2016.9.30
FEATURE
資源を有効かつ効率的に利用する「循環型経済」へ動き出したEU。新しい経済モデルに移行し、成長を遂げていくには、新市場の創出や、より高い資源効率など、さまざま面で従来の経済モデルからの変革が求められることになる。そのような中で今EUが注目し、特に力を入れるものに、さまざまな海洋資源の持続可能な利用・活用で成長を目指す「ブルー成長(Blue Growth)」がある。PART 2では、このブルー成長と、環境関連ビジネスの立ち上げや事業継続のための資金支援について詳しく紹介する。
健全な海洋は、地球上の酸素の半分を生産するとともに、気候調節に重要な役割を果たしている。資源の宝庫でもあり、食品、医薬品、ミネラル、再生可能エネルギーなどさまざまな分野でその利用が検討されている。6万6,000キロメートルに及ぶ海岸線、2,500万平方キロメートルという世界最大の排他的経済水域を有するEUでは、このような海洋が持つ可能性や潜在能力を掘り起こし、活用する「ブルーエコノミー(海洋経済)」を通して、さらなる技術革新と持続的成長を目指す、ブルー成長に力を入れている。
現在、ブルーエコノミー分野におけるEU域内の雇用者数は500万人以上、域内総生産 (GDP)の約4%を生み出している。雇用の大半は、「水産業」、「化石燃料採掘業」、「海運および港湾業」などだが、EUは従来の方法に頼るのではなく、革新的に学習し適応することで強いブルーエコノミーを達成できる、と考えている。そして、ブルー成長に寄与する主な領域として①水産養殖、②沿岸と海洋の観光、③バイオテクノロジー、④海洋エネルギー、⑤海底の鉱物採取――の5つを掲げている。
2013年には、欧州委員会が「大西洋における海洋戦略のための行動計画 」を採択。同地域の環境と生態系を安定させつつ、2020年までに700万人の雇用を創出できるようなブルーエコノミー推進に向け動き出している。
ブルー成長の主な領域の一つ、海洋エネルギー部門は、経済面ばかりでなく気候変動抑制の側面からも注目されている。現在、EUではエネルギー需要のうち0.02%を海洋エネルギーで賄っている。1980年代からこれまでに海洋エネルギーの研究や開発に対して5,500万ユーロ以上の資金を支援しており、技術面では、表層海水と深層海水との温度差を電力に変換する「海洋温度差発電(OTEC)」や、海洋の塩水と河川などの塩分濃度の差を利用し発電する「海洋濃度差発電(SGP)」の研究も始まっている。環境面でいえば、海洋エネルギーにより、今世紀半ばまでに毎年2億7,600万トンの二酸化炭素排出を抑制することが期待されている。
欧州委員会が海洋エネルギーフォーラムに作成委託した「海洋エネルギー戦略ロードマップ(案)」(2015年)は、海洋エネルギー部門での官民の取り組みの青写真を示した。海洋におけるエネルギー産業にはこの10年間で、推定約10億ユーロ(EU海域)が投資され、さらに投資が増えれば、2020年までに850メガワットの累積発電量が期待されているのだ。
環境、経済面で多くの可能性を持つ海洋だが、持続可能な状況を脅かしかねない事態も進行している。それがプラスチックを中心とする「海洋ごみ」の問題だ。循環型経済を推進する「エレン・マッカーサー財団」の2013年の報告書は、2050年までに、海では魚よりプラスチックの重量の方が多くなるだろうと警告している。EUは2008年に海洋戦略枠組み指令を採択していたが、この報告書の警告によって、加盟各国の戦略に海洋ごみを考慮にいれた循環型経済への計画を盛り込み、第7次環境行動計画にも、海洋ごみの削減を含め、特にプラスチックごみへの対処や人々の啓発活動を行うことを掲げている。
海洋ごみなどにより海洋資源が厳しい状況に直面する中、将来世代のために健康な状態で海を残し続けるには、強力な国際ルールや施行、管理を行う海洋ガバナンスが重要になってくる。EUでは、過去10年にわたり海洋ガバナンスの強化に取り組んできており、海洋分野において持続的成長を支援する長期的な戦略を展開してきた。環境を保護しつつ、海洋経済の成長につなげていくために、国際的な海洋ガバナンスの取り組みがこれまで以上に重要になってきている。
ここまでEUにおける循環型経済実現への取り組みの一つとしてブルー成長を見てきた。PART 1でも触れたが、EUの経済発展の鍵となる循環型経済は、これまでの経済活動の方法、すなわち製造や仕事、購買など全ての分野で再考を迫るものである。このようなシフトは、従来のような投資分析では、大きなリスクを伴うため、EUの中小企業の4分の1以上(27%)が、グリーン分野のビジネス計画に投資を仰ぐことは極めて難しいと考えている。このためEUは、率先して投資を牽引している。
その目的は、グリーン分野のビジネスへ投資しやすくし、EUが長期的に目指す循環型経済に寄与する投資を支援することにある。グリーン分野の成長こそが、明日のEUの成長の中核となると見なしているからだ。グリーン成長は、環境破壊による突然の落ち込みを未然に防ぎ、資源やエネルギーの安定供給を支え、域内市場の競争力アップにつながっていくことになると考えられている。
欧州委員会のカルメヌ・ヴェッラ環境・海事・漁業担当委員は「健全な投資戦略は、持続可能な環境活動と経済的機会を結び付けるものでなければならないということが、ますます明らかになってきた。EUの企業や投資家、金融部門に、発想の土俵を変革することは利益につながり、そしてそれは可能なのだという強いメッセージを出していきたい」と、投資促進を強く促している。
このことは、数字に裏付けられている。欧州の事業者は、経営資源の管理の改善により、年間売り上げの3%から8%にあたる2,450億から6,040億ユーロを節約することができるはずだという。加えて、持続可能な建設をはじめ、再生可能エネルギー、バイオ関連、リサイクルの分野でのエコ革新的な製品や技術の市場は2006年の920億ユーロから、2020年には2,590億ユーロと倍以上となることが予想され、新たに240万の雇用が生まれることが期待されている。その実現に欠かせないのが投資である。
民間投資を先導する欧州戦略投資基金(EFSI)は、資金が不足しがちな革新的循環型経済プロジェクトを支援している。 EFSIは2015年に始まった基金で、EU全域で3,150億ユーロ以上もの民間・公共投資を動員するというもの。従業員3,000人以下の企業を対象にしており、施行1年足らずで64事業を支援、1,000億ユーロ以上の投資の呼び水となった。研究や開発、エネルギー効率、デジタル技術など多岐の戦略的分野に渡り、26カ国に及んでいる。
EFSIによる環境関連の投資の一つ、GINKGO(ギンコウ)プロジェクトとして、ベルギーとフランスの都市で古い工場跡地の汚染除去が進められてきた。さらに、その後継プロジェクト「GINKGO II」は、2018年の年末までにEU域内7カ所の汚染除去と再開発を行うプロジェクトで、8,000万ユーロの資金が投入されるが、そのうち1,560万ユーロは、欧州投資計画から拠出されている。これまで利用できなかった土地が投資を通じて、新たに仕事場や生活圏として生まれ変わっている。
また、産業廃棄物の中から、硬質チタンを回収しリサイクルする欧州初のエコ・チタン施設を建設するプロジェクトも進んでいる。現在EU内に同様の施設がないため、廃棄物に含まれる硬質チタンは、EU域外へ流出しているが、このプロジェクトが成功すれば域内でリサイクルできる。これは資源の効率的活用であり、循環型経済実現への一歩となる。
循環型経済を推進することは、欧州委員会のジャン=クロード・ユンカー委員長が掲げる「10の優先課題」の中でも筆頭の優先課題に直接つながるものだ。つまり、国連で採択された2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」に沿った方向で、雇用を創出し、成長や投資を促すことに拍車がかかるからだ。欧州は、循環型経済を目指すことにより、今まさに開花しようとしている技術的革新を後押しし、1兆8,000億ユーロもの純便益(便益から費用を引いたもの)を得ることができると見込む。これまでの直線的な発展モデルに比べ、倍増の飛躍的成長をもたらすはずだ。しかも、それが、より望ましい社会に導き、温暖化ガス削減につながるのだから、今、行動し、積極的に投資しない理由はない。未来の世代から借り受けているこの地球を、健全に守るのは今の世代の責任なのだから。
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