2015.9.24
FEATURE
欧州連合(EU)全加盟国で取り組みが続く再生可能エネルギーへのシフト。パート1では、EUが再生可能エネルギーへの転換を進める背景や狙い、目標達成後を見据えた新たな動きを中心に紹介する。
大きな羽がゆっくり回る風車が点々と立ち並び、合間に設置されたソーラーパネルが太陽光を受けてキラリと輝いている。このような光景が欧州の日常に溶け込むきっかけともなったのが、EUが2009年に打ち出した「再生可能エネルギー指令(Directive 2009/28/EC)」※1 。2020年までにEU全体の最終エネルギー消費の20%を再生可能エネルギーで賄うという目標を設定し、加盟国に2年ごとに取り組み状況を欧州委員会に報告することを義務付けるものだ。
欧州委員会が2015年6月に公表した目標達成度(2013年~2014年期)と各国の進捗状況報告によると、EU全28加盟国のうち25カ国が自国の設定した目標を達成。EU全体では、全エネルギー消費量のうち、15.3%(2014年の推計値)を再生可能エネルギーで賄ったことが分かった。再生可能エネルギーの割合は、2005年が8.7%、2012年は14.1%、さらに2014年が15.3%と、目標値の20%に向け順調に推移している。前出の指令では、運輸部門における再生可能エネルギーの割合の目標値を10%としている。しかし、2014年の推計値は5.7%。今後一層の努力が必要なものの、進捗状況報告では2020年の10%達成は現実的であると評価された。
目標達成に向けて着々と取り組みが進んでいるが、なぜEUはここまで再生可能エネルギー政策に力を入れるのだろうか。具体的な内容や取り組み状況の前に、まず欧州のエネルギー事情について触れておきたい。
欧州では、従来、エネルギー需要の約8割を石油や天然ガスなどの化石燃料で賄い、その5割を輸入に頼ってきた。化石燃料の供給は、世界経済や政治情勢に影響されやすく、価格変動ばかりでなく、政治的駆け引きにも用いられ、安全保障上も大きく作用する。一方、再生可能エネルギーは、世界の経済や政治情勢に供給が左右されることはなく、EU域内で分散型供給ができるため、スマートグリッドなどの整備が進めば、地産地消的な供給コントロールも可能になる。特に資源のほとんどは無尽蔵・無償であるため、技術が進めば設備投資費用が下がり、長期的なコスト減も期待できる。地域の資源を利用することで、地元立脚型の雇用が生まれ、地域振興にもつながるなど大きなメリットがある。
さらに、地球温暖化や気候変動抑制効果の観点からも、再生可能エネルギーへのシフトはEUに多大な効果をもたらしている。2013年には、このシフトのおかげでEU全体ではCO2の排出を3億8,800万トン削減し、化石燃料の消費量を1億1,600万トン(石油換算)減らした。化石燃料への依存度が減り、再生可能エネルギーの利用が増えたことにより、少なくとも年間300億ユーロの燃料輸入が回避できたと試算している。このようにEUでは、再生エネルギーの推進は、エネルギーの安全保障、地球温暖化や気候変動の抑制に加え、雇用の創出や地域振興などにもメリットがあると考え、未来に向けた基幹分野として重点を置いている。
今後も多大なメリットをもたらすとEUが確信する再生可能エネルギーの主なエネルギー源は、①バイオマス(植物や森林、農業や都市廃棄物などさまざまなタイプの有機物から製造される燃料で、冷暖房、発電、輸送用のバイオ燃料となる)、②水力、③風力(風でタービンを回して発電。風力や風速、タービンの大きさによって発電量が決まる)、④バイオ燃料(再生可能なバイオマスにから作られる固形または液体燃料。次世代バイオ燃料として、バイオマスの植物繊維〈セルローズ〉を原料とするものが開発されている)。その他、太陽エネルギー、ヒートポンプ、バイオガス、地熱、海洋発電がある
利用用途は、建物の冷暖房、電力、運輸交通が主。一口に再生可能エネルギーといっても、エネルギー源によって向き、不向きの分野がある。たとえば、風力や水力は、発電のみ可能だが、バイオマスや地熱、太陽光は、熱供給と発電の両方に用いることができる。このように熱源ごとの特性をうまく組み合わせ、効率良いエネルギー供給ができるよう取り組みが進められている。
冷暖房 |
欧州では全エネルギー消費のうち46%が建物の冷暖房用。再生可能エネルギーの利用は2014年時点で16.6%。「固形バイオ燃料」が圧倒的で、主要消費国はフランスとドイツ。ヒートポンプでは、イタリア、フランス、スウェーデンがリードしている。 |
電力 |
EUでは、すでに全電力消費の26%を再生可能エネルギーで賄っている。中心は水力発電だが、太陽光発電と風力発電の伸びも目覚ましい。風力でリードするのはドイツ、スペイン、英国。 |
運輸 |
EU全体としての、2020年までの運輸部門での再生可能エネルギー目標は10%。現状は5.7%。スウェーデンのみが16.7%で、すでに2020年目標をクリア。バイオディーゼルでは、フランス、ドイツ、イタリアが、バイオエタノールでは、ドイツ、フランス、デンマークが健闘している。 |
欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員は、6月の報告を受けて「欧州は再生可能エネルギー分野でリードしており、この分野は欧州経済の重要な部分を担いつつある。EU市民一人当たりに換算した再生可能エネルギーの割合は、世界の他の地域の3倍で、関連産業の雇用者数は100万人を超えている。年間1,300億ユーロ相当の生産量のうち350億ユーロ分は域外に輸出するまでに成長している」と、化石燃料や原子力に頼らず、再生可能エネルギーを積極的に推進するEUの姿勢を強調した。
再生可能エネルギーの利用は、年を追うごとにEU市民の生活に浸透し、その用途は拡大している。2020年に最終エネルギー消費の最低20%を再生可能エネルギーで賄うという目標は、2015年6月の報告書を見る限り射程距離に入ったといえよう。ではEUは、目標達成後の次のビジョンをどう描いているのか。2014年に採択された提言書「2030年気候とエネルギー政策枠組み」では、2030年の再生可能エネルギー比率の目標値を27%以上に設定。電力分野にいたっては45%と極めて野心的な目標値を設定している。
2014年11月に就任したジャン=クロード・ユンカー欧州委員会委員長は、同委員会が重点的に取り組むべき10の課題の一つにエネルギー問題を組み込んだ。具体的には、エネルギー安全保障や域内エネルギー市場の統合、再生可能エネルギー推進やエネルギー消費効率の向上などに総合的に取り組む「エネルギー同盟」の構築を目指している。欧州委員会では、マレシュ・シェフチョビチ副委員長をエネルギー同盟の専任とし、気候行動・エネルギー担当委員や域内市場・産業担当委員などからなるプロジェクトチームで総合的に取り組む体制を確立。 2015年7月に発表したエネルギー同盟構築戦略では、2030年までに再生可能エネルギー比率を少なくとも27%に高めることに加え、温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減することを目標に掲げている。
パート2では、加盟国の取り組みなどを中心に紹介する。
※1 ^ :Directive 2009/28/EC of the European Parliament and of the Council of 23 April 2009 on the promotion of the use of energy from renewable sources and amending and subsequently repealing Directives 2001/77/EC and 2003/30/EC (Text with EEA relevance)
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