2015.4.27
FEATURE
第3回国連防災世界会議は、最終日である3月18日に各国の防災に対する政治的コミットメントを示した「仙台宣言」と、新しい国際的防災指針である「仙台防災枠組2015-2030」を採択し終了した。仙台宣言では「世界の多くの地域において増大する災害の影響とその複雑な問題を認識し、世界中で災害により失われる生命および財産を減らすべく、我々は防災のための努力を強化する決意をここに宣言する」とした上で、「新枠組みの実現は我々および将来の世代のために数十年後の世界を災害のリスクからより安全なものにしようとする我々の不断の努力にかかっていることを心に留め、全てのステークホルダーに対し行動を起こすよう求める」ことなどが盛り込まれた。
一方、新たな防災枠組みである「仙台防災枠組2015-2030」には、今後15年間に期待される成果と目標や指導原則、優先行動、ステークホルダーの役割、国際協力とグローバルパートナーシップなどの内容が盛り込まれた。期待される成果と目標では、具体的に7つが設定されたほか、その達成に向けた行動原則について4つの優先事項が掲げられた。優先事項に関しては、災害リスクや災害による生活や健康被害の実質的な低減につながるものであり、政策決定をサポートするための重要な内容となっている。
【期待される成果と目標】 |
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・今後 15 年の間に「災害リスクを大幅に減らし、人命・暮らし・健康の喪失、および個人・企業・地域社会・国家の経済的・物的・社会的・文化的。環境的資産の損失を大きく削減する」ことを目指す。
・上記成果を達成するため、「危険への暴露および災害に対する脆弱性を予防・削減し、緊急対応と復興への備えを高め、それゆえレジリエンスを強化するような、統合され、かつ包摂的な、経済的・構造的・法的・社会的・保健衛生的・文化的・教育的・環境的・技術的・政治的・制度的な措置の実施を通じ、新たな災害リスクを予防し、既存の災害リスクを減少させる」との目標を追求する。 |
【7つの目標】 | |
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1 | 災害による死亡者数:2005年~2015年と比較した2020年~2030年における10万人当たりの災害による全世界平均死亡率を引き下げることで、2030年までに世界全体の災害死亡者数を実質的に減少させる。 |
2 | 被災者数:2005年~2015年と比較した2020年~2030年における10万人当たりの全世界の被災者の割合を減らすことで、2030年までに世界全体の被災者数を実質的に減少させる。 |
3 | 経済的損失:2030年までに世界全体の災害による直接的な経済損失(GDP換算)を低減する。 |
4 | 重要インフラの損害:健康・教育関連施設を含めた重要なインフラや生活サービスの災害による損害を実質的に低減する。その手法にはレジリエンスの強化も含まれる。 |
5 | 防災戦略採用国:防災戦略を採用する国や地域の数を2020年までに実質的に増加させる。 |
6 | 国際協力:十分で持続可能な支援を通じ、途上国が2030年までに本枠組みを実行するための自国の取り組みを補うべく、国際的な協力を実質的に強化する。 |
7 | 早期警戒および災害リスク情報へのアクセス:マルチ災害早期警戒システムと災害リスク情報およびアセスメントへのアクセスとそれらの有効性を2030年までに向上させる。 |
【目標達成に向けた4つの優先事項】 |
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優先事項1:災害リスクの理解
・ 関連データの収集・分析・管理・活用 優先事項2:災害リスク管理のための災害リスクガバナンス ・ 全てのセクターにわたる防災の主流化、防災戦略計画の採択 優先事項3:レジリエンス強化に向けた防災への投資 ・ ハード・ソフト対策を通じた防災への官民投資 優先事項4:効果的な応急対応に向けた準備の強化と 「より良い復興(Build Back Better)」 ・ 災害予・警報、事業継続、避難場所・食糧・資機材の確保、避難訓練 |
EUでは、会議前8カ月間にわたり、枠組みをより力強いものにすべく関係各国との交渉を進めてきたが、その中でも特に「2020年までの国家レベルおよび地域レベルでの防災戦略採用国数の増加」と「マルチ災害早期警戒システムの積極的な活用」を重要視し、行動目標への設定を唱えてきた。今回の枠組みに盛り込まれた目標は、枠組みの実施を推進するとともに適切な進捗状況の確認や効果測定にも重要な役割を果たすものとみられている。また、EUがこれまで推し進めてきた防災政策や、2014年6月に発表した声明「ポスト兵庫行動枠組:レジリエンス構築のためのリスク管理」の内容とも合致したものになっている。
国連防災世界会議に出席した欧州委員会のクリストス・スティリアニデス人道援助・危機管理担当委員は、「ポスト2015フレームワーク(仙台防災枠組2015-2030)採択に向け、EUはプロセス全体を通じて主導的な役割を果たしてきた。(同枠組が)レジリエンス強化のために、世界の野心とコミットメントを反映して採択されたことを非常に嬉しく思う」と新しい枠組みを評価。今後については、「私たちは、国際的なパートナーと緊密な連携をとって仙台防災枠組を実行していくとともに災害に備えたい。サイクロン(会議期間中に南太平洋のバヌアツ共和国などに甚大な被害をもたらしたサイクロン「パム」)は、私たちが直面する多くの危険を思い起こさせた」と語っている。
国際社会が築き上げてきた開発成果を一瞬のうちに消し去る災害にどう対処するか、それは防災分野だけに限らず、持続可能な社会の構築や気候問題とも密接に関わる問題である。2015年内には国際開発目標である「ポスト2015開発アジェンダ」を採択する国連総会に加え、2020年以降の世界の気候変動・温暖化対策の枠組みをまとめる国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)も開催される。防災の視点はこれらの政策にも組み込まれるため、仙台防災枠組は防災分野に留まらず、幅広い分野の政策の発展にとっても必要不可欠だといえる。
国際的な防災政策は、経済的・環境的・社会的目標に対応しながら、自然災害に対するレジリエンスの強化を促進し、安全かつ持続可能な発展を目指す必要がある。EUはこれまでに築いた実績や経験を活かし、積極的なコミットメントを図るとともに、将来の豊かな地球社会の実現に向けて、今後もリーダーシップを発揮していく。
第3回国連防災世界会議は、災害に対するレジリエンス強化の重要性や、防災と持続可能な開発の関連などEUが重要視してきた点が反映された新たな枠組みを採択して閉幕したが、EUは会議期間中、会場外のパブリック・フォーラムなどでも積極的に自身の展開する政策やその成果をアピール。展示ブースでは各政策分野でのEUの取り組みに関するパンフレットなど和文・英文の資料を配布し、会議参加者や一般市民と交流を深めた。
このうち、クラウス・ソーレンセン欧州委員会人道援助・市民保護総局総局長が基調講演を行った「レジリエンスと防災力強化に向けた欧州連合(EU)の協力」と題したセミナーでは、リスク評価、国境を越えた協力、早期警戒、データ収集など、EUが開発したさまざまなツールを紹介。EUが世界各地で災害に対するレジリエンスを高めるための施策をどのように展開してきたかを具体例で示した「EUレジリエンス概説」を発表した。
また、欧州委員会の共同研究センター(JRC)は、京都大学防災研究所、国連環境計画・国連人道問題調整事務所合同環境ユニットおよびアジア災害予防センターと共催で「自然災害が引き起こす技術的事故のリスク軽減」と題した、技術関連の災害リスクに関するセミナーを開き、ヴラジミール・シューハJRC総局長が基調講演を行った。
EU MAG3月号 質問コーナー「災害支援の要、EU市民保護メカニズムとは?」http://eumag.jp/question/f0315/
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