2015.9.24
FEATURE
2020年に再生可能エネルギー比率を最低20%にする目標が達成できるかどうかは、各加盟国の取り組みにかかっている。無理なく最も効率的な方法で、EU全体としてエネルギーシフトを確実に実現するための方策はいかなるものか。パート2では、 目標達成をサポートする仕組みや各加盟国の取り組み、進捗状況などを中心に見ていく。
EUによる再生可能エネルギーの推進はすでに20年以上の実績を持つ。1998年には、バイオ燃料の利用を推進する指令、2001年には再生可能エネルギー発電を促す指令、さらに2003年には運輸部門でのバイオ燃料などの再生可能燃料を促す指令が出されている。2007年には初めて2020年にEU全体で20%という数値目標を示した。加盟国が拘束力ある目標を設定することで、合理的で持続的な投資が見込まれ、新しいエネルギー技術の開発や利用が進み、化石燃料依存から脱却できるというシナリオが示された。
2009年の再生可能エネルギー指令による目標は、加盟国全てが一律20%を達成しようというのではなく、EU全体で最低20%を実現しようというもの。気候や地理的条件は加盟国間に著しい違いがあり、目標値はマルタの10%からスウェーデンの49%まで実にさまざまだ。加盟国は2010年6月までに、電力、冷暖房、運輸のそれぞれの分野での再生可能エネルギー目標値に加え、これを実行するための政策を記載した「行動計画書」を提出した。具体性や明確さに欠けるところは、欧州委員会から各国担当省庁に何度も修正が求められて、最終的な目標数値が決まった。その目標数値や達成状況を示したのが以下の表だ。
単位:%
2020年目標 | 2013~2014年期 中間目標 |
2013年実績 | |
---|---|---|---|
スウェーデン | 49 | 42.6 | 52.1 |
ラトビア | 40 | 34.8 | 37.1 |
フィンランド | 38 | 31.4 | 36.8 |
オーストリア | 34 | 26.5 | 32.6 |
ポルトガル | 31 | 23.7 | 25.7 |
デンマーク | 30 | 20.9 | 27.2 |
エストニア | 25 | 20.1 | 25.6 |
スロヴェニア | 25 | 18.7 | 21.5 |
ルーマニア | 24 | 19.7 | 23.9 |
フランス | 23 | 14.1 | 14.2 |
リトアニア | 23 | 17.4 | 23.0 |
クロアチア | 20 | 14.8 | 18.0 |
スペイン | 20 | 12.1 | 15.4 |
ギリシャ | 18 | 10.2 | 15.0 |
ドイツ | 18 | 9.5 | 12.4 |
イタリア | 17 | 8.7 | 16.7 |
ブルガリア | 16 | 11.4 | 19.0 |
アイルランド | 16 | 7.0 | 7.8 |
ポーランド | 15 | 9.5 | 11.3 |
英国 | 15 | 5.4 | 5.1 |
オランダ | 14 | 5.9 | 4.5 |
スロヴァキア | 14 | 8.9 | 9.8 |
チェコ | 13 | 8.2 | 12.4 |
ハンガリー | 13 | 6.9 | 9.8 |
キプロス | 13 | 5.9 | 8.1 |
ベルギー | 13 | 5.4 | 7.9 |
ルクセンブルク | 11 | 3.9 | 3.6 |
マルタ | 10 | 3.0 | 3.8 |
EU全体 | 20 | – | 15. 0 |
中間目標の達成に苦戦気味だったのがオランダ、 英国、ルクセンブルク。エネルギー消費量の削減努力が実ったことも手伝って、これら3カ国を除く、25カ国が中間目標値をクリアした模様だ。スウェーデン、エストニア、リトアニア、ブルガリアの4カ国は、現時点で2020年目標を上回っており、EU全体として2020年の目標を達成できる可能性は高いとみられている。
EUは、再生可能エネルギーへの転換に不利な国でも開発投資をしやすくし、また余裕のある国でもさらなる開発に取り組む意欲につなげ、EU全体で最も投資効率の高い開発ができるよう、再生可能エネルギーを産み出す余力のある加盟国が、目標数値に達しない国に余剰分を移譲できることなどを定めた「協力メカニズム(cooperation mechanisms)」いう制度を再生可能エネルギー指令の下に構築している。加盟国は自国の目標数値を算出するにあたり協力メカニズムの利用も入念に検討している。また、許認可手続きの簡素化・迅速化や、電力用スマートグリッド整備の必要性は、EU全般で早急に進められるべき課題とされている。
今後の見通しとして、このまま2020年の自国の目標値を達成できそうなのは、前述の4カ国を除きオーストリア、デンマーク、ルーマニア、イタリアなど15加盟国。
一方、計画の見直しが必至とみられたのは、フランス、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、英国、ベルギー、スペイン。また、ハンガリー、ポーランドも目標達成の期限までに一層の努力が必要とみられている。すでに、助成金制度や政策転換を決定した国もあり、また、協力メカニズムを利用した他国との開発合意に達した国も多く、国としての大きな政策転換や他国との積極的な共同開発合意などが、2015年~2016年期の進捗には重要なカギを握るといえそうだ。
「風」を最大限利用し、化石燃料からの完全脱却を宣言~デンマークの再生可能エネルギー事情~ デンマークは、北海とバルト海に挟まれた半島および2つの主要な島と大小500の島々からなる人口約562万人、国土総面積4.3万平方キロメートル(九州とほぼ同じ)の国だ。国土はおおむね平坦で、緯度が高い割には雨や雪は少ないが日照も乏しい。年間を通して風が強いことが特徴で、有史以来「風車」は、灌漑や製粉で市民生活や産業に深く関わってきた。そんなデンマークは、国を挙げて「再生可能エネルギー立国」を掲げ、自国の「エネルギー戦略2050」(2011年2月発表)の中で、デンマークならではの自然エネルギー源「風」を最大活用し、2050年には化石燃料からの完全脱却をすると宣言した。 デンマークで環境に配慮したエネルギーシフト政策が始まったのは、輸入化石燃料に依存しきっていた1970年代のことだ。独自の政策で、1985年には原子力路線を捨て、世界有数のグリーン国となることを決めた。2012年にデンマーク議会で合意された「エネルギー協定」は、長期にわたる目標に対して、これまでにない広範囲な党派の大多数の議員によって支援され、2050年に全てのエネルギー消費分野で化石燃料からの完全脱却を達成するための野心的な目標が設定された。つまり、2020年までに、全エネルギー消費の35%以上を再生可能エネルギーとすること、電気消費の約50%を風力発電で賄うこと、全エネルギー消費量を2010年対比で7.6%削減すること、温室効果ガスの排出を1990年対比で34%削減することが盛り込まれたのだ。 さらに、2035年には暖房用エネルギーにおいて化石燃料から再生可能エネルギーのみに完全にシフトし、運輸部門での完全シフトも夢とは考えていない。 デンマークでは最大の再生エネルギー資源が「風力」であることは既に述べた。現在、風力に関する開発も急激に進んでいる。エネルギー協定によって、風力発電のさらなる推進に拍車をかけ、150万世帯分の年間消費電力相当を増強することで、「2020年までに全電力消費の50%を再生可能エネルギーで」という目標を達成できると見込んでいる。 |
国際エネルギー機関(IEA)が発行した「再生可能エネルギーの動向(2015)」 によると、世界の第一次エネルギー、いわゆる自然界に存在しているエネルギーに占める再生可能エネㇽギーの割合は2013年の数値で13.5%。日本では、2012年7月から電力部門において、固定価格買い取り制度がスタートしたことにより、2013年度の再生可能エネルギー発電量の伸びは前年比32%増と、それまでの5年間の年平均9%増を大きく上回った(経済産業省資源エネルギー庁調べ)。しかし、国内全ての原子力発電所が停止していた2014年の時点では、全発電量における内訳は、化石燃料が87.8%と大半を占め、再生可能エネルギー合計で12.2%だった。水力発電の9%を除けば、再生可能エネルギーの割合は3.2%にすぎず、課題は多い。
OECD諸国全体で見ると、欧州の15.3%は他の地域に比べ極めて高い。報告書は、これを1990年代後半から2000年にかけての牽引力あるEUの政策による成果と評価。近年建設される設備の多くが再生可能エネルギー分野で、風力発電用タービン製造では、ほぼ4割をEU企業が占めている。
EUでは、長期展望に立って今行動しなければならないという共通認識が、広く形成されてきている。再生可能エネルギー指令が、単なる努力目標ではなく、拘束力ある目標値を設定し牽引していることが、世界中での再生可能エネルギーへの意識を高め、規模の経済も考慮した最適化を目指し、投資を促し、世界中のエネルギー政策に影響を与え始めている。
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