各地で干ばつが起こり、数々の大規模な森林火災を引き起こした。その後、秋には集中豪雨と激しい洪水に見舞われ、多数の死者が出た。
2023年も気温の記録更新が続き、熱波は北半球の広い範囲に影響を与え、海洋熱波は海洋生態系を破壊するなど、気候変動が異常な速度で進行していることを改めて示した。EUの気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」によれば、7月は世界平均気温が産業革命前から1.5℃上昇し、観測史上最も暑い月となった。気温の上昇と頻発する異常気象は多数の森林火災の要因となり、年始から7月末までにEU全域で18万2,000ヘクタール以上が焼失した。これは2003~2022年の平均を40%上回る。
気候変動に国境はなく、異常気象が生じたのは当然欧州だけではない。日本でも、気象庁の公式データによれば、7月と8月の記録的な暑さに続き、9月も記録的な猛暑となり、月平均気温は2012年に記録したこれまでの最高気温である23.76℃ を1℃以上上回り、1898年に記録を取り始めて以来最高となる24.91℃に達した。気象庁は、この熱波は太平洋側の高気圧と地球温暖化という複合的な要因によるものだとしている。
異常気象は既に私たちの日常生活に悪影響を及ぼしているが、気候変動はまた、干ばつの増加、海洋の温暖化と酸性化、海面上昇、生物多様性の損失、食料不足、健康問題および貧困や難民問題の悪化など、より深刻な問題をも引き起こしている。これらは全て相互に関連しており、それらの影響は、人類の繁栄がもはや不可能な地球の将来像を示している。
このような気候の危機的な状況にも関わらず、世界の温室効果ガス排出量はいまだ増加傾向にある。EU理事会は、自然と生態系を保護しつつ気候変動に対処し、世界中の人々の生活水準の向上と繁栄を確保する唯一の方法として、全ての国による排出削減の大幅な加速と、気候変動への適応策および持続可能な開発によって世界的な取り組みを強化する「極めて緊急な必要性」を強調した。
COP28でEUは、パリ協定の1.5℃目標を維持するには、世界の気候変動に対する野心を大幅に高めることが重要であること、そして、同協定に基づく各締約国の「国が決定する貢献(NDC)」とその更新された目標値を合わせても、現段階では目標達成には不十分であることを強調する予定だ。EUは10月に、2030年までの55%以上の排出量削減への軌道を示す「Fit for 55」政策パッケージの内容を反映した最新のNDCを国連気候変動枠組条約事務局に提出した。
気候中立経済への移行には、2030年までに排出削減対策が講じられていない化石燃料を段階的に撤廃し、その消費量をピークアウトさせるとともに、2050年よりもかなり早い段階でエネルギー部門の大半を化石燃料から脱却させる必要がある。費用対効果の高い排出削減策が容易に利用できるため、世界は、新規の石炭発電所の建設を一切容認せず、2030年代に世界の電力システムの完全なまたは大部分の脱炭素化実現に向けて努力すべきだ。また、EUは、エネルギー貧困や公正な移行に取り組まない化石燃料補助金についても可能な限り早急に廃止することを求めていく。
さらに、各国のエネルギーミックスを尊重しつつ、2030年までに再生可能エネルギーの設備容量を3倍の11TWに、エネルギー効率の向上率を2倍にすることに向けた世界的な行動を求める。この点において、課題を解決し、移行のメリットを確実に享受できるようにするために、世界各国との連携は不可欠だ。
気候ファイナンスについては、COP28においてEUは、既存の資金調達の仕組みが強化されることを望んでおり、多国間開発銀行や国際金融機関の可能性に注目している。
気候変動対策は、重荷と見なすべきではない。むしろEUの政策は、気候変動がもたらす機会に注目してきた。例えば、投資や金融の機会、競争力、イノベーション、雇用創出、経済成長の強化に繋がるだけでなく、生活水準の向上や保健医療、適正な雇用、持続可能な食料システム、手頃なエネルギー価格といった点で人々に恩恵をもたらす。
EUは、脱炭素化は経済成長の犠牲の上に成り立つとは考えていない。実際に、EU27加盟国は、1990年比で総排出量を約32.4%削減する一方、同時期に67%のGDPの成長を実現し、この2つは両立できることを証明してきた。それが、「欧州グリーンディール」が単なる気候変動対策プログラムではなく、成長戦略と謳われる理由だ。ただ、EU域内でも、排出削減のペースを過去10年に達成した年平均削減量の約3倍に引き上げる必要がある。
「何度も言うように、COP28に対する一般市民の期待は高く、私も当然そうあるべきだと考えている。世界が1.5℃目標を維持するチャンスは急速に失われつつある。地政学的な見通しは厳しいが、われわれは、気候目標から逸脱するわけにはいかない。未来の世代の運命を決めるのはわれわれだからだ」(フックストラ委員)
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