2018.8.6
FEATURE
日本とEUの間の経済連携協定(EPA)と戦略的パートナーシップ協定(SPA)が、2018年7月に署名されたことによって、二者間関係が飛躍的に進展することが期待される。本稿では、SPAで掲げられた4つの目標と具体的な内容を概説する。
2018年7月17 日、日本と欧州連合(EU)は5年間にわたる交渉を経て、両者間関係において重要な進展となる戦略的パートナーシップ協定(Strategic Partnership Agreement=SPA)と、経済連携協定(Economic Partnership Agreement=EPA)という2つの重要な協定に署名した。
高度な先進工業民主主義国・地域である日本とEUは、多くの利益を共有しており、二者間のみならず、国連や世界貿易機関(WTO)、主要7カ国会議(G7)、20カ国・地域会議(G20)といった、国際的かつ多国間の協議の場において、すでに緊密に協力し合っている。近年、こうした総合的な協力関係は拡大され、今では1970年代や80年代の通商を中心とした関係の範囲をはるかに超えつつある。両者が共有する基本的価値を基盤として、EUは2001年に日本と「共通の未来の構築」と題した協力強化のための共同行動計画を採択し、戦略的連携関係を確立した。また、双方の首脳は「日・欧州共同体(EC)共同宣言」が発出された1991年以来、日・EU定期首脳協議(日・EUサミット)を毎年開催している。
SPAとEPAは相互補完的な協定である。これら2つの協定により、日・EU双方の人々に具体的な恩恵と機会を提供することが期待されている。
SPAは、日本とEUおよびその加盟国との間で初めて結ばれた、二者間枠組み協定である。法的拘束力を有するこの枠組みの下、日本とEUの戦略的パートナーシップは今後、相互尊重、対等なパートナーシップおよび国際法の尊重という原則に基づき、以下の目標を達成することを目指す。
戦略的パートナーシップ協定(SPA)の概要
以上の目標を達成するために、SPAは以下のような二者間、地域的また世界的な広範囲の課題において、より強化された対話と連携を提供するものとなる。
日本とEUおよび加盟国は、SPAの下で、共通の価値と原則(民主主義、法の支配、人権および基本的自由)を引き続き支持し、国際的な場でそれらを促進することに貢献する。また日本とEUは、それぞれ第三国との関係において、共通の価値と原則を促進して実現するために協力し、調整を行う。
日本とEUは国際的・地域的な平和と安全を促進するため、また紛争を平和的に解決するために協力する。両者はまた、紛争から脱しつつある国々を共に支援し、危機管理活動の分野で力を合わせる。このほか、国際刑事裁判所(ICC)の目的遂行を支援する。核不拡散および軍縮に関する制度を強化し、通常兵器を巡る互いの政策や行動を調整するほか、不正な武器取引の防止・撲滅においても協力する。二者間・地域・国際のレベルで、テロや腐敗行為、国境を越えた組織犯罪や資金洗浄、不正な薬物の取引、サイバー犯罪などと共に闘い、化学剤・生物剤・放射性物質・核のリスクを防止・管理することで協力する。
開発分野でも、日本とEUは国家および国際的なレベルで政策を調整するほか、開発に関するそれぞれの機関との情報交換も含めて、協力し合う。緊急救援活動の調整を含め、災害の防止・軽減、災害への準備・対応でも協力する。
SPAは、経済・金融政策、運輸政策、産業政策、税関、租税、消費者政策、農業、漁業、雇用・社会問題の分野で情報や経験を交換し、対話と協力を強化していく中でEPAの実施に貢献する。
日本とEUの間の科学技術協力は、2009年に結ばれた日・EU科学技術協力協定の下で行われている。それに加えてSPAは、衛星測位システムの互換性や地球観測・監視を含む、宇宙政策に関する意見や情報交換を促進する。また、インターネットガバナンスやネット上の安全とセキュリティをはじめとする、情報通信技術分野での協力も強化する。さらに、国境を越えた保健に関わる問題や、病気の予防・管理に対する取り組みなどの分野でも、協力を促進する。
環境政策や気候変動に関する協力や、情報やベストプラクティス(最良の慣行)の交換を、日・EU間、また国際的な場の双方で促進する。SPAの下で、海洋における法の支配や、海洋の生態系・非生物資源の持続可能な管理とより優れた知識の促進など、海事についても協力する。さらに、地方自治体や市当局も巻き込みながら、都市政策分野での経験やベストプラクティスについての情報交換を奨励する。
非正規移民の防止・管理を含む、移民・難民政策の分野で対話を強化する。また、教育・青少年・スポーツ・文化の分野で、政策に関する意見・情報の交換を促進し、適宜共同事業や人的交流などの協力活動を奨励する。当分野における閣僚級対話は、2018年7月に開始された。これに加えて、日本とEUは観光分野での協力も強化する。
SPAにより、日本とEUはできる限りの範囲で協力することが可能になり、これを通じて両者は、双方が直面する多くの類似した地域的・世界的な問題を解決する際に、より効果的に取り組めるようになるだろう。これらの問題の中には、例えばサイバー犯罪との闘い、自然災害に対するより適切な対応、エネルギー安全保障の強化、世界的な脅威となっている気候変動への取り組み、高齢化などの社会問題、海洋安全保障への対応といった課題が挙げられる。
ルールにのっとった国際秩序への圧力が一層高まっている現在、SPAは日・EUの協力関係の礎である共有価値と共通原則を取り戻す一助となる。このようにSPAは、平和と安全を守り、自由で公正な国際体制を推進するための強力な手段を与え、さらに気候変動や持続可能な開発といった全世界的な課題に対処する際に、ルールに基づいた効果的な多国間主義を実現可能にするものとなるだろう。
この協定は、実質的な規定と並び、制度的枠組みも定めている。常設の専門委員会は、この枠組みを通じて、定期閣僚会合、また最頂点では定期首脳協議に対し、各分野での進捗を報告して対話と協力を提案していく。このように、SPAが規定するメカニズムは協力関係を監視するだけでなく、それが適正に機能して施行されることを確実にし、日・EU間の戦略的パートナーシップに新たな活力と柔軟性を与えるだろう。
日本とEUおよび加盟国は、今後、2つの協定の発効に向けて、双方での批准手続きを完了させる。協定締結の手続きには時間を要するため、双方は、SPA条項の大部分を暫定適用することに合意している。EU理事会はすでに暫定適用を承認しており、日本側の批准手続きが完了次第、当該条項の適用が始まる。
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