2013.6.25
FEATURE
2013年1月にアイルランドで、牛肉食品に馬肉が混入していた問題が発覚し、「食の安全」にかかわる問題として欧州連合(EU)内はもちろん、日本を含め国際的な関心を呼んだ。
発端は本年1月15日、アイルランド食品安全庁が行った「牛肉を使用したものとして流通していたハンバーグなどから馬のDNAが検出された」との発表。再調査の結果、大手スーパーなどで流通していた加工肉の多くに馬肉や豚肉が混入していたことが発覚し、商品が自主回収される騒ぎとなった。
2月には英国にも飛び火。フランス産牛肉100%使用をうたった同国製ラザニアの中に、ほぼ馬肉100%の商品があったと英政府が発表。人体に有害な動物性医薬品フェニルブタゾンが含まれていた可能性も浮かび上がった。
欧州委員会が4月16日に発表した、域内で流通している4,000件以上の製品を対象にしたDNA調査結果によると、牛肉入りと表示されていた製品の約5%に当たる193製品から馬のDNAが検出され、域内での偽装表示が明らかになった。
この問題で“活躍”したのがEUの早期警告システム(Rapid Alert System for Food and Feed=RASFF、Part1参照)だ。本来、食品の安全性に関する情報を通知するシステムで、不正行為に使うことは意図していない。ただ、今回の偽装表示では複雑な流通経路が問題の核心になっており、この問題に関する情報を収集したり、問題に関する通知を行ったりするのに使えることから、欧州委員会はRASFFの活用を決定した。その結果、アイルランド食品安全庁は欧州各国に迅速な警報を発することができた。一方、欧州委員会は加盟国と共同で実施したDNA検査の情報の共有に、RASFFを活用した。
馬肉混入問題を契機に、食品安全対策のより一層の強化、そして偽装表示への対応策が課題となった。
欧州委員会が5月6日に採択した農産品のフードチェーン(食品の生産・流通過程)に関する食の安全施策の提案は、さまざまな官僚的手続きを効果的に簡素化する一方で、偽装表示も含めたリスク管理の徹底を図るものだ。
現在、EUにおけるフードチェーンは約70の規制により管理されている。食品業界などにとっては、各種手続きが煩雑かつ分かりにくく、結果として流通過程などで問題が生じていたという。
欧州委員会のトニオ・ボルジ保健・消費者政策担当委員は、この一連の政策パッケージについてこう述べている。「農業食品部門は、EUでは2番目に大きな経済部門であり、4,800万人を超える雇用と、年間7,500億ユーロの価値を生み出している。欧州は世界で最もレベルの高い食品安全基準を設定しているが、最近発覚した馬肉混入事件は、消費者の健康を害するものではなかったものの、規則に改良の余地があることを示した。このパッケージは、新たな問題に対応し得るものであり、より安全な食品のためのスマートなルールを提供することに主眼を置いている」。
提案の主旨は現行の規則を明確かつシンプルにすることで、一つの枠組みの中でフードチェーンに関係する規則を集約化すること。その新たな枠組みの下でリスク管理により一層重点を置きつつ、関係機関が各種の問題に対して集中的に対応することが可能になるとしている。効果的な管理にかかる費用を負担する対象を拡大する一方で、小規模企業に対しては、そうした費用を免除する。
加盟国における管理状況の透明性をより確保するため、一定の条件下において消費者が確認できるよう「違反業者」などの情報公開を許可したり、多額の罰金を科すことなどが挙げられている。
他にも、食肉検査や有機食品の審査など特定の分野に適した管理上の必須要件の導入、動物の個体識別システムの強化、EU域外から輸入される動物および動物製品など対する共通の枠組みの策定など改正点は多岐にわたるが、全体では、約70の規制を5つの規制に削減・再編し、大幅な簡略化と効率化を目指す。
欧州委員会の施策パッケージは、欧州議会とEU理事会で検討され、それぞれの立場が採択される。現時点では、2016年に発効となる見込みである。
「欧州委員会、食品安全を向上させるためのより良いルールを提案」(駐日EU代表部のウェブサイト内、EU Newsより)
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