2019.4.23
FEATURE
2018年9月、駐日EU代表部の通商部に、ヒルトネン一等参事官、マテイ二等書記官、チェルスカ二等書記官の3人が着任した。本年2月に発効した日・EU経済連携協定で、両者間の関係が深まる中、貿易関係から交通、エネルギー、環境問題に至るまで幅広い分野を担う通商部の責任と仕事量は高まる一方だ。活躍が期待される3人の新任外交官に、今後の抱負などについて聞いた。
ヒルトネン一等参事官はこれまで、環境問題や気候変動の分野で幅広い経験を積んできた。前職では、欧州委員会気候行動総局で、国際二酸化炭素排出量取引市場課の課長補佐として、国際海事機関での交渉を含む、船舶からの排出を担当するチームを率いた。その前の駐中国・モンゴル欧州連合(EU)代表部でも、同じく環境分野に携わった。環境分野を通して中国と関わる中で、日本にも関心を持ったという。しかし実は、日本とのつながりは十代の頃にさかのぼる。「当時、日本に文通相手がいたので、もともと日本の文化に関心を持っていました」。
フィンランドのタンペレ大学で環境・開発学の修士号を取得。英国で働きながらロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学んでいた1995年に、母国フィンランドがEUに加盟。「国際機関で数年経験を積んでから、学業に戻るのも良いのでは」と考えて、EUで働き始めたヒルトネン一等参事官だが、EUでの仕事に引き付けられ「結局、学問の世界に戻ることはありませんでした」と振り返る。
特に専門とする環境問題において、EUの果たす役割は大きいと感じている。「気候変動のような環境問題は、国を越えた協力関係なくしては解決できません。EUは長きにわたって、環境政策の先駆者であり続けています。このような重要な領域で働けることは、本当にやりがいがあります」。
日・EU関係は、2019年2月の経済連携協定(EPA)発効と戦略的パートナーシップ協定(SPA)の暫定適用で、さらに緊密さを増している。ヒルトネン一等参事官は「日本とEUが今後、さらに密接なパートナーとなることを願っています。私たちは共有することが多い分、お互いから学べるところもたくさんあるはず。協力し合うことで、特に再生可能エネルギーや持続可能な輸送などの分野で、共にグローバルリーダーになれると考えています」と期待を込める。
日本に対する印象について、ヒルトネン一等参事官は、「静かで穏やか、また自然を大切にするなど、日本人とフィンランド人は似ているところが多い」と語る。一緒に来日した夫、11歳と14歳の息子たちもみんな和食が好きで、特に下の息子はお寿司や刺身がお気に入りだとか。最近は、本年行われるG20大阪サミットおよび関連会合の準備で忙しいが、「それが終わったら、国内を旅行するなどして、もっと日本を知りたいと思っています」と笑顔で話した。
マテイ二等書記官は、通商部で日・EU協力のマクロ経済的側面と共に、衛生植物検疫措置(SPS)、金融サービス、公共調達などの幅広い分野を担当している。以前は欧州委員会経済・金融総局でインフラ整備プロジェクトへの融資方針を担当し、日・EU投資協力の枠組み作りのための予備的協議に参加していた。
マテイ二等書記官にとって、今回のポストは「自分が習得した日本語や、日本に関する知識、日本での経験を生かしながらEUのために働くことができる、またとない理想的な仕事」。EUに入る前は、日本の文部科学省から奨学金を受け、弘前大学大学院(青森県)で国際ビジネスを学び、その後も1年間日本で働いた経験を持つからだ。「EUと日本の協力関係をさらに強化することに貢献できるし、奨学金を通じて日本から受けたサポートに『恩返し』ができる機会でもあると感じています」。
さらに通商部での仕事は、自身にとって「EU外交官としての大きなステップになる」と話す。日本の政府関係者とやりとりをしたり、これまで経験したことのないような国際的な政策課題に直接関わったりしながら、多くを学んでいきたいという。「世界でEUがどのような役割を果たせるのか、EUと日本が国際的なパートナーとしてお互いをどのように見ているのかを理解する、良い機会になると思います。特にEUと日本は、高齢化や政府債務管理、経済成長加速化の必要性など、共通の将来的課題を抱えています。お互いの経験から学べるよう、双方の距離を近づける努力を続けなくては」と意気込みを語る。
今回の日本滞在は12年ぶりだが、日常生活で見る限りは、日本はほとんど変わっていないという印象を持っている。「相変わらず安全で、人々は当たり前のように時間を守り、何事も整理整頓されていますね」。
仕事とプライベートの間には線を引き、週末や休日は家族と過ごしている。「いつか自身が学生時代に訪れた場所に行き、『私の日本』を子どもたちにも見せたい」と語る。好きな日本の風景や場所として、歴史博物館や日本庭園、美しい自然、温泉、お祭りなどを挙げてくれた。和食は何でも好きだが、「旅行先では、その土地の名物料理を食べてみたい。例えば、北海道ではみそラーメンは絶対に外せません!」。日本での生活を大いに楽しんでいるようだ。
チェルスカ二等書記官は、ポーランド外務省から在EU常駐ポーランド代表部を経て、欧州委員会に加わり、主に通商関係の法務的側面を担当してきた。同委員会通商総局では、日・EUのEPA交渉に参加。EPAの発効により、その新協定が実施される過程に関わりたいと考え、このポストに応募したという。交渉が進んでいく中で、日本人の勤勉さや親しみやすさ、豊かな日本文化、美しい日本の自然に関心を持つようになっていたチェルスカ二等書記官は、「このポストは、魅力的で素晴らしい文化を持つ国に滞在できることと、面白くてやりがいのある仕事に携われること。その両方をもたらしてくれると思いました」と語る。今後は、「EPAがうまく機能するように貢献し、EUと日本の双方の人々がその恩恵を享受できるよう、私の仕事を通じて関わることができればと願っています」と話す。
ポーランドがEUに加盟する前の十代の頃から、EUで働くことを思い描いていた。そして、1990年代の加盟準備期間から2004年の加盟を経て、自分の国が大きく変化するのを目の当たりにした。「新しい道路や学校、病院が建設され、新しい会社もたくさん設立されて成長していきました。人々は欧州の中を自由に行き来し、新たな自由を享受し始めました。EUで働くことで、こうした素晴らしいプロジェクトに参加し、人々の生活を良い方向へと変えていくことに貢献できるのを、私は心から幸せに感じています」。
チェルスカ二等書記官は「EUとは、欧州や世界の前向きな変化や発展を推進する“エンジン”のようなもの」だと考えている。EUが主導するプロジェクトの価値を、より多くの人々に知ってほしい。だからこそ、「EPAをはじめ、活発化している経済や政治のつながりのおかげで、多くの日本人がEUに関心を持っている様子を見てうれしく思っています」と語る。
東京の街を楽しむことも忘れない。休日には都内の街並みを散策したり、美術館やギャラリーを訪れたりして過ごす。中でも「代官山のカフェや、日暮里駅近くの小さな路地が好き」だと言う。また、鎌倉や箱根、富士五湖、富良野などにも足を延ばしている。「これらはまだ手始め。ほかにもたくさん行ってみたい所が、まだまだありますよ」と笑顔を見せた。
プロフィール
ヘイディ・ヒルトネン Heidi HILTUNEN
駐日EU代表部通商部 一等参事官
フィンランド・タンペレ大学で環境・開発学修士号を取得、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(英国・ロンドン)博士論文提出資格者。欧州委員会対外関係総局、拡大総局、企業・産業総局のデスクオフィサーを経て、2010年から駐中国・モンゴルEU代表部気候環境担当参事官。2014年から欧州委員会気候行動総局で、課長補佐として、国際海事機関での二酸化炭素排出に関する交渉や、主に中国や韓国との排出量取引を担当するチームを率いた。2018年9月より現職。
ノラ・マテイ Nora MATEI
駐日EU代表部通商部 二等書記官
ルーマニア・ヒペリオン大学でバンキング・ファイナンスを専攻。弘前大学で国際ビジネスの修士号取得後、日本で1年間働く。欧州委員会経済・金融総局でインフラ整備プロジェクトへの融資方針を担当。2018年9月より現職。日・EU協力のマクロ経済的側面と共に、衛生植物検疫措置(SPS)、金融サービス、公共調達など、幅広い分野を担当している。
シルヴィア・チェルスカ Sylwia CZERSKA
駐日EU代表部通商部 二等書記官
ワルシャワ経済大学で法学修士号を取得。ナショナル・スクール・オブ・パブリック・アドミニストレーション(ポーランド・ワルシャワ)卒業後、2006年~2009年、ポーランド外務省法務・条約局に勤務。2009年~2012年、在EUポーランド常駐代表部。2012年から欧州委員会域内市場・産業・起業・中小企業総局で法務・政策官、通商総局で法務官を務めた。2018年9月より現職。
2024.12.16
Q & A
2024.12.11
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.12.5
FEATURE
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.11.6
EU-JAPAN
2024.11.7
EU-JAPAN
2024.12.10
Q & A
2024.11.30
EU-JAPAN
2024.12.5
FEATURE