2019.9.24
FEATURE
2019年6月20日にブリュッセルで開かれた欧州理事会では、2019年~2024年の5年にわたりEUの指針となる新しい「戦略的課題」が合意された。今後、欧州理事会が優先的に取り組むとともに、EU諸機関が行う業務の方向性を示す、本課題の趣旨を概説する。
ますます不安定化・複雑化し、急速に変化する環境の中で、欧州連合(EU)は今後5年の間に、自らが果たす役割を強化することができるし、また強化していくつもりである。EUは結束し、その価値や強靭なモデルを、決意を持って集中的に一層強固なものにするよう取り組む。これが未来の社会を形成し、EUの市民や企業、社会の利益を促進する唯一の効果的な方法である。
2019年~2024年に目指すこの「戦略的課題」は、そうした取り組みのための全体的な枠組みと方向性を示すものだ。そして次の5年間にわたって、EU諸機関の業務の指針となることを意図している。
戦略的課題は、以下の4つの主な優先課題に重点を置いている。
また本課題の最後では、こうした優先課題をいかにして実現していくかを述べている。
EUの民主主義と社会モデルを支える共通の価値は、欧州の自由、安全、繁栄の基盤である。法の支配は、全ての民主主義国において決定的な役割を果たしており、こうした価値の十全な保護を確保するための鍵である。それゆえに、EUと全加盟国は法の支配を完全に尊重しなければならない。
EUは決意を持って、十分に機能する包括的な移民政策のさらなる進展に取り組む。移民の出身国および通過国との協力関係を継続・深化させ、不法移民や人身取引と闘い、効果的な帰還を確実なものにする。EU域内に関しては、効果的な移民・庇護政策についての合意が必要である。責任と連帯のバランスに基づき、捜索と救助活動の末に上陸した人たちを考慮した上で、ダブリン規則を改革することで合意を見いださなければならない。
EUは、シェンゲン協定が適切に機能することを確保するために、必要な措置を講じる。また、協力関係と情報共有を改善し、共通手段の開発を一層推進することで、テロリズムと国際犯罪に対する闘いをさらに拡大・強化していく。さらに、天災と人災の両方に対するEUの回復力を強化する。積極的な連帯とリソースの共同拠出が、その鍵となるだろう。
われわれは、EUに敵意を持つ国家や非国家主体を発信源とする悪質なサイバー活動、ハイブリッド脅威、ディスインフォメーション(虚偽情報)などから、われわれの社会を守らなければならない。こうした脅威に対処するには、より緊密な協力と調整、より多くのリソース、そしてより高い技術的能力に基づいた包括的な取り組みが必要である。
強い経済基盤は、欧州の競争力や繁栄、国際社会での役割、雇用創出にとって決定的に重要である。EUは、あらゆる次元において経済通貨同盟を深化させ、銀行同盟と資本市場同盟を完成し、ユーロの国際的役割を強化することで、ユーロがEU市民のために機能し、強い通貨であり続けることを担保しなければならない。
EUの影響力を最大限に発揮するには、関連する全ての政策と分野を結ぶ、より総合的なアプローチが必要である。つまり、単一市場とその中での人・物・資本・サービスの自由移動(4つの自由)の深化と強化、未来にふさわしい産業政策の策定、デジタル革命への取り組み、公平で効果的な税制の確立が求められている。
単一市場はこの点において、それら全ての分野で重要な要素となる。EU は、特にサービス分野で、5億人市場の可能性を最大限に活用しないわけにはいかない。今後の数年間で、デジタル変革はさらに加速し、広範囲に影響を及ぼすだろう。欧州がデジタル主権を持ち、その発展から応分の恩恵を受けることを担保しなければならない。また、デジタル革命と人工知能のあらゆる側面、つまりインフラや連結性(コネクティビティ)、サービス、データ、規制、投資に取り組まなければならない。こうした取り組みは、サービス経済の進展とデジタルサービスの主流化と並行して進める必要がある。
それと同時に、EUは特に欧州の研究、開発、イノベーションの分断化という課題に対処することで、人々のスキルと教育への投資を増やし、起業精神とイノベーションを奨励し、研究活動を強化しなければならない。未来に対する投資とは、インフラへの投資といった公共および民間の投資を奨励・支援し、EUの経済および中小企業などを含むビジネスの成長のために、資金を供給することでもある。
共通のルールや基準がますます疑問視される世界にあって、貿易分野などで公平な競争環境の構築を推進することが、極めて重要である。つまり、EU域内と世界での公正な競争を確保し、市場参入を促進し、不公正な取引慣行や、第三国からの安全保障上のリスクと闘い、EUの戦略的サプライチェーンを保護することである。
気候変動の影響がさらに明らかになり拡大している現在、人類の存続に関わる脅威に対応するための行動を、早急に強化する必要がある。EUは気候中立の実現を目指し、自らの経済と社会を抜本的に転換することで、こうした行動をリードでき、またリードしなければならない。また各国の状況を考慮し、社会的に公正な形で取り組む必要がある。
グリーン社会への移行が成功するかどうかは、加盟各国がそれぞれのエネルギーミックスを決定する権利を十分に尊重した上で、民間と公共部門から多額の投資を確保できるかどうか、効果的な循環経済を達成できるかどうか、そして統合・連結された十全に機能する欧州エネルギー市場を構築し、持続可能で安全なエネルギーを手頃な価格で供給することができるかどうかに懸かっている。EUは再生可能エネルギーへの移行を加速し、エネルギー効率を向上させ、域外からのエネルギー供給への依存度を低下させ、供給手段を多様化し、未来の移動手段のためのソリューションに投資していく。
これと並行して、EUは都市と地方の環境の改善、空気と水の質の向上、持続可能な農業の奨励に、引き続き取り組まなければならない。持続可能な農業は、食の安全の確保と高品質の生産を促進するために極めて重要である。われわれは生物多様性の喪失を食い止め、海洋を含む環境システムを保全することに率先して取り組む。
現在よりグリーンで、公正で、より包摂的な未来に向けての変化は、短期的にはコストと課題を必然的に伴う。だからこそ変化を起こし、地域社会と個人が新しい世界に適応できるように支援することが不可欠である。
また、こうした変化においては、社会的課題に細心の注意を払うことが必要である。特に若い人々に影響を及ぼす不平等は、深刻な政治的、社会的、経済的リスクをもたらす。世代、地域、そして教育面での格差が拡大し、新しい形の排除が出現している。EUは、男女平等や全ての人々の権利と機会の平等を確保しなければならない。これは社会的責務であり、経済的資産でもある。
十分な社会的保護や包摂的な労働市場、結束の推進、ならびに高水準の消費者保護と食品基準、そして医療制度への良好なアクセスが、EUにとって市民の生活様式を維持するために役立つだろう。そしてEUは、欧州のアイデンティティーの中核である文化と文化遺産に投資する。
EUは、多国間主義と世界的なルールに基づく国際秩序の推進役であり続け、寛容や公正、必要な改革を擁護し、国連と主要な国際機関を支援する。またEU は、気候変動に対する取り組みの方向性を示し、持続可能な開発と「2030アジェンダ」の実行を促進し、また移民問題についてパートナー国と協力することを通じてその影響力を行使し、世界規模の課題への対応を主導していく。
EUは他国を鼓舞するものとして、その比類なき協働モデルを推進する。EUは、加盟が可能でまた加盟を希望する欧州各国が有している、欧州への展望を支持する。そして意欲的な近隣政策を追求し、アフリカとの包括的なパートナーシップを構築する。われわれの価値を共有する国際社会のパートナーと共に、EUは世界の平和と安定に向けた取り組みを継続し、民主主義と人権を促進し続ける。
しかし、自らの利益と価値をより良く擁護し、新たな国際環境の形成を促進するためには、EUがさらに一致団結した姿勢を示し、より果敢にかつ効果的に影響力を行使することが必要だ。これは欧州の経済的、政治的、安全保障上の利益をより明確に優先し、その目的に向けて全ての政策を行使することを意味する。
この点では、公正な競争、互恵性、相互の利益を保証する意欲的で堅固な通商政策が、世界貿易機関(WTO)の改革における多国間のレベルと、EUとパートナー国の二者間関係の両方で中心的な要素となる。
EUの共通外交・安全保障政策(CFSP)と共通安全保障・防衛政策(CSDP)は、対応力と機動力を高め、対外関係のその他の要素との連携を強化しなければならない。EUはまた、 特に防衛への投資、能力開発、作戦即応性を強化することにより、自らの安全保障と防衛のために、より大きな責任を果たす必要がある。EU基本条約および欧州理事会によって定められた原則を全面的に尊重した上で、EUは北大西洋条約機構(NATO)と緊密に協力する。
大西洋岸のパートナーなど戦略的パートナー国や新興国との関係が、安定した外交政策を構成する主要な要素とならなければならない。そのため、EUと二者間レベルとの間に一層強力な相乗効果を生み出すことが求められる。EUは断片的なアプローチを避け、EUと加盟国のリソースを後ろ盾として一致団結して立ち向かうことでのみ、世界の大国と対等な立場で関わり合うことができる。
EU諸機関は、真に重要なことに照準を合わせなければならない。補完性と比例性の原則に従って、EUは大きな課題には大きく、小さな課題には小さく対応することが求められる。EUは経済・社会活動の当事者たちが、自由に活動し、創造し、革新を起こすことができるような余地を残さなければならない。また、市民や市民社会、社会的パートナー、地方や地域の当事者たちとしっかりと向き合うことが重要になる。
EUの諸機関は、EU基本条約の精神と条文に従って活動する。そして、民主主義や法の支配、透明性、市民間および加盟国間の平等の原則を尊重する。良きガバナンスは、合意された政策とルールを厳格に実施・施行できるかどうかにも左右されるため、この点は注意深く監視しなければならない。
諸機関と加盟国は協力して、豊富なリソースを共通の取り組みのために使わなければならない。地域や地方の当事者が抱える人材は、全体の取り組みに資するように活用すべきである。
この戦略的課題は、EU諸機関と加盟国が進めるプロセスの最初の一歩である。欧州理事会は、これらの優先課題の実行を注意深く見守り、必要に応じて全体的な政治的方向性と優先課題をさらに明確にしていく。
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