2016.9.30
FEATURE
高いレベルの環境保護を確保している欧州連合(EU)。1960年代から環境への取り組みが始まった。これまでに環境行動計画が7回策定され、自然保護から廃棄物、気候変動まで幅広く配慮してきた。資源の効率化を図り、究極的に再生力のある「循環型経済」を目指しており、経済との関係の重要性も打ち出している。PART 1では、EUの環境政策の歩みを俯瞰したうえで、今後の取り組み、さらに環境を取り巻くEUの現状などを紹介する。
1960年代初めに環境に関する欧州レベルでの行動が始まって以来、さまざまな取り組みが進められ、現在、EUは世界でも高いレベルの環境保護を確保するまでになっている。このような環境を守るための法律は、EUにおいて生活のあらゆる分野に影響を与えている。水や空気をきれいにする、化学物質の安全な取り扱い、動植物の生息地を守ることに加え、今では、資源の効率化を図り、究極的に再生力のある「循環型経済」への移行も始まっている。
経済危機から回復しつつある欧州では、環境分野が重要な成長エンジンの一つになっており、2000年から2012年の12年間で環境製品や環境サービス関連の雇用は290万人から実に430万人まで増えている。このように、EUにとっても環境政策は、雇用創出や、投資の刺激など、いわゆる「グリーン成長」としての役割の重要性が認識されている。EUの、環境政策がスタートしたのは50年前。まずは、その歩みを見ていくことにする。
EUの環境政策は、有害物質を規制するとともに、表示を義務付けるための指令「有害物質の分類・包装・表示に関する指令」を1967年に採択したのが最初。1972年ストックホルムで開催された初の国連会議の後、市民社会や科学者の間に、「成長は永遠に続きしない」との不安が急速に強まった。これを受けて欧州委員会は、共同体としての政策を策定するべきと積極的に動き始め、パリで開かれた欧州理事会の強い意志によって、1973年11月、共通環境政策である、初の「環境行動計画」(Environmental Action Plan=EAP)が採択されるに至った。この中ではすでに、環境破壊を未然に防ぎ、削減し、封じ込めること、生態系の均衡を保つこと、天然資源は理性的な使用に勤めることなど、今日の「持続可能な発展」につながる考えの要素が盛り込まれた。
その後、環境行動計画(EAP)は第2次(1977~81年)、第3次(1982~86年)、第4次(1987~92年)、第5次(1992~99年)、第6次(2002~12年)を経て、現在は第7次(2014~20年)進行中。中でも、環境政策で節目となった年が第4次EAPを開始した1987年。1992年の域内市場統一を目指し、欧州共同体(EC)の統合を完成させるために作成された「単一欧州議定書(Single European Act 1986)」に、初めて環境に関する規定が取り入れられることになったのだ。ECの前身、欧州経済共同体(EEC)の基本条約であるローマ条約(1957年調印)には、環境政策の規定がなく、それまでの環境行動計画はガイドラインとして扱われてきた。しかし、単一欧州議定書で、環境の維持や保護が目的として規定されることで、EC環境政策の法的根拠が与えられることになった。
2002年の第6次環境行動計画では、2010年までの環境政策として①気候変動、②自然と生物多様性、③環境と健康、生活の質、④天然資源と廃棄物――の4分野を優先分野と位置付けた。第5次環境行動計画までは、加盟国に対して拘束力のない「決議」だったのに対して、第6次行動環境計画では、加盟国に対して拘束力を持つ「決定」として採択されたことから、加盟国は計画の目標達成を厳しく求められることになった。
「地球の持つ限界のなかで、より良く生きる」という長期目標を打ち出したのが、2013年に策定された第7次EAP。具体的には、2014年から2020年における環境政策の優先順位を定め、人間の福利のための健全な環境と高い資源効率を持つ経済性の確保を重視している。特に、経済活動の中で廃棄物を資源として活用する「循環型経済」、資源の利用効率化と人間の福利向上、自然体系の維持を目指す「グリーン経済(環境調和型経済)」を打ち出した。
長期目標を掲げ第7次EAPがスタートした翌年の2015年に欧州環境機関(EEA)が発表した「欧州の環境――その現状と見通しに関する2015年報告書」は、雇用創出や経済成長、廃棄物処理の推進など環境政策の功績を評価した。しかし、その一方で、生活を支える資源基盤の劣化や、気候変動など深刻な問題は依然として続いており、今のままの政策実行水準では第7次EAPの目標を達成できないと警告した。
欧州委員会は、EU生物多様性戦略の見直し、海洋統治に関する行動計画、大気の質に関する政策群の改定など、2015年に実施する一連の環境施策を特定することで対応することとした。一連の施策の中では、国際競争力の向上、持続可能な経済成長、新規雇用創出などを目指す「循環型経済パッケージ(Circular Economy Package)」を2015年12月に採択した。循環型経済とは、より持続可能な方法で資源を無駄なく利用すること。製品のライフサイクルを利用することにより、あらゆる原材料、製品、廃棄物を最大限に活用し、温室効果ガス削減とエネルギーの節約を目指す。EUの研究助成プログラム「ホライズン2020」から6.5億ユーロ、EU構造基金から55億ユーロを供出、さらに欧州構造投資資金(EFSI)が財政面を支援するなど、EUでは2030年に向け「循環型経済」という新たな経済モデルを成長戦略の核に据えていくことになった。
EUは循環型経済の考え方やメリットについて動画を使って分かり易く説明している © European Union, 1995-2016
ここまでEUの環境政策の変遷を紹介してきたが、EU市民の環境に対する意識は変化してきたのであろうか。EU市民の意識、資源生産性、都市のごみの量を例に実情をみていくことにする。
欧州委員会が2014年9月に公表した「環境に対するEU市民の意識(”Attitudes of European citizens towards the Environment”)」によると、環境保護は自分にとって「非常に重要」とするEU市民は53%に上り、「結構重要」の42%と合わせると、実に95%が環境保護の重要性を認識している。「非常に重要」とする割合が高いのがスウェーデンで100%、次いでマルタとスロヴェニアが99%、ルーマニア、ポーランド、オーストリアが91%となっている。
「資源生産性」は、物やサービスを生産する際に、どれだけ有効に資源を使っているかを示す指標で、国内総生産(GDP)を国内物質消費量(Domestic Material Consumption=DMC)で除することで求められる。EUの統計局「ユーロスタット」が7月に公表した統計によると、EU全体の資源生産性は、2000年のキログラム当たり1.48ユーロから2015年は35.4%増の2.00ユーロに向上。2008年以降、EUの資源生産性はGDPの拡大、さらにDMCの削減で急激に向上している。2015年は多数の加盟国で資源生産性が向上しており、スペインとキプロスは120.3%増を記録している。
(指標:2000年=100)
2014年のEUの一人当たり平均の都市ごみ量は、年間475キロで、全体では10年間減少し続けている。国別ではデンマークが最大で759キロ、これに対して最も少ないのはルーマニアの254キロと3倍の開きがあるなど、国によって排出量は大きく異なっている。ちなみに、日本の一人当たりのごみ排出量は、352.5キロ(OECD調べ 2013年)である。
(国別のごみの量はこちら)
EUでは粘り強く続けてきた環境政策の取り組みが功を奏して、資源の効率的な利用、さらには「一人当たりのごみの量」といった生活に密着した環境面で確実な成果が出始めている。欧州委員会のカルメヌ・ヴェッラ環境・海事・漁業担当委員は「この20年の間に環境面では素晴らしい進展があった。しかし、さらに『環境と経済活動のバランスを取らなければならない』という認識を修正する必要を感じている。私たちは、環境と経済は協調して進むという考えを持つ必要がある」と循環型経済という新しいモデルに強い意欲を示している。
PART 2では、グリーンな未来に向けEUが力を入れる「ブルー成長」(海洋資源の持続可能な利用による成長)への取り組みと、循環型経済への投資について紹介する。
2024.12.24
FEATURE
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE